「ペラゴス FXD」から、チューダーとアメリカ海軍の関係を振り返ろう

FEATUREWatchTime
2025.08.07

かつて米海軍の精鋭たちに支給され、任務の生死を左右する「道具」として信頼を集めたチューダーのダイバーズウォッチ。その精神を受け継ぐ現代のミルスペックモデルが「ぺラゴス FXD」である。本作はマットブラックのダイアルを採用し、実用性と歴史への敬意を融合させた1本だ。ミリタリー仕様の固定ストラップバーをはじめ、COSC認定ムーブメントや約70時間パワーリザーブといった本格スペックを備え、かつての“ミルサブ”の魂を、現代によみがえらせた。

Originally published on watchtime.net
Text by Roger Rueggerr
[2025年8月7日公開記事]

モダンな“ミルサブ”。チューダー「ぺラゴス FXD」に注目

 チューダーの「ぺラゴス FXD」第3弾(Ref.M25717N-0001)は、マットなブラックダイアルを備え、過去数十年にわたりアメリカ海軍の兵士たちに支給されてきた、ダイバーズウォッチへのオマージュとして誕生したモデルである。直径42mmのチタン製ケースには、固定式ストラップバー(FXD=FiXeD)が採用され、防水性能は200だ。COSC認定を受けたムーブメントを搭載し、逆回転防止ベゼル、そして文字盤上に輝く、「PELAGOS」というレッドカラーのモデル名が印象的だ。

チューダー「ぺラゴス FXD」Ref.M25717N-0001
自動巻き(Cal.MT5602)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.75mm)。200m防水。63万4700円(税込み)。

 チューダーのダイバーズウォッチは、1950年代半ばにはすでにアメリカ海軍内で試験評価が始まり、1958年には正式に採用された。以後、さまざまな部隊に所属するダイバーたちに支給されることになる。

ダークグレーカラーのファブリック調ラバーストラップも付属する。

「地獄週間(ヘル・ウィーク)を乗り越えた後、最初のチューダーを支給されたんです」。かつて、ベトナムで3度の従軍経験を持つUDTチーム12の元司令官は、2023年9月に行われたぺラゴス FXD発表イベントで語った。「我々チームにとって、時間の管理はとにかく重要でした。ヘリや潜水艦とのピックアップには必ず間に合わなければならない。とくにベトナムでは、野原の真ん中で朝6時に合流するってこともあって、遅れたら終わりです。だから、時間に正確であることが生死を分けた」

SEALチーム1に支給されたチューダー・サブマリーナーの3世代。左からRef.7928(1962年)、Ref.7016(1972年)、Ref.9411(1974年)。いずれも退役した元隊員から提供された実物で、米軍基地のあったフィリピン・スービック湾周辺で当時の兵士たちがカスタムオーダーしていた、“オロンガポブレスレット”を装着している。

 さらに彼はこうも付け加えた。「誰かがバーで見てくれよ、このチューダー、なんて言うことはなかったよ。これは道具だった。カバー・ナイフやコンパス、9mm拳銃、M16M16自動小銃と同じように、使うべき道具だったんだ。信頼できた。もし信頼できなかったら、私はここに立っていないよ」。

“ミルサブ”の精神的後継者

 2023年に発表されたこのぺラゴス FXDは、2021年に登場したRef.M25707B/23-0001と同様、堅牢な固定式ストラップバー(FXD)が付属する。ブラックダイアルのこのモデルは、往年の“ミルサブ(軍用サブマリーナー)”を現代的に再解釈したものである。

 デザイン的には、1960年代後半の「チューダー オイスター プリンス サブマリーナー」Ref.7016に近い。また、固定式スプリングバーといった米軍ダイバーズの仕様、さらに一時期のチューダーのサブマリーナーによく見られた、尖ったクラウンガードといったディテールも盛り込まれている。

尖った特徴的なクラウンガードを採用している。かつてのサブマリーナーに比べて、その角度はより鋭利だ。

米海軍とチューダーの歴史

 チューダーのダイバーズウォッチは、1962年にSEALチームが創設された当初から1980年代後半にかけて使用され、UDT(水中破壊工作チーム)や建設工兵隊、海軍ダイビングスクールの教官たちにも広く使われた。

『水中破壊チーム・ハンドブック』の上の「ペラゴス FXD」(左)とチューダー「チューダー オイスター プリンス サブマリーナー」(右)。ペラゴス FXDが米海軍御用達だったサブマリーナーの特徴を引き継いでいることがよく分かるだろう。

 1965年版の『水中破壊チーム・ハンドブック』には、「ダイビングウォッチ」という節の横に、チューダー「オイスター プリンス サブマリーナー」Ref.7928が掲載されており、新兵たちの訓練教材として用いられていた。さらに1973年の『米海軍ダイビングマニュアル』では、Ref.7016および7021が海軍認定ダイバーズウォッチとしてリストアップされている。

 1974年には、米国防総省の物資供給管理のために「NSN(国家在庫番号)」が導入され、1978年以降はコード6645-01-068-1088というNSNの名で、補給担当者がRef.9411や後のRef.76100を正規に支給することが可能になった。

軍用支給品としての現実

 この供給カタログへの掲載は2004年まで続いた。軍に支給される腕時計には通常、管理用の刻印が施されるが、米海軍向けのチューダー製腕時計には統一されたマーキング制度が存在しなかった。多くは無刻印か、部隊単位で独自に刻印されていたため、今日では軍支給品かどうかの特定が非常に難しいケースも多い。とはいえ、複数のリファレンスが数十年にわたり大量に納品されていたことは、記録上からも明らかである。

チューダーが誇る現代的スペック

 このぺラゴス FXDは、サテン仕上げのチタンケース(直径42mm、厚さ12.75mm、ラグ間52mm)に、ケース本体と一体で加工された固定ストラップバーを採用。この構造ゆえに、装着できるのは一体型のストラップのみとなる。

ラグにはケースと一体化されたストラップバーが備えられている。一般的なストラップやブレスレットは取り付けることができない。

 歴史的に見ても、米海軍ではチューダーのダイバーズウォッチにナイロン製のブラック、またはグリーンの一体型ストラップを取り付けていた。「ぺラゴス FXD」には、赤いセンターステッチ入りのグリーンファブリックストラップと、ファブリック調のダークグレーラバーストラップが付属。ファブリックストラップ(幅22mm)はフランス・サンテティエンヌのジュリアン・フォール社にて、19世紀のジャカード織機で製造されている。

ファブリックストラップは19世紀のジャカード織機を用いてジュリアン・フォール社が製造したものだ。

 ムーブメントはシリコン製ヒゲゼンマイを採用したCal.MT5602で、COSC認定クロノメーターである。最大巻上げ時のパワーリザーブは約70時間だ。

実用重視のディテール

 本モデルの特徴のひとつが、60分目盛りのセラミックス製ベゼルインサートにある。逆回転防止構造で、蓄光塗料が充填されており、本格的なダイビングスケールとして機能する。

「ぺラゴス FXD」には精巧なセラミックス製ベゼルがインサートされている。

 なお、フランス海軍向けのRef.M25707B/23-0001では、裏蓋に「M.N.(Marine Nationale)」と製造年、錨のエンブレムが刻印されているが、本モデルは無刻印の裏蓋が採用されている。

裏蓋はトランスパレント仕様ではなくソリッド仕様だ。


Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570


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