グルーベル・フォルセイ 宇宙視座の円形劇場

2025.10.06

腕に載せた瞬間、視線は円環の中心へと導かれる。舞台は前作に同じ“劇場型”。だが新作は、地球儀の気配を保ったまま、全ての要素が最適化された。小型化は圧縮ではない、精錬である。パワーリザーブ表示が加わったことで、旅の途中の残り時間も気にせずに済む。数値を誇示するよりも、使う時間の質で語る。グルーベル・フォルセイのGMT第二幕は、感性で理解できる進化である。

GMT バランシエール コンヴェクス

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
大野高広:取材・文
Edited & Text by Takahiro Ohno (Office Peropaw)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


洗練の第二幕

 地球が回る。腕の上の舞台で、24時間。グルーベル・フォルセイの「GMT バランシエール コンヴェクス」は、回転するチタン製の地球儀を主役に据え、段状のリングが時・第2時間帯・昼夜を同心円で読み解かせる〝円形劇場〞だ。さらにシグネチャーの30度傾斜バランスがもたらす立体的な機能美と等時性の追求、約72時間の連続駆動が示す実用性など、前作が示した総合力は、堂々たるスケールでありながら緩やかなコンヴェクス形状によって装着感を軽やかに整えた。その〝宇宙視座〞こそ、この系譜の核である。

GMT バランシエール コンヴェクス

GMT バランシエール コンヴェクス
ラグレス形状と湾曲した裏蓋により、手首が包み込まれるようなフィット感。9時位置の第2時間帯表示は、横のGMTボタンで素早くジャンプ修正可能だ。ブルーのラバーストラップが付属。手巻き。72石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径42.9mm、厚さ17.6mm)。5気圧防水。限定22本。要価格問い合わせ。https://watch-yoshida.co.jp/products/411/24218

 指先で回すリュウズの粒立ち、クリックの微かな余韻、湾曲サファイアクリスタルに沿って流れる光の帯――そうした感覚の連鎖が、機構の合理を芸術へと変える。腕を傾けるたび、地球儀の陰影が移ろい、時間は単なる数値でなく〝風景〞として立ち上がる。

 グルーベル・フォルセイは「アート・オブ・インベンション」を掲げ、技術を美へつなぐ姿勢を貫いてきた。高級時計の常識を覆す〝10の発明〞で培った流儀を背骨に、量ではなく密度を選ぶ。基本的に限定生産で、前作のGMTは22年からの3年で66本のみ、今作は22本を予定する。生産数を絞るのは稀少化のためではない。1本ごとの学習と気付きを循環させ、次の個体へ還流するためだ。その完成度と一貫した設計思想は世界のコレクターを引きつけ、発表のたびに注目の的となる。

GMT バランシエール コンヴェクス

裏蓋側では、24都市を刻んだサファイアクリスタルディスクが世界標準時と夏/冬時間を同時に反映する。UTC+1の都市名はパリに代えて、アトリエの拠点ラ・ショー・ド・フォンに。なお、白地/黒地の差は、その都市のサマータイム実施の有無による。中央の24時間リングと連動し、タイムゾーンの昼夜も瞬時に読み取れる。視認性は高く、操作性も良好だ。

 新作は名を継ぐが、実体は〝別物〞と言ってよい。ケース径は43.5mmから42.9mmへ、わずか0.6mmの差ではあるが、解き直しはゼロからに近い。単なる縮小ではなく、舞台装置の構造を踏襲しつつ、各ユニットのプロポーションと置き方を見直し、視線の流れと装着時の重心をそろえた。実際にケースの縦径は46.5mmから44.9mmへと1.6mm小さくなっている。そして、パワーリザーブ表示を文字盤側に新設。手巻きのトラベルウォッチにおける有用性は疑いようがない。しかも劇場の景観を乱さない位置にそっと置かれる。

 ディテールの仕上げは、相変わらず素晴らしい。段の縁は鏡面、面は細いヘアライン。この切り替えで反射を整える。30度傾斜バランスはブラックポリッシュ仕上げとバレルポリッシュ仕上げを施したスティールブリッジの下、ポリッシュ仕上げのスティールピラーに支えられる。ほかのブリッジやプレートの多くは、チタンかニッケルシルバーで、素材感を活かした微細マットと筋目の組み合わせ。粗すぎれば光が濁り、細かすぎれば面が無表情になる。その中庸で留めるから、地球儀の陰影が濃く見え、30度傾斜バランスの動きが背景に沈まず、前に出る。こうした光と情報の見え方を手際よく整えた好例に出合うと、仕上げそのものが機能だと実感させられる。

 裏面のワールドタイムは、現在地と時差の感覚を直感で伝える表面を補い、要点だけを束ねる。また、公表値ではムーブメントの部品数が前作から73点増の計496点に達した。これはパワーリザーブ表示の追加だけでなく、精度向上のための再設計の結果だ。存在感を量から質へ転じつつ、日常と旅の双方に効く1本のGMTへと磨き上げた。舞台は同じだが、演出は最新。〝宇宙視座の円形劇場〞は、洗練という第二幕でいっそう鮮明になる。

バランシエール コンヴェクスS² カーボン YOSHIDAスペシャルモデル

バランシエール コンヴェクスS² カーボン YOSHIDAスペシャルモデル
30°傾斜バランスを前面に据える“バランシエール S²”の高密度カーボン仕様をYOSHIDAが特別にアレンジ。コンヴェクス最小の軽量なケースにモノクロームの力感が宿る。手巻き(Cal.GF09xv)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボン×Tiケース(直径41.5mm、厚さ14.80mm)。5気圧防水。限定50本。要価格問い合わせ。https://watch-yoshida.co.jp/products/411/21859
ダブルバランシエール コンヴェクス カーボン YOSHIDAスペシャルモデル

ダブルバランシエール コンヴェクス カーボン YOSHIDAスペシャルモデル
30°傾斜バランスふたつを連結した“ダブルバランシエール”に、高密度カーボン製コンヴェクスケースをまとわせたYOSHIDAスペシャル。黒の立体構造が躍動するが、装着感は軽やか。手巻き(Cal.GF04x)。50石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボン×Tiケース(直径42.5mm、厚さ14.35mm)。5気圧防水。限定30本。要価格問い合わせ。https://watch-yoshida.co.jp/products/411/21860

グルーベル・フォルセイ ブティック銀座

グルーベル・フォルセイ ブティック銀座

2022年にグルーベル・フォルセイとYOSHIDAが独占販売契約を締結。同ブランド初のブティックを銀座の中心に構えた。最新コンヴェクスから稀少な限定モデルまで、静謐な個室空間でじっくり体験できる。アーカイブ資料の閲覧も可能。

住所:東京都中央区銀座4-3-10
Tel.03-3538-5401
営業時間:10:30~19:30
定休日:火曜(祝日を除く)
https://watch-yoshida.co.jp/greubelforsey_ginza



Contact info:グルーベル・フォルセイ ブティック 銀座 Tel.03-3538-5401


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