新型ムーブメント研究2016

2016.08.03

ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ
ヒストリカルピースを手本にした最適な音を奏でるため、雑音を低減したサイレントガバナーやゴングの音を増幅するための音響盤など、複数の特許を取得。ゴングを固定した音響盤でムーブメントを密封することで防水性能も確保した実用的なミニッツリピーター。手巻き(Cal.2937)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti(直径44mm)。20m防水。価格未定。

Royal Oak Concept Supersonnerie

 今年はミニッツリピーターの当たり年である。その中でも、伝統的な技術と最新の研究成果を融合させ、見事なシナジーとして完成させたのが、ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリだ。その開発に大きく関わったオーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピ氏によると、その開発は大きくふたつのアプローチから進められたという。ソフト面とハード面。すなわち、音の研究と、音を実際に発生させる機構の開発である。

「まず、過去のミニッツリピーターの音を研究し、最も心地よい音を探り当てました。その結果、選ばれたのが1924年製造のキャリバー11SMV#5を搭載したミニッツリピーターです。これが約8年におよぶスーパーソヌリの研究開発において音色の指針になりました」

 音の手本を探り当てただけでなく、従来は時計師の耳と経験、そして口頭による伝承にのみ頼っていたゴングの調整において、作業をより正確かつ効率的にするために、手本となる音の振動数を正確に測定・分析、〝振動〟として科学的に解釈し、それをゴングの振動に再現するためのソフトウエアを、ローザンヌ工科大学と共同開発した。これによって、求める音を明らかにし、それを通常のスティール素材を使用したゴングの製造法に反映させたのだ。

(右)スーパーソヌリの拡大模型を使って、音を増幅する仕組みを解説するオーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピ氏。パピ氏が手に持っているのはゴングを固定した音響盤とその外側を覆う開口部を設けた裏蓋の模型。(中)ゴングを固定した音響盤の実物。音響盤の内側にゴングを固定し、この面をムーブメント側に向けてパッキンを挟んで密封するため、2気圧の防水性も確保できた。(左)音響盤の実物。内側に固定されたゴングがハンマーで叩かれると、その振動がこの面から裏蓋内側の空洞に伝わり、ギターと同じ原理で振動が増幅され、裏蓋の開口部から外部へ拡散される。

スーパーソヌリの核心技術であるケース構造。通常のミニッツリピーターでは、ゴングは裏蓋側に向かって振動を拡散させるが、スーパーソヌリでは、その構造にもう一段階を加えた。音響盤に固定されたゴングはムーブメント側に密封され、ハンマーがゴングを叩いて得られる振動は、音響盤を介してその外側を覆う裏蓋が設ける空洞に伝達され、増幅される。弦を張ったギターのサウンドホールと同じ原理だ。

 他方、ゴングが奏でる音をいかに増幅するか、そして、その音をいかに雑音を排して聞き手の耳まで届けるか? この点に関して、物理的に機構の研究開発を行った。

「機構面でのポイントは大きくふたつ。ひとつは音を増幅させるための音響盤。そして、もうひとつが、雑音を取り除くためのサイレントガバナーの改良です」

 前者に関しては、従来のように、ゴングをケースやムーブメントに固定するのではなく、新たに音響盤を設け、そこにゴングを固定して、ムーブメントをケースと音響盤の中に収めた。つまり、密封したケース内で、ハンマーがゴングを叩き、その振動が、ゴングが固定された音響盤に伝わり、音響盤はその外側を覆う裏蓋が設けた空洞の中でその振動を増幅させ、裏蓋の開口部からその振動を外界に伝達する。実際に、スーパーソヌリの音を聞いてみればよく分かるが、まるでギターのように音響盤と裏蓋の間で増幅された振動は、5mほど離れた人の耳にもはっきりと美しい音色を届けることができる。結果として、防水性を確保することにも成功した。

(右)新機構を開発する際には必ず模型を作って検証するのがオーデマ ピゲ・ルノー エ パピの流儀。今回のスーパーソヌリでは、ハンマーがゴングを叩くスピードを調整するガバナーが発する歯車とレバーの機械的な接触音を低減することが課題のひとつであった。それを改善したサイレントガバナーにおいても模型は作られた。ジュリオ・パピ氏が手に持っているのが従来のガバナーの模型で、その右側に見えるのが今回のサイレントガバナーの模型。(中)今回、改良を加えたサイレントガバナーのスティール製ブレードの実物。板状のブレードを折り曲げ、バネのように弾性を持たせることで、ブレードが歯車と接触する際の機械的な接触音を大幅に低減した。(左)これは既存のガバナーのレバー。形状の違いに注目。

今回のロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリの開発に大きく関わったオーデマ ピゲ・ルノー エ パピのジュリオ・パピ氏。最適な音色を大きな音量で奏でるミニッツリピーターの開発に、音の研究と機構の開発というソフトとハードの両面から挑んだ。結果、伝統的なミニッツリピーターの機構を生かしながらも、かつてないほど良質な音色で豊かな音量のスーパーソヌリの開発に見事成功した。

 後者のガバナーに関しては、分析の結果、伝統的な機械的接触によるガバナーの場合、その雑音の約9割が歯車とレバーの接触音で、約1割がそのレバーがストッパーに当たることによって生じる音であった。そこで、既存のレバーをスティール製のブレードに替え、このブレードにバネのような柔軟性を持たせることで、歯車との接触音を大幅に低減することができた。

 心地よい音質と十分に増幅された音量、そして、実用性に耐える操作性と防水性。伝統的な機構に最新の研究成果を投入した唯一無二のミニッツリピーターが〝スーパーソヌリ〟と呼ばれるのには、これだけの理由があるのだ。(鈴木幸也:本誌)

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