ロジェ・デュブイのCEOとなったのは、長らく同社に在籍していたデビッド・ショーメだ。彼はリシュモン グループの本社を経て、スイスを含むヨーロッパ、香港やアジアパシフィックの責任者を務めた後、5年間、ボーム&メルシエでCEOを務めた。
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]
「私たちは時計の価格よりもむしろ価値を語りたい」

ロジェ・デュブイCEO。1973年、フランス生まれ。フランスのトタルなどを経て、2008年にロジェ・デュブイへ入社。西ヨーロッパやアジアパシフィック市場でプレジデントなどを務めた後、15年からボーム&メルシエのCEOとなる。24年6月より現職。エリートと思いきや、リシュモン グループによる買収直後からロジェ・デュブイに携わってきた彼は、新旧を含めて同社のプロダクトを知悉する“ウォッチガイ”だ。
「ロジェ・デュブイに戻ったらと言われたのは、2023年のクリスマスの頃だったでしょうか。とてもうれしかったですよ。再びロジェにつながれるのはね」。共同創業者のロジェ・デュブイのそばで共に仕事をした彼は、確かにリシュモン グループの誰よりも、ロジェ・デュブイを知悉した人物だろう。そんな彼は同社の強みをどう考えているのか?
「他社に比べると30年という歴史は短いですね。でも、やってきたことはすごいのです。すべてのチームがひとつ屋根の下で活動し、しかもアジャイル(機敏)。これが強みです。私たちにはQLABという部署があり、そこではムーブメント開発チームやデザイナーが一緒に話し合うのです」
現在、ロジェ・デュブイは主にスケルトンとモータースポーツとの関わりを強調することで大きな成功を収めた。では今後、他の柱を打ち立てる予定はあるのか?
「私たちは30年前からピラーを持っています。継続性、創造性、スタイルなどでね。そしてスケルトンをシグネチャーにした後、モータースポーツともコラボしてきた。そのおかげで、ロジェを知らない人にも知ってもらえたのです。ですから私たちは、時計製造の分野でも、モータースポーツや、その現場とともに開発し、創造し、革新していきたいと思っています。もっとも、これはすべてではないですよ。私たちはウォッチメーカーですからね」

大胆に肉抜きされたスケルトンウォッチの名手であるロジェ・デュブイの最もシンプルで代表的なモデル。ステンレススティールよりも33%軽量なグレード5のチタンをケース素材に採用し、装着感は一層軽快だ。香箱を支えるスケルトナイズされた星型の受けも、今や一目でロジェ・デュブイだと認識させるアイコニックな要素である。自動巻き(Cal.RD720SQ)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.7mm)。10気圧防水。1001万円(税込み)。
現在、ラグジュアリーのマーケットは大きく伸びている。ロジェ・デュブイは単価を上げる予定はあるのか?
「私たちは価格については話しません。なぜなら、私たちはむしろ時計に組み込まれている価値を話したいのです。重要なのは、顧客にとって価値のある腕時計を製作すること。そして私たちが、その腕時計が何であるかを説明できることです。現在、世間にはかなりの価格を維持する時計もあります。でも、それは感情を揺さぶるようなものではなく、株の取引のようなものがもたらした結果、かもしれませんよね」
他の方向性を示唆した彼は今後、どういった新作をお披露目するのだろうか?
「詳しくは言えませんが、私たちは再び、初期のロジェ・デュブイとつながりたいと思っています。つまりは、初めてのデザインと時計からインスピレーションを受けた時計になりますよ」