ブレゲの成熟を感じさせる新しい青文字盤とその仕上げ 「クラシック 7337」

FEATURE本誌記事
2020.07.22

ブレゲの「エキセントリック」と言えば、同社を象徴するアイコンのひとつだ。デザインのモチーフはかつてブレゲが手掛けた19世紀初頭の懐中時計。その意匠を受け継いだ腕時計が登場した1986年以来、12時位置にムーンフェイズを持つ「エキセントリック」が多くの時計愛好家を魅了してきたのは当然と言える。その最新作が、2020年発表の新しい「クラシック 7337」である。見た目こそ既存モデルに似ているが、時計としてさらなる進化を遂げた。

クラシック 7337

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

時計全体に広げた、精緻なギヨシェ仕上げが与える印象

 デザインのモチーフをかつての懐中時計からも得ているブレゲ。同社のアイコンである通称「エキセントリック」も、1823年に販売されたクォーターリピーター「No.3833」や、31年の複雑時計「No.4691」に範を取ったものだ。時刻表示を6時方向にオフセットさせ、文字盤の12時位置にムーンフェイズを置き、左に曜日を、右に日付表示を置くエキセントリックなデザインは、初出から2世紀近く経った今なお、まったく色あせていない。

 そのエキセントリックの最新作に当たるのが、2020年の新作「クラシック 7337」である。これは09年に発表された7337の最新版だ。前作と大きな違いはないが、ギヨシェの一部パターンとムーンフェイズが変更されたほか、新しくブルー文字盤が加わった。では、単なるマイナーチェンジなのかというと、それに留まらないのがブレゲのブレゲたるゆえんである。

 繊細なギヨシェ文字盤を好むブレゲは、できるだけ、そのニュアンスを留めようと努めてきた。事実、ブレゲの「クラシック」シリーズは、文字盤の表面に吹く保護ラッカーが極めて薄いと言われている。そんな同社が、ギヨシェを覆い隠してしまうペイント仕上げのカラー文字盤を採用するはずがない。メッキならば文字盤に浅く色を載せられるが、発色が難しい上、色味が安定しない。とりわけ、凹凸のある複雑なギヨシェ文字盤ならなおさらだ。ブレゲのクラシックが、カラー文字盤から距離を置いてきた理由である。

クラシック 7337

 しかしブレゲは新しい7337に、そのメッキ手法でブルーを与えてみせた。ギヨシェのニュアンスを損なわない浅い仕上がりはメッキならではで、複数本を見比べてもメッキ仕上げの文字盤にありがちな色のばらつきは皆無だった。しかもブルーは境目のギリギリまで載っている。真似できそうで決して真似できない文字盤だろう。併せてムーンディスクも変更された。ベースがラッカー仕上げなのは、星を表現すべく、アルミナとシリカの粉末を加えたため。ムーンは従来と同じ18Kゴールド製だが、彫金を施すことで立体感を与えてみせた。

 こういう細やかなモディファイはムーブメントも同様だ。搭載するのは、偏心ローターを持つ薄型自動巻きキャリバー502。基本設計をフレデリック・ピゲの極薄ムーブメント70/71にまでさかのぼる古典中の古典だ。ブレゲは、スウォッチ グループの傘下に収まって以降、振動数を毎時1万8000振動から毎時2万1600振動に向上させ、後に緩急装置をフリースプラングに変更。さらに脱進機やヒゲゼンマイを耐磁性のあるシリコン製に改めた。結果、現行のキャリバー502は、かつての3330や3337とはまったく別物と言って良いほどの精度と実用性を持つに至った。

キャリバー502

 加えて仕上げも進化した。2009年の7337が載せていたキャリバー502は、上質だがオーソドックスな仕上げを与えられていた。対して最新版のキャリバー502は見た目こそほぼ同じだが、仕上げは一層向上した。例えばローターの外周からのぞく地板。かつては全面ペルラージュで、その後、ペルラージュと筋目の併用になった。仕上げ自体は変わっていないが、地板に施されたごく浅い筋目は、光を当てる角度によって虹色に光るようになった。加工精度が高くなければ、筋目仕上げは決してこういう光り方をしない。また、受けの一部もエッジが強調された結果、より高級感が増している。過去のモデルと比較すると一目瞭然で、ブレゲは意図的に、エッジを立てたのである。もっとも、こういった違いはごくわずかなものだ。しかし、積み重なることによって、キャリバー502の見た目はさらに改善されたのである。

 精緻なギヨシェがもたらす印象を、時計全体にまで広げた新しいクラシック7337。ブレゲに距離を置いてきた人も本作は触って欲しい。本作が持つ圧倒的な統一感は、ブレゲが長い時間をかけて到達した、ひとつの頂点ではないか。

クラシック 7337

ブレゲ クラシック 7337
1986年に発表された3330/3337の後継機が、2009年に登場した7337だ。その最新版が本作である。目を引くのは、新しいパターンのギヨシェ仕上げと繊細なブルー文字盤。ディテールの改善に伴い、時計全体の完成度も一層高まった。素材違いとして、18Kローズゴールド×シルバー文字盤の組み合わせもある。自動巻き(Cal.502.3QSE1)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWG(直径39mm、厚さ9.9mm)。3気圧防水。466万円。

Contact info: ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


2020年 ブレゲの新作時計を一挙紹介

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/45273/
ブレゲの時計が放つ大人の魅力
4つの旗艦コレクションから主要なモデルを紹介

https://www.webchronos.net/features/40274/