リシャール・ミルとフェラーリとのパートナーシップは、2022年からスタート。エンジニアリングを尊び、それを美しいメカニズムで表現するという共通した美学を持つ両社によるコラボレーションウォッチの第2弾「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」は、細部までじっくり眺めたくなる美しさがあるハイコンプリケーションだ。

スポーティーに仕上がったブラックモデルは、フェラーリの拠点であるモデナ市の色で、跳ね馬の紋章の色でもあるイエローを効果的に使用することで、フェラーリとのコラボレーションウォッチであることを強調する。手巻き(Cal.RM43-01)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。50m防水。カーボンTPT®ケース(縦51.2×横42.9mm、厚さ17.1mm)。世界限定75本。要価格問い合わせ。
Edited & Text by Tetsuo Shinoda
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
リシャール・ミルとフェラーリ
本格始動したコラボレーション
時計ブランドが他ジャンルのパートナーと関係を深め、コラボレーションモデルを製作するのは、創造性を広げるためだ。リシャール・ミルではアスリートやセレブリティだけでなく、エアバス・コーポレート・ジェットといった企業とも組むが、やはり本命はモータースポーツ。本格始動したフェラーリとのコラボレーションは、リシャール・ミルの領域をさらに広げてくれる。
リシャール・ミルとフェラーリがパートナーシップを結んだのは2022年のこと。〝時計界のF1マシン〞を標榜するリシャール・ミルが、F1世界選手権創設時から参戦し続けている唯一のチームであるフェラーリと組むことは必然。どちらも高度なエンジニアリングだけでなく、造形や機能を美しく表現する点など、共通項が多いだけに、どういった化学反応が起きるのか、期待した人は少なくないだろう。
まずはコラボレーション第1弾モデルとして22年に「RM UP-01 フェラーリ」が発表された。だが、時計の開発はかなり前から進んでいたため、この第1弾モデルではフェラーリ色は控えめであった。だからこそ第2弾モデルとなる「RM 43-01トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」は〝360度のパートナーシップ〞だと胸を張るくらいフェラーリとの関わりが濃くなった。
発表会が行われたのはパリのパレ・ド・トーキョー。会場内はF1チームのラボを思わせるクリーンな内装になっており、リシャール・ミルの初代ファミリーで元フェラーリF1チームのドライバー、フェリペ・マッサの挨拶からプレゼンテーションがスタート。デザイナーや技術者が時計の詳細を説明していく。さらに会場にはレースシミュレーターで遊べるスペースも用意され、時計を深く知るだけでなく、フェラーリとのつながりを印象付ける内容となっていた。
さらに夜はガラパーティーを開催。会場内にはフェラーリ往年のF1マシンなどを展示。新作モデルに採用されたチタンやカーボンは、F1マシンで使用されてきた素材であり、こういった部分でも両社の共通項が見えてくる。リシャール・ミルとフェラーリの関係はさらに深化した。それは間違いないようだ。
フェラーリにインスピレーションを得たデザイン
時計と自動車は、大きさも用途もまったく異なるマシンだが、高度なエンジニアリングや機能性を考慮した素材使いなど、共通点は多い。リシャール・ミルではコラボレーションモデルを製作するため、モデナ近郊のマラネッロに出向き、フェラーリのデザイナーとのセッションを重ねた。その結果生まれた時計には、フェラーリのディテールを思わせる優美なデザインが多数採り入れられている。
工業デザインは、生産性と芸術性のせめぎ合いによって成立している。生産性だけを考慮すれば面白みのないデザインとなり、芸術性を強調すれば製造は極めて困難になり、コストも上がる。その点、ラグジュアリーウォッチは、ある程度の生産性を犠牲にしても芸術性を追求できる数少ないプロダクトであり、それはラグジュアリーカーにも当てはまる。だが、リシャール・ミルもフェラーリも、芸術性を追求するために何かを諦めることはない。だから両社のコラボレーションは面白いのだ。
具体的には次の通りだ。リシャール・ミルは、今回のコラボレーションにおいて、フェラーリのエンジンブロックやクランクケースの複雑な形状からインスピレーションを得たさまざまな表面処理や仕上げを外装やムーブメントに取り入れた。加えて、コントラストを効かせたディテールを採用することによって、ムーブメントデザインの立体感を高めることにも注力した。

デザインにおける最大の特徴は、トゥールビヨンキャリッジを5時位置にオフセット配置する左右非対称のレイアウトにある。ここで躍動感を表現しているのだ。トゥールビヨンキャリッジをオフセットすることで生まれたスペースには、跳ね馬が入ったチタン製プレートを収め、コラボレーションモデルであることを控えめに演出した。さらに注目すべきはプッシュボタンで、「SF90ストラダーレ」のリアランプからインスピレーションを受けた形状になっている。チタンとカーボンTPT®を組み合わせたボタンは、極めて精密で美しい。こういった細部まで作り込む情熱によって、コラボレーションモデルらしい特別なデザインに仕上がった。まさに、この時計は細部を楽しむものでもあるのだ。
スプリットセコンドクロノグラフを搭載したCal.RM43-01
モータースポーツの現場でラップタイム計測をするために使われてきたスプリットセコンドクロノグラフは、リシャール・ミルにとっては欠くことのできない大切な機構だ。2003年に発表した「RM 008 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ」からこの最新作に至るまで、ブランドの哲学を語る大切な技術として扱ってきた。Cal.RM43-01は、何が進化したのだろうか?

リシャール・ミルとフェラーリは、高度なエンジニアリングとモータースポーツへの情熱を共有する。そのため、発表イベントでは、スプリットセコンドクロノグラフ機構の解説に多くを割いた。
搭載するCal.RM43-01は、初代モデルから深い関係を結んできたマニュファクチュール・デ・セニョル(旧オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ)と共同で、約3年の歳月をかけて開発したもの。1時位置にトルクインジケーターを、そして11時位置にパワーリザーブ表示を収めたのは、繊細なエネルギーマネジメントを行うためであり、クロノグラフ機構が作動していても極力精度に影響を与えないように慎重に設計された。スプリットセコンドクロノグラフも従来のメカニズムから進化させており、コラムホイールなどのパーツは、コンピューターシミュレーションを用いて形状を開発。特にスプリットセコンド車の動きを規制する重要パーツであるクランプレバーの形状については入念に検討された。こういった積み重ねによってエネルギー消費は約半分となり、計時性能が向上したのだ。

また繊細な機構であっても日常使いできるように耐衝撃性を高めているが、ここにもフェラーリの技術を投入。耐久性を高めるためにエンジンパーツに用いられるリブを、ムーブメントのブリッジに取り入れて強度を高めている。
リシャール・ミルではすでにハイレベルなエンジニアリングを駆使した腕時計を多数創っているが、今回、エネルギーマネジメントやムーブメントの強度といった時計の根幹にかかわる部分をしっかりとブラッシュアップさせている。〝強者は強者を知る〞という言葉が示すように、異なるジャンルの最高峰からは学びを得ることも大きい。それがフェラーリと組んだ最大のメリットなのだ。