今年は「ブルガリ・ブルガリ」の原型となったモデルが誕生してから50年を迎える。それを記念するのが「ブルガリ・ブルガリ 50周年アニバーサリー限定モデル」だ。トゥールビヨンでもリピーターでもなく、あえて3針モデルを選んだのは、1977年の原点モデルへのオマージュとイタリアらしさへの回帰のため。シンプルだからこそ、その構成は一層際立つ。
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
大理石を選ぶというブルガリならではのサヴォアフェール

これほどブルガリらしいプロダクトはない。「ブルガリ・ブルガリ」50周年記念モデルはオリジナルに同じく、ベゼルには「ブルガリ・ブルガリ」のロゴはない。しかし、文字盤にグリーンの大理石をあしらうことで、この腕時計がブルガリ製であることを物語る。
1975年、当時ブルガリを牽引していたジャンニ・ブルガリは、顧客に贈るための腕時計を作ろうと考えた。完成したのが、ベゼルに「BVLGARI ROMA」の刻印がある全く新しいデジタルウォッチだった。その2年後、彼はこのモデルを普通の腕時計に仕立て直そうと考え、外装の設計をかのジェラルド・ジェンタに委ねた。ジェンタといえば天才的なデザイナーというイメージが強いが、オメガで外装設計にも携わった彼は、デザインを製品に落とし込む能力にも長けていた。当時、ブルガリがジェンタの会社に時計開発を委ねた理由だろう。鬼才ジェンタはジャンニ・ブルガリの原案を巧みに翻訳するだけでなく、アナログ腕時計用に、12と6の長いアラビア数字が特徴的な文字盤をデザインした。完成したのが77年の「ブルガリ・ブルガリ」である。
もっとも、ベゼルにロゴをあしらうというアイデアを生み出したのはジャンニ・ブルガリであり、最初のメタルブレスレットも、ローマのブルガリ ウォッチ デザインセンターが設計したものだった。現在、ブルガリのウォッチ デザイン部門を率いるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニが「(ブルガリ・ブルガリは)ジャンニ・ブルガリとジェラルド・ジェンタが手掛けたもの」と語ったのも納得だ。
薄いドレスウォッチの定石を守りつつも、太いベゼルやアラビア数字(ドレスウォッチにアラビア数字を加えるというのはかつてない発想だった)で新味を添えたブルガリ・ブルガリは、たちまち世界的な人気を博した。このモデルの成功によって、ブルガリはジュエラーという枠を超えるようになったのである。

1975年のデジタルウォッチから50年、ファブリツィオが完成させたのが「ブルガリ・ブルガリ」50周年記念モデルである。これは77年当時のデザインに回帰しただけでなく、イタリア製大理石の文字盤で、そのオリジンを高らかに謳い上げた。深いグリーンのヴェルデ・アルピ大理石は、確かにイタリアの大理石を象徴するものだ。同社は2024年の「オンリーウォッチ」チャリティーオークションに、大理石の外装を持つ「オクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブル」を出品した。それを可能にしたのは、チタン外装の上にヴェルデ・アルピ大理石を張り付けるという新技法。今回ブルガリは、それを文字盤に転用したのである。ファブリツィオはこう語る。
「大理石は常にイタリアの美術史において重要な役割を果たしてきた素材です。ルネサンス期には彫像や記念碑、教会建築に使われ、それ以前の古典期にはエジプト人によっても用いられました。今回用いたヴェルデ・アルピは、その色彩と質感において唯一無二のイタリア産大理石。私たちは、ジャンニ・ブルガリとジェラルド・ジェンタが手掛けたブルガリ・ブルガリの革新的精神に、伝統的なイタリアのサヴォアフェールを融合させようと考えたのです」
彼の言葉を聞けば、文字盤からロゴを省いた理由も納得だ。つまり、忠実な復刻のためではなく、文字盤を強調するためにロゴを入れなかったのである。普通、時計にこういった文字盤を使うことは禁忌とされている。というのもパターン次第では、視認性を大きく損ねるためだ。しかし、ブルガリはあえて採用し、しかも視認性は決して損なわれていない。ファブリツィオが言う「イタリアのサヴォアフェール」には、加工技術はもちろん、柄のパターンを踏まえたうえで、適切な場所から切り出し配置する、というセンスも含まれているわけだ。
一見、色違いに見える50周年記念モデル。だが、その非凡な存在感は記念モデルと呼ぶにふさわしい。限定150本は少ないが、大理石を選ぶ手間を考えれば納得だ。

文字盤にヴェルデ・アルピ大理石を採用したアニバーサリー限定モデル。文字盤の色味もさることながら、さまざまな模様を選び抜くブルガリのセンスが際立っている。一見すると復刻、あるいはシンプルウォッチに見えるが、その実、ジュエラーの矜恃とサヴォアフェールに満ちた1本。限定数が少ないのは実に残念だ。自動巻き(Cal.BVL191)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KYGケース(直径38mm)。30m防水。世界限定150本。250万8000円(税込み)。