ロレックス GMTマスター IIセラクロム文字盤採用モデル「も」時計史に残る重要な一歩では?

FEATUREWatchTime
2025.10.30

ロレックスは2025年、GMTマスターIIにブランド初となるセラクロム製文字盤を採用した。これまでベゼルの素材として用いられてきた高性能セラミックを、時計の中核である文字盤にまで拡張したことは、カラーや仕上げの変更を超えた「素材技術の転換点」を示している。左リュウズ仕様のホワイトゴールドモデルという意外性のある舞台で、ロレックスはGMTマスター誕生70周年に対する静かな革新を提示したのではないだろうか? 『ウォッチタイム』ドイツ版編集長ダニエラ・プッシュが解説する。

『WatchTime』ドイツ版2025年7月8月号
Text by Daniela Pusch
[2025年10月30日掲載記事]

GMTマスター IIの新作は、もうひとつのロレックス史に残る快挙か?

 ランド・ドゥエラーという時計界を揺るがす大事件の陰で、ロレックスは時計製造における素材研究の分野で画期的な一歩を「実は」示していたのだ。それが、セラクロム製の文字盤である。18Kホワイトゴールド無垢をケースやブレスレットに使用したGMTマスター IIのバリエーションとして導入された「この変更」は、単なるデザイン上の変化に留まるものではないのではないか?

 ロレックスを知る者ならよく理解しているように、同社の革新は決して派手ではない。しかし常に何らかの深い意図が込められているのだ。新作であるRef.126729VTNRは、ロレックスが初めて高性能セラミックス製文字盤へと挑んだモデルだ。

 ロレックスはセラクロムをベゼルの素材として用いてきた経験と技術を蓄積しており、それを文字盤という腕時計の「顔」の領域にまで拡張した試みだ。

 この文字盤は、すでにグリーンとブラックのツートーンベゼルの昼間側に配された、光沢を持ったグリーンのセラクロムと同一の素材から製造されている。そこには素材を生かすということ、そして視覚的な統一性を静かに、しかし明確に物語る美学が息づいていると見て取れる。

よりラグジュアリーに昇華した左リュウズモデル

 GMTマスター IIは、これまで常に旅行者のための腕時計であった。機能的かつ堅牢で、信頼性に優れるツールウォッチとしての本質を備えた腕時計だ。しかしながら、同時にどこか洗練された印象を与える存在なのである。
 

ご覧のように、左リュウズ仕様のGMTマスター IIで初めて、セラクロム製文字盤は採用された。同じくセラクロムが採用されたベゼルと合わせて統一感を覚えるのだ。

 2025年に発表されたセラクロム文字盤に左リュウズ仕様のRef. 126729VTNRは、2022年に発表された左リュウズモデルの系譜を継承しつつ、その表現をよりラグジュアリーな次元へと押し上げた1本である。

 直径40mm径のオイスター・モノブロックのケースは、18Kホワイトゴールドの無垢製。表面仕上げはサテンとポリッシュを繊細に使い分けたものだ。その結果、光の反射が生む立体感と、貴金属特有の質感が強く際立つモデルである。

 裏蓋はねじ込み仕様であり、その奥にはロレックス自社製ムーブメントCal.3285が収められている。パワーリザーブは約70時間を備え、ロレックスが特許を取得したクロナジー脱進機と、耐磁性に優れるブルー・パラクロム・ヘアスプリングが採用されている。

本作に搭載されるムーブメント、Cal.3285。

 Cal.3285は毎時2万8800振動で駆動し、ムーブメントをケースに搭載した状態で1日あたり−2から+2秒という高精度を実現している。この数値は、ロレックスが2015年に独自に定義し直した「高精度クロノメーター」の基準に適合するものだ。

 GMTマスター IIの伝統に則り、本機はふたつのタイムゾーンを同時に示すことができる。ひとつは時・分・秒針によるローカルタイム、もうひとつは24時間針(トライアングル型のGMT針)と、両方向回転式のベゼルによって表示されるという仕組みだ。

 ベゼルにはグリーンとブラックのセラクロム製24時間目盛り付きインサートが装備され、その彫り込み部分にはPVD(物理蒸着)によってプラチナがコーティングされている。外周に刻まれた刻みは指掛かりに優れ、操作性を高める役割を担っているのだ。

石のように見えて、ハイテクである文字盤

 製造方法は、天然石文字盤の製作工程を思わせる。まず高精度にカットされたセラクロムの円板を金属製ベースプレートに固定し、その上にホワイトゴールド製のインデックスを植字するというものだ。これらのインデックスには、ブルーに発光するクロマライト蓄光塗料が充填される。時・分・秒針も同じくホワイトゴールド製で、同様に蓄光が施されている。

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126729VTNR

セラクロム製文字盤を採用したRef.126729VTNR。見返しリングにはROLEXROLEX……と刻印が施されている。

 とりわけ注目すべきは、文字盤とベゼルのトーンと質感が完全に一致している点であろう。両者はまったく別個のパーツでありながら、ひとつの連続したデザインに見せるのだ。これはデザイン的な大成功ではないだろうか?

ブレスレット、クラスプ、すべてがゴールド製

 このモデルには、18Kホワイトゴールド製のオイスターブレスレットga
装着されており、クラスプには安全性の高いオイスターロック式フォールディングクラスプが採用されている。3連リンク構造は、堅牢でありながら腕なじみが良く、ブレスレット全体に貴金属特有の重量感と上質な装着感が宿っている。

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126729VTNR

ケースとブレスレットは、ポリッシュとヘアラインが使い分けられており、高級感を与える。

 さらに、リンク内に一体化された「イージーリンク」エクステンション機構により、ブレスレットの長さをおよそ5mm延長することができる。この小さな調整幅は、日常の装着快適性を左右する重要なディテールである。

 GMTマスターII Ref.126729VTNRは、ロレックスが“文字盤に新たな素材を取り入れる”という物語の幕を開けたモデルである。これまでベゼルの装飾要素としてのみ用いられてきたセラミックが、今回はサファイアクリスタルの下で主役を務めているのだ。

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126729VTNR

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126729VTNR
自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KWGケース(直径40mm)。100m防水。706万2000円(税込み)。

 ロレックスが「セラクロム」を文字盤に使用するという革新的な試みを、左側にリュウズが配されグリーンとブラックのベゼルを組み合わせた、非常に特徴的なモデルで採用したのは意図を込めてのことだろう。むしろそれは、GMTマスター誕生70周年をあえて記念表記に頼らず、豊かな内容によって静かに讃える洗練されたアプローチといえるだろう。


GMTマスター IIコレクションのもうひとつの注目モデル

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126715CHNR

かつてタイガーアイを使用した文字盤のデイ・デイトなど、ジェムストーンを使用したロレックスの系譜に属すると思われる本作。暖色系の文字盤にローズゴールドのケースはよく似合う。

 GMTマスター IIシリーズの新たな見どころとして、タイガーアイ、レッドジャスパー、ヘマタイトという3種の鉱物が一体化した、タイガーアイアンと呼ばれる天然石材用いた文字盤のモデルが挙げられるだろう。この石は、虎目石の光彩効果、ジャスパーの深い赤、ヘマタイトの金属的な輝きを併せ持ち、他には見受けられない視覚的インパクトを生み出している。

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126715CHNR

ロレックス「オイスターパーペチュアル GMTマスター II」Ref. 126715CHNR
自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KERGケース(直径40mm)。100m防水。746万7900円(税込み)。

 なお、このモデルには18Kエバーローズゴールド製のケースが採用されている。ブラウンとブラックのツートーン・セラクロムベゼルを備えた仕様だ。



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