誕生100周年を迎え、現代的に刷新されたカルティエ「プリヴェ タンク シノワーズ」

FEATURE本誌記事
2022.04.23

100周年を迎えた「タンク シノワーズ」がカルティエ プリヴェの6作目として新生した。レクタンギュラーに手直しされたニューケースはエッジ面が強調され、斬新な高揚感を強調する。

カルティエ プリヴェ タンク シノワーズ

カルティエ プリヴェ タンク シノワーズ
誕生から100周年を迎えたタンク シノワーズの現代解釈版。エッジ感を強調した“縦枠”の処理が斬新。手巻き(Cal.430 MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。右:18KPG、左:18KYG(縦39.5×横29.2mm、厚さ6.09mm)。世界限定各150本。共に予価341万8800円(税込み)。
星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]


エッジ感を強調した現代のタンク シノワーズ

カルティエ プリヴェ タンク シノワーズ

Maud Remy-LonvisⒸCartier
カルティエ プリヴェ タンク シノワーズ
今回のコレクションで最も希少なジェムセットモデル。ダイアル側に露出するムーブメントには、赤と青のシャンルベラッカーが施される。手巻き(Cal.9627 MC)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。Pt(縦39.5×横29.2mm、厚さ7.70mm)。世界限定20本。予価1128万6000円(税込み)。

 19世紀末から続いたベル・エポック(=美しき時代)の終焉と共に生まれたカルティエ「タンク」。後にアールデコと呼ばれる様式で作られた時計の先駆けのひとつであり、優に100年を超える歴史とともに、時計史に燦然と輝く名作となった。オリジナルの「タンク」(1917年製作、その2年後に発売)の創造に大きなインスピレーションをもたらしたルノーFT軽戦車が投入された第1次世界大戦が終わり、時代がレ・ザネ・フォル(=狂乱の時代)と呼ばれた1920年代へと移り変わると、多くのジュエラーが東洋美術の持つ表現の豊かさへと目を向け始めた。マシンデザインとキュビズムに集約されるアールデコ様式の手法は、その一方で大胆な異国趣味の導入も好んだ。

 1922年に誕生した「タンク シノワーズ」は、中国寺院の正門などに代表される、オリエンタルかつ幾何学的なイメージを表現したもので、ダイアル上下の〝横枠〞に大きなボリュームが与えられていることが特徴。このモチーフは「タンク」のみならず、後に「トーチュ」などにも応用されていった。

 原点となった「タンク シノワーズ」から100周年を迎えた今年、このモチーフには「カルティエ プリヴェ」の6作目として新たな息吹が加えられた。ピアジェ由来の薄型手巻きムーブメント「430 MC」を搭載するソリッドバックのモデルは、縦横比が約4:3となる端正なレクタンギュラーシェイプを選択。オリジナル同様に豊かな膨らみを持たせた “横枠” に対し、ラグのプロポーションへとつながってゆく “縦枠” には、明確なエッジ面が加えられている。

タンク シノワーズ

Eric Sauvage, Cartier CollectionⒸCartier
カルティエ パリが製作したオリジナルの「タンク シノワーズ」。写真は1930年に製造された個体だが、オリジナルが持つ雰囲気に極めて近い造形を持つ。スクエア状のプロポーションや、リュウズに設けられたカボションカットのサファイア、何よりケースの断面形状に丸みを持たせている点が、現代版と異なる。

 100年の歴史の中で、プロポーションを微妙に変化させながら、「タンク シノワーズ」も何回か製作されてきたが、ここまで明確なエッジラインがケース造形に盛り込まれたのは本作が初だろう。筆者はその決して小さくはない変化に感銘を受けたひとりで、クセのない素直なプロポーションに、使い勝手の良さが感じられた。

 一方、ムーブメント自体に大胆なスケルトナイズを施した「9627 MC」を搭載するモデルは、より直接的に中国的なサヴォアフェールを感じさせる。一般に「シノワズリ」として知られるアールデコジュエリーの様式は、黒と金、黒と赤、または黒とダイヤモンドといった強い色彩のコントラストを大きな特徴とするが、9627 MC搭載の「タンク シノワーズ」は、まさにこの文法に則ってデザインされているのだ。

 ダイアル側から覗く地板部分には、中国建築の格子窓を想起させるスケルトナイズが施され、18KYGモデルに搭載される金地のムーブメントでは黒と赤、プラチナケースに搭載される銀地のムーブメントには赤と青のシャンルベラッカーも盛り込まれている。さらに18KYGモデルでは、ケースの横枠にもブラックのラッカーが施される凝りようだ。また430 MC、9627 MC搭載モデル共に、プラチナケースが用意されているが、1920〜30年代に作られたアールデコジュエリーにいち早くプラチナを多用したのもカルティエだった。

 カルティエ インターナショナルを率いるシリル・ヴィニュロンの言に従えば、新しい「タンク シノワーズ」も熱心なコレクター向けの時計とのこと。古のカルティエに熱狂するオークションシーンを俯瞰しつつ、往年の名作に現代的な解釈を加えることがなにより重要だと語る。惜しむらくは、コレクターズピースだと明確に定義されたことによる、極めて少ない生産本数だろう。パーマネントコレクションへの昇華を強く願う良作だ。



Contact info: カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-301-757


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