「時計を変えた新素材」。〝サファイアクリスタルの達人〟であるウブロの独自研究とは?

2025.08.25

近年、時計市場に普及する“新素材”。外装やムーブメントに従来にはなかった素材を用いることで、時計は形状や色といった意匠の面ではもちろん、性能面でも大きく変化した。『クロノス日本版』112号で「時計を変えた新素材」として、そんな“新素材”を特集した記事を、webChronosに転載する。今回は、超硬素材であるがゆえに、切削加工が難しいサファイアクリスタルに挑み、“サファイアクリスタルの達人”として成功を収めるウブロの、この素材への独自研究を紹介する。

「時計を変えた新素材」。18Kゴールドの組成を自在に操るウブロの錬金術

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「時計を変えた新素材」。扱いの難しいセラミックスを開拓したシャネル、ウブロ、チューダー

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「時計を変えた新素材」。経年劣化を克服した新世代カーボン、それぞれの手法

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星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木幸也(本誌):取材・文
Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]


多彩な色彩表現でサファイアケースを彩るウブロの独自研究

「アート・オブ・フュージョン」をブランドコンセプトに掲げ、時計業界では採用されてこなかった新素材や異素材を導入し、素材と独創的な造形による表現力で他社を圧倒してきたウブロ。得意とするセラミックスやカーボンといった素材に加え、サファイアクリスタルにおいても、ウブロは独自の技術を着々と蓄積し、今や複雑な造形と多彩なカラーバリエーションを実現するに至った。


多彩なカラーバリエーションを持つウブロのサファイアクリスタルケース

ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン トゥールビヨン パープルサファイア」

 そもそもダイヤモンドに次ぐ超硬素材であるサファイアクリスタルは、切削加工に困難を極める。したがって、並みの時計メーカーは決して手を出さない。腕時計の造形が複雑になればなるほど、その難易度は高まる。サファイアクリスタルを切削する専用の工作機械の導入にはじまり、切削加工の歩留まりの悪さなど、莫大な投資を避けられないからだ。

「アート・オブ・フュージョン(異なる素材やアイデアの融合)」をコンセプトとして、カーボンやセラミックスといった時計業界にとって新素材や異素材を積極的に採用し、独創的な造形に創り上げてきたウブロが、次なる挑戦としてサファイアクリスタルに目を付けたのは、必然と言ってもいいだろう。2016年にケースとベゼルにサファイアクリスタルを用いた「ビッグ・バン ウニコ サファイア」を発表し、その翌年にはレッドとブルーのカラーサファイアクリスタルのモデルを打ち出して、時計業界において、サファイアクリスタルといえばウブロという認識を瞬く間に浸透させたのだ。

 だが、ウブロは決して立ち止まらない。次なるステップとして、一部に合成樹脂を使用していたパーツを改め、外装のフルサファイア化を進めると同時に、カラーバリエーションも一層拡充した。20年に、時計業界で初めてSAXEMを採用した「ビッグバン MP-11 SAXEM」を発表。22年には、サファイアの生成過程において酸化アルミニウムとクロムを加えることで、世界初のパープルサファイアを実現。翌23年には、新たな色のSAXEMを採用した「ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック イエローネオン SAXEM」を発表し、その象徴的なイエローネオンカラーで度肝を抜いた。

 SAXEMとは人工衛星にも使用される超高耐久性を誇る先進素材で、サファイアの基本成分の酸化アルミニウムに希土類元素とクロムを加えた合金である。さらに2024年1月には「ビッグ・バン ウニコ グリーン SAXEM」をリリース。ウブロは単に色の多様化を推進するだけでなく、SAXEMの均一で均質な色を創り出すために、約2年の歳月を研究開発に費やしたという。

ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン トゥールビヨン パープルサファイア」

ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン トゥールビヨン パープルサファイア」
2022年にウブロが発表した世界初のパープルサファイアを採用した「スピリット オブ ビッグ・バン トゥールビヨン」。ケースサイドから見ると、ベゼル、ミドルケース、ケースバックのすべてがサファイアクリスタルで構成されているのがよく見て取れる。加工精度や発色など、非常に難易度の高いウブロの独自技術の結晶だ。手巻き(Cal.HUB6020)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約115時間。パープルサファイアクリスタルケース(ケース径42mm、厚さ15.3mm)。3気圧防水。世界限定50本。

 もはや“サファイアクリスタルの達人”と言っても過言ではないウブロの独自研究は現在も続いている。2023年の本社工房取材において、製造&研究開発ディレクターのマティアス・ビュッテが自社内の研究施設を案内してくれた。ウブロの大型ケースを削り出すためには、巨大なサファイアクリスタルを育成する必要がある。ウブロはスイス・ニヨンの本社内で、その地道な研究に取り組んでいるのだ。

 絶えず、技術的挑戦を繰り返しているからこそ、ウブロの独創性は他の追随を許さないのだ。



Contact info: LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055


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