2025年の新作G-SHOCK「MTG-B2000YBD-2AJF」を、時計専門誌『クロノス日本版』編集部のメンバーが数日間着用のうえ、勝手に討論する。討論は本作の外装レベルから感触、機能、ついにはカシオ製品内でのポジショニングやコレクションの将来性にまで及んだ。本作の何が、編集部をここまで熱くさせたのか? 討論会のメンバーは編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、編集部の細田雄人、そして文字起こし要員の鶴岡智恵子で行った。
タフソーラー。フル充電時約29カ月駆動(パワーセーブ時)。SS×カーボンファイバー強化樹脂ケース(縦55.1×横49.8mm、厚さ15.9mm)。20気圧防水。18万1500円(税込み)。
Photographs by Senta Murayama
鶴岡智恵子(クロノス日本版):文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年5月9日公開記事]
G-SHOCKの2025年新作「MTG-B2000YBD-2AJF」を編集部で討論
細田「今回のモデルは、ステンレススティールを使ったG-SHOCK『MT-G』シリーズの新作『MTG-B2000YBD-2AJF』です。MT-Gの2000系自体は定番モデルですよね。MT-Gの第3世代ですかね。カーボンコンポジットとステンレススティールの合わせ技のモデルです。昔、弊社の名畑さんが取材して、このシリーズのケース構造などを詳しく記事にしているので、討論会ページにはリンクを貼っておいてください(該当記事:https://www.webchronos.net/features/56677/)」
鈴木「耳の部分、いわゆるミドルケースはカーボンモノコックが外側に出てるってこと?」
細田「そうです。元々のMT-Gって、SSのケースバックとベゼルに対してインナーケースがあって、それをケースバックとベゼルで挟み込む形にしていたんですけど、MTG-B2000ではSSのフレームの中にカーボンモノコックケースを入れ込んで上からベゼルで抑えるという構造になってるんです。だからケースバックも、カーボンモノコックです」
鈴木「やっぱり、見えてる部分がカーボンモノコックなんだね。ケースバックからこの両側の耳の部分」
細田「そうです、そうです。で、MTG-B2000の中でもバリエーションがあって、今回皆さんに着けてもらったモデルはレギュラーのMTG-B2000YBDになります。純粋なカーボンコンポジットになっているだけじゃなくて、さらにブルーグラスファイバーシートで模様が出るようにしています。何のグラスファイバーなんだろう? とにかく、カーボンとグラスファイバーの合わせ技になっています」
鈴木「このグラスファイバーって厚いの? これで強度が出るの?」
細田「単純に意匠だと思います。オールカーボンのモデルもありますしね」
鈴木「デザインは面白いよね。カーボンの編み込みもあれば、層になってるものもあって。凝ってるなと思いました」
見た目の高級感とギャップのある軽快さ
鈴木「あと、とても軽い。(SS製だが)一瞬チタン製かと思ったくらい。実際着けるとメタルな、重厚な見た目だから、より軽く感じて、その点がすごく印象に残りました」
広田「高級感もうまくなりましたよね。カシオは、ようやく『分かりやすい高級感』が出てきたと思います。具体的にはケースの仕上げ。ラグジュアリースポーツウォッチが良い例ですが、最近のお約束として、ポリッシュとサテンの仕上げを併用して高級感を出す手法があります。カシオは、かつて全面ポリッシュ仕上げという古い手法をやっていました。これは作るの大変なんだけど、ユーザーにとって分かりやすい高級感は出しにくいというのがあって、そういうのを現在のMT-Gが学んできたなというのはありますよね」
鈴木「確かに20年以上前、全面ポリッシュでSSに高級感を感じた時代はありましたよね」
細田「僕はいまだに、ブライトリングであった全面ポリッシュしたモデル、すごく良いと思いますよ」
鈴木「あれはSSの塊感に対してのポリッシュという意外性もあって、今見てもかっこいいよね。ブレゲの昔の『タイプXX』も、全面かは覚えてないけど、“ポリポリ”だったよね。自分も結構好きだけど、広田さんが言ったように、仕上げのコンビネーションによってかっこいい、立体感がある、高級感があるという表現は、“ラグスポ”と共通する巧みさを感じるよね」
広田「今の高級時計って、立体感を強調するのを重視してますからね。ポリッシュとサテン仕上げの併用というアプローチが、カシオも成熟してきた。ただ、ブレスレットのコマ同士を、少しずらせばピンが見えるところまでクリアランスを残してるっていうのは、もう少し詰められるかなと」
一同、ブレスレットは「もう少し詰めてほしい」
細田「ブレスレットもSSですが、コマが中空になっていて、その中空の部分に樹脂製のパネルをはめ込む形になっています」
鈴木「ああ、この裏側?」
細田「はい。この構造は軽量化のためです。腕時計の重量は、カタログ値では131gなんですけど、(ブレスレット調整で)コマを外した今の状態では125gでした」
鈴木「ブレスの裏側に樹脂がはめ込まれているのは、(軽量化だけではなく)肌に金属が直接当たらないという点でも良いよね。隙間もできるから、汗をかいた場合にも蒸れない、良い仕様なんじゃないかな」
細田「アレルギーとかは出にくくなりますよね。ちなみに抜けているコマは、削り出しではなくMIM(金属粉末射出成形)で作っています」
鈴木「複雑な形状は型があれば作りやすいから、それは合理的だね」
細田「実はカシオは、MIMを最初に使った時、精度が高いものが作れなくて一回取り止めているんですよね。ただ、このシリーズのMTG-B2000という新世代が出るタイミングで、MIMの精度が上がったこともあり、復活しました。ちなみに昔は軽量化のために、コマに結構穴とか開けていたんですけどそういったこともなくなって、見た目的にスマートになりましたね」
鈴木「広田さんの言うように、ブレスレットはもう少し詰めてほしいけど、ここを詰めると価格が上がりそうだよね。ただ、もう少し高くなっても良いかな。見た目の高級感に対しての軽さのギャップというのは非常に意外性があって面白い時計だと思うけど、率直に言うと、最初に手に持って着けた時、ブレスレットがカチャカチャするのが残念だった」
鶴岡「なぜですか?」
鈴木「どうしても安っぽく感じるよね。チタンも軽いけど、こんなカチャカチャしないし……MIMで中空に抜かれてる部分がカチャカチャ鳴るのかな? 無垢材を使ったSSのブレスであってもカチャカチャするものが昔はあって、ただそれを各社は直してきた。そう考えると、この感触は高級機にはふさわしくないかな」
細田「そうですね、カシオは『重厚感』っていう表現をブレスレットに使っているけど、重厚感はカチャカチャとは合わないですよね」
鈴木「見た目、質感の重厚感は出てるけどね。まぁ軽さを追求しているから仕方ない部分もあるけど、音はどうにかしてほしいかな」
細田「コマ同士の遊びは減らしても良いかもしれませんね」
鶴岡「この遊びって、耐衝撃性のためなんじゃないんですか?」
広田「G-SHOCKは耐衝撃性を上げるため、部品同士のクリアランスをとるというのは前提としてあります。つまり、高級時計としてのハンデが大きいんですよね」
鈴木「高級感とは相反しちゃうよね。難しいポイントですね」
細田「軽量だし、デュアルコアガード構造によってカーボンモノコックケースでモジュールを包んで中空構造にしているという点で耐衝撃性はクリアしていると思うので、ブレスレットのクリアランスをもっと詰めるのは(耐衝撃性としては)問題ないとも思いますが、どうでしょうか?」
広田「G-SHOCKは、ブレスレットも含めての耐衝撃性なんですよね。ブレスレットは衝撃に弱いから、部品同士のクリアランスを持たせるというアプローチを取ってきたけど、まだ詰められる」
細田「例えば、ジラール・ペルゴの『キャスケット』はセラミックスで製造されているけど、コマは詰めてるんですよ。ブレスレットもセラミックスだから当然ぶつかれば割れますよね。だからMT-Gと同じくブレスレットの裏側に樹脂製の素材を貼っていたんですけど、その樹脂が弾性があって。この仕様だと衝撃を吸収するし、コマ同士が当たった時に音が鳴りません。MT-Gも、弾性のある樹脂素材を検討しても良いんじゃないかな」

2022年に発表されたキャスケット。ちなみに2024年発表モデルはチタン製だが、やはりブレスレットの裏側に弾力のある樹脂が貼られていた。クォーツ(Cal.GP03980)。セラミックス×Tiケース(縦42.4×横33.6mm、厚さ14.64mm)。50m防水。世界限定820本。完売。
MT-Gの「難しさ」
細田「チタン製のMR-Gはカチャカチャ鳴りませんが、MR-Gがあるから、MT-Gではチタンを使いにくいんでしょうね」
鈴木「MR-Gは、チタンの仕上げレベルが高くなってるしね。その点で差別化しているのは良いと思います。ただ18万1500円(税込み)という価格を考えると、見た目の重厚感や高級感を出せているだけに、手に持った時に(カチャカチャ音が鳴るのが)もったいないなと思いました。普段から高級時計を着けてる人って、見た目以上に感触を大事にしているし、そうするとMT-GよりMR-Gの方に流れちゃうかもね」
細田「MR-Gが伸びてる中で、MT-Gって立ち位置が難しいコレクションになりつつあるかな、と。高級時計を購入してきた人の普段使い用としてはMR-Gが選択しやすいだろうし、じゃあMT-Gはライトな層を狙おうってなった時、ライトユーザーが18万円以上のお金を出して時計を買うって、結構冒険だし……『フルメタル』シリーズがアンダー10万円で買えるというのも、ライトユーザーをターゲットにした時に難しい問題になりますね」
鈴木「だからこそ、カーボンモノコックケースを使っていたり、グラスファイバーを使って意匠で凝っていたりといった点はとても評価できるよね」
文字盤からも分かる高級感
細田「あと、毎度の話ですが、文字盤の質感も良いですよね。現在、さまざまな手法のソーラー発電がありますけど、このモデルは王道のポリカーボネートで、文字盤下のソーラーセルまで光を通すという典型的なもの。にもかかわらずプラスティック感が出ないようにというのは相変わらずカシオはうまいなと。ちなみに時間の見やすさは、いかがでしたか?」
鈴木「アナログだから直感的に時刻が分かるし、針も太いしインデックスも太くて立体的に見せてるから、斜めから見ても時間を読み取りやすくて、そこは問題なかった。ところで、風防にコーティングってされてるの?」
細田「内面にされています」
鈴木「そうなんだ。コーティングされている割には、斜めから文字盤を見た時、光ってしまって時間が分かりにくかったんだよね。特に強い光源だと、時間を見にくかった」
細田「ダイヤモンドカットされたインデックスが、そのあたりのキラキラ感を強調しますしね」
広田「MR-GもMT-Gも、早い段階からクォーツに太い針を載せようとしてきました。僕の知ってる限りで言うと、国産ブランドの中で、クォーツの針を太くして視認性を上げるというのは、カシオのプロトレックがいち早くやってる。(クォーツはトルクが弱いので)薄く、軽くして、面積を増やすという手法です。G-SHOCKのマッシブなデザインに合うようにしているんです」
鈴木「視認性や存在感は、他の高級時計に負けてないですよね。G-SHOCKのアナログって言うと、『AW-500』があるじゃないですか。あの頃から針は太かった。頑張ってますね」
広田「カシオはアナログ技術を持たなかったと言われているけど、いやいやそんなことはないぞ、と。少なくとも、トルクの弱いクォーツで太い針を回すという点では、良いことをやってきた。MT-GとかMR-Gなどの高価格帯でも、他社の高級時計と引けを取らないものを作れる理由はそこかなと。針は薄いから、理論上はたわむんだけど、多分たわんでも耐衝撃性として問題ないレベルにしているのもすごい」
鈴木「(文字盤と針との間に)十分に余白を取ってますよね。立体感を与えることで、クリアランスを気にならなくしている点も上手。インデックス、針、そして文字盤と針の間の余白を含めた立体感として、表現につなげている。耐衝撃性を持たせるために、針がたわんでも問題ないくらいのスペースを取りつつ、それが同時に審美性になっている」
機能は直感的な分かりやすさがほしいところ
鈴木「外装が良いだけに、機能が分かりにくいというのは残念なポイントでした。そもそも論で、MT-Gに限らず、コネクテッドウォッチ系とかソーラー電波ウォッチ系とか、使い方が分からないものが多い。デジタルウォッチならモード切り替えでいじってれば分かるけど、アナログだと、どこをどうすれば何を合わせられるのか分からない」
鶴岡「モバイルリンク機能は使いましたか?」
細田「以前に討論会を行った時(記事:https://www.webchronos.net/features/103223/)はモバイルリンクで設定してみたんですけど、今回は登録できず……手動で時間を合わせました」
鶴岡「発売前の新作だからかもしれませんね。モバイルリンク、めっちゃ便利ですよね」
細田「時計だけでも自動で標準電波で時刻修正してくれるんですけど、モバイルリンクを使えば、スマートフォンと接続した時点で修正してくれますし、ワールドタイムも、任意のタイムゾーンにワンタッチで合わせられるのが便利ですよね。MT-Gの機能を独立しては使いにくいけど、スマホありきなら使いやすいかな」
鈴木「今はスマホも、海外行けば自動で電波を拾って時間が変わるしね。Bluetoothでつなげれば、時計側で時刻を設定する必要はないね。ただ手動で合わせる時に、直感で分からないというのは、この手のアナログ電子ウォッチの最大の問題ではないかな?」
細田「せっかくボタンでいろいろな機能、例えばストップウォッチとかワールドタイム、アラームとかがあるのにもったいないですよね。あと、いつ設定したかも分からないようなアラームが夜中に鳴ったりとか(笑)」
鈴木「自分が使ってるG-SHOCKも真夜中の12時にアラームを設定したまま、解き方が分からないから使ってる。まぁ深夜残業の時の終電アラームとして使ってるけど(笑)。気軽にちゃちゃっと直す気にならない使い勝手の悪さというのはどうしようもないのかね。いちいち説明書見たくないし。機能はシンプルな方がありがたい。そこが気になる」
鶴岡「機能が少ないのは良いんですか? せっかく18万円以上もするんだし」
鈴木「多機能を目指すと使い勝手が悪くなり、訴求ポイントもボヤけるんだよね。むしろ絞った方が良いんじゃないかな。以前、広田さんとカシオの元社長・増田裕一氏にインタビューした時、そういう話になって。多機能を目指しすぎて、今で言うところのガラパゴス化してしまったんだよね。デジタルならギミックがあると楽しいけど、アナログは、やはり直感で使いたい」
広田「難しいところですよね。ただ、現在カシオはG-SHOCKもMT-GもMR-Gも、モジュールがある程度共通していますよね。だから将来的にはMT-G専用、MR-G専用、などのように、まったく新しいインターフェースを持つようなモジュールが出てきても良い時代なのかなと思います」
細田「価格差を考えれば、本来はそうするべきですよね」
「高級時計に“なった”」G-SHOCK
広田「MT-Gは今のところ、立体感や高級感という文法は押さえているので、インターフェースが詰まるとなお良いですね。ただ、全然悪くない。カシオも高級時計を作り慣れてきたな、と」
鈴木「パッケージングが上手になってきましたね。MT-GもMR-Gも、高級時計になりましたよね。だからこそ、今より一歩先の、普段から高級時計を着け慣れている人をターゲットに入れる時、リュウズやブレスレットの感触は大事だと思います。MT-Gでは金額的に難しいところもあるかもしれないけれど、ここまで進化してきたので、さらなる成熟もできるだろうと期待したいと思います」
広田「MR-Gを高級ラインにするなら、MT-Gは一般的なG-SHOCKとの中間にあって、実験的な要素を入れていくようなコレクションとして成熟していけば、立ち位置はより明確になるでしょうね」
細田「カラフルな路線とか、素材とか、自由にやってほしいですよね。あと、G-SHOCKって結構ストリートファッションとの親和性が高いですよね。MR-Gは高級路線だからこそ、そういったジャンルと切り離したところにいますが、逆にMT-Gは“ストリートのお高級版”とかやっても面白いかもですね」
鈴木「MT-Gが『新しいことをやる高級G-SHOCK』という立ち位置は腑に落ちるよね。価格的にも非常にやりやすいゾーンにある。訴求するターゲットも、新しいことが好きな人に設定できるのは、MT-Gの強みだと思う」
広田「先ほども話に出ましたが、MT-Gを購入する層はふたつあると思います。ひとつはG-SHOCKからステップアップする人。それ以上に大きいのが、普段高級時計を使っている人。50〜100万円の時計を使っている人に、『買ってみたいな』と思わせるのは“感触”ですよね。この価格帯になると、比較基準がロンジンとかになりますし」
鈴木「またロンジンは外装が成熟してきてるから……そうすると、良くなってきたとはいえ、MT-Gもさらにクォリティを上げていかないとですね。十分頑張っているのは承知のうえで、期待したいです」