多くの時計愛好家が求めるパテック フィリップ。「100年の責任」を掲げるブランド哲学

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2024.03.14

2023年末、パテック フィリップはフィリップ・スターン現名誉会長の、85歳の誕生日を記念するトリビュートモデルを発表した。このモデルに搭載されたムーブメントは、本作のみのために開発され、今後決して搭載されることのないものだ。パテック フィリップは、こうした哲学にも表われるように特別な存在であり、作られる腕時計は多くの時計愛好家にとって「聖杯」とも呼ばれてきた。同社の在り方について、改めて注目したい。

PP6

ジュネーブ市郊外プラン・レ・ワットにある、パテック フィリップの工場「PP6」。2015年に着工し、2020年に完成した。
Originally published on Montres De Luxe
[2024年3月14日公開記事]


「100年の責任」を掲げて紡がれる、クラフツマンシップとブランド哲学

 多くの時計愛好家にとって、パテック フィリップの腕時計とは長年追い求める「聖杯」であり、究極の時計である。では一体何が、コレクターにとってこのブランドをかくも特別なものにしているのだろうか?

 パテック フィリップは約25年にわたり、「気持ちを刻み込んで、その時計は受け継がれる。父から子へ、世代から世代へ」というキャッチコピーを掲げてきた。時計業界における、もっとも美しいコミュニケーションのひとつである。

 だが、これがすべてを物語るわけではない。パテック フィリップの時計は確かに継承されていくものではあるが、それだけではないのだ。

ワールドタイム・ミニット・リピーター 5531G

レマン湖の風景が描かれた「ワールドタイム・ミニット・リピーター 5531」。手作業による七宝細密画には、半透明と乳白色の20色の釉薬パレットが用いられ、七宝細密画家が豊かなニュアンスを表現している。

 パテック フィリップとは、まさに高級時計の象徴ともいえる存在だ。品質の確かなスイス製の時計であり、ジュネーブで誕生したこのブランドの工場やミュージアムは、現在もジュネーブに位置している。

 時計好きの多くが、いつかパテック フィリップが1853年から所有する建物の最上階にある、有名なサロン・パテック フィリップへ行き、窓からレマン湖を見渡したいと夢見ていることだろう。

 このように、パテック フィリップを特徴づけるのは、その在り方、そして評判と人気を生み出す高度な技術なのである。

ゴールデン・エリプス5738

パテック フィリップの「ゴールデン・エリプス5738/50P」。文字盤の装飾はすべて手作業による彫金だ。

 時には工業的に、時には手作業で行われる製造工程は、完成までに時間のかかる、ある意味「時間を消費する」ものだ。「家族経営ですから、急ぐことは敵なのです」と、パテック フィリップは強調している。

 ケースや文字盤、ムーブメント、ストーンセッティングなど各部門において、パテック フィリップは数十年にわたり、専門的な職人技を培ってきた。

 これが、パテック フィリップが生産数を大幅には増やそうとしない理由のひとつである(現在の年産量は約7万本と推定される)。

プラン・レ・ワットにある工場「PP6」

PP6

「PP6」では時計の開発、製造が行われている。

 2020年から、パテック フィリップはすべての時計製造をジュネーブ近郊のプラン・レ・ワットにある10階建ての工場に集約している。

 この大型船のような形をした建物に、高度な職人技が集結しているのだ。

 この工場の基本方針は、今後20年、30年にわたるブランドの成長を確かなものにし、長期的な独立性を保証する特別な生産手段を備えることにある。ファミリービジネスであることを考えれば、この考え方は重要なものだ。

クロワゾネ七宝

東京の地図がクロワゾネ七宝で描かれた、パテック フィリップのテーブルクロック。

 現在のパテック フィリップにおいて、複雑時計はカタログ上のモデルの約半数を占めている。年次カレンダー、ウィークリー・カレンダー、トラベルタイム、ワールドタイムなどの「実用的な複雑機構」はますます重要性を増し、特殊機構の数を増やしている。

 パテック フィリップの設計哲学は、これらの複雑時計、特にグランド・コンプリケーションの操作性をシンプルにし、安全性、信頼性を高めるために多くの試行錯誤が繰り返されてきた。

 その結果、1本の時計の生産のために必要な工程数とパーツ数は多くなっている。つまり、製造と組み立てに多くの時間が必要なのである。

東京 2023 リミテッド・エディション・ミニット・リピーター・ワールドタイム 5531

「東京 2023 リミテッド・エディション・ミニット・リピーター・ワールドタイム 5531」の、スライダーが配されたケース側面。

 当然のことながら、パテック フィリップは極めて多様なコレクションを維持しており、160種類以上のモデルを取り揃えている。これらは、数十本から数百本までの小規模な単位で製造され、常に100%「自社製」の膨大な種類のムーブメントを搭載しているため、生産スペースも必要となる。

 さらに、高度な技術を要する時計の開発・製造には、膨大な時間と専門知識が必要とされる。

 工場内のスペースは、5つの大きなブロックに分かれている。1階と2階はムーブメント部品の製造と手作業による仕上げ、3階は時計部品の機械加工、手作業による研磨、組み立て、そしてジェムセッティングに充てられている。

カラトラバ 24時間表示トラベルタイム

「カラトラバ 24時間表示トラベルタイム」Ref.5224。ネイビーブルーの文字盤には、手作業で植字されたローズゴールドのアラビア数字とインデックス、カボションの5分マーカーを配し、コントラストを持たせた仕上げが施されている。

 通常の生産に加え、この工場ではアフターサービス業務のための、交換パーツの製造・在庫の保持も行っている。充実したアフターサービスは、ヴィンテージモデルの修復と合わせて、パテック フィリップの成功の鍵のひとつである。

 4階には新素材や新技術(パテック フィリップ・アドバンストリサーチ)の研究開発部門、高級時計工房、そして極秘で行われるプロトタイプ製作のための部門が置かれている。

 5階はパテック フィリップが守り続けている優れた職人技術(ハンドエングレービング、エナメル加工、ギヨシェ彫り、木象嵌など)を発展させ、継承させるための空間だ。6階には、周辺の景色と山々を一望できる880席のペントハウスレストランと、4つのVIPラウンジを備えている。

5373P

スプリットセコンド・クロノグラフと永久カレンダーを搭載した、左利き用のグランド・コンプリケーションである「5373P」のケースバック。

 残りの地下4階には、635台を収容する駐車スペースがある。

 余剰スペースは今後20年、30年にわたって会社の成長に寄与するだろう。

 パテック フィリップの時計は「100年の責任」というスローガンの通り、1世紀、そしてそれ以上の年月、完璧に機能することを目指したものだ。この長期的な展望は単なるスローガンではなく、ティエリー・スターンの個人的な決意なのである。

カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 7234G-001

視認性の高さとエレガンスを兼ね備えた「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 7234」。



Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109


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