腕時計はこうしてよみがえる。 時計師によるオーバーホールの現場に密着

FEATUREWatchTime
2025.07.24

機械式時計を長く愛用するには、定期的なオーバーホールが欠かせない。しかし、実際にどんな作業が行われているのかは意外と知られていないはず。本記事では、ドイツの時計小売店であるマールベルクの修理部門で行われた、1998年製オメガ「スピードマスター」のオーバーホールに密着。分解から洗浄、再組み立て、最終調整まで、時計修理のプロがどのように1本の時計を再生するのかを詳しく紹介する。驚きの精密作業の世界をのぞいてみよう。

「スピードマスター」修理

Originally published on watchtime.net
Text by Johannes Beer
[2025年7月24日公開記事]

時計のメンテナンスに欠かせないオーバーホールとは

 機械式腕時計の魅力は、何よりもその“生きている”感覚にある。自身の手首の動きや、リュウズを巻く動作によって時を刻み始める。その仕組みは、時計を単なる道具ではなく、人生を共にする相棒のように感じさせる。

 しかし、どれほど優れた時計でも長年の使用で内部に摩耗や汚れが生じる。だからこそ、5〜10年に一度のオーバーホールが勧められている。

「スピードマスター」修理

まずはブレスレットをケースから外す。

 今回は、オメガ「スピードマスター」の完全オーバーホールに密着。マールベルク所属の時計師マーヴィン・ハイマンが、そのすべての工程を実演してくれた。

分解作業から始まるオーバーホールの第一歩

「スピードマスター」修理

そしてケースからムーブメントを取り出す。これから本格的なオーバーホール作業に取り掛かる。

 最初に行うのは、時計のブレスレットをケースから取り外す作業である。次に裏蓋を開け、ムーブメントを丁寧に取り出す。タキメーターベゼルも分解し、洗浄と仕上げの準備に入る。

ムーブメントを徹底的にチェック

「スピードマスター」修理

ピンセットを用いて丁寧にムーブメントを分解する。

 ムーブメントが取り出されたら、まずは目視による状態確認を行う。経年使用による摩耗や劣化の痕跡を探し、不具合のあるパーツはこの時点で交換対象となる。続いて、ピンセットを使い、非常に慎重にムーブメントを分解していく。作業には高度な集中力と繊細な手つきが求められる。

機械式時計の構造は驚くほど複雑

「スピードマスター」修理

分解してみると、驚くほど多数のパーツでムーブメントが構成されていることが分かる。これから洗浄に取り掛かるのだ。

 すべてのパーツが取り外されると、ひとつのムーブメントがいかに複雑に構成されているかがよく分かる。歯車やネジ、スプリングなど、極小のパーツが何層にも組み合わされている。洗浄工程では、これらの部品を4種の洗浄液と超音波バスに通す。細かな汚れや古い潤滑油を徹底的に取り除くための工程である。

「スピードマスター」修理

洗浄液にてパーツを洗浄する。汚れや古い潤滑油を取り除く。

 ムーブメントの洗浄と並行して、ケースとブレスレットの状態も確認される。打痕や摩耗があれば、微細なポリッシングツールを用いて丁寧に仕上げていく。研磨によって細かな傷が消え、見た目はほぼ新品同様になる。

「スピードマスター」修理

ムーブメントの分解に合わせて、ケースに研磨を施しかつての輝きを取り戻すのである。

高級オイルが支える精密な組み立て

 洗浄が終わったら、いよいよ再組み立てに入る。ここで使われる潤滑油は、1リットルで1万ユーロ以上することもある高級な専用品。用途に応じて数種類のオイルを適所に使い分け、摩擦を最小限に抑える。たとえば、アンクルホイールの軸受け部分には、ごく少量を精密に塗布する。これによって、長期間にわたり安定した精度が保証される。

「スピードマスター」修理

再組立ては、細心の注意を払い丁寧に行う。

 組み立て工程では、一部の部品に精密プレスを使うこともある。たとえばクロノグラフの伝達車は、秒車に正確に圧入される必要がある。組み立てと同時に、各部の動作確認も随時行われれるのだ。

仕上げの工程と最終チェック

「スピードマスター」修理

タイムグラファーで本来の精度を取り戻しているか確認する。

 文字盤をムーブメントに固定し、6本の針を慎重に取り付ける。その後、ケースに収める前に最終的な清掃確認が行われる。すべてが整ったら、歩度をタイムグラファーで測定し、精度が基準を満たしているかを確認。問題がなければ、裏蓋に新しいパッキンを装着し、しっかりと閉じて作業は完了となる。

よみがえった時計は再び時を刻み始める

「スピードマスター」修理

オーバーホールが完了し、リフレッシュした「スピードマスター」は再び動き出す。

 こうして整備を終えた時計は、まるで新品のような輝きを取り戻す。正しくオーバーホールを続けていけば、1本の時計は何十年にもわたって愛用することができる。機械式時計におけるオーバーホールとは、単なる修理ではなく再生の儀式である。その繊細な技術と時間への敬意が、次の世代へと受け継がれていく。



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