今回の特集では、アウトドア向けの高級腕時計を紹介する。現代では、極めて安価なモデルでも十分な防水性能や信頼性を持つようになったことで、アウトドア用途に高級腕時計を選ぶ必要性は低くなっているのが実情である。一方で、高級腕時計はメンテナンスによって長きにわたって愛用することを想定した仕立て、あるいはサポート体制が取られている点が魅力である。アウトドアに向けて購入した腕時計と長く付き合い、アウトドアで過ごした思い出をその腕時計とともに記憶することは、醍醐味のひとつと言えるのではなかろうか。

Text by Shin-ichi Sato
[2025年10月30日公開記事]
アウトドア向けに高級腕時計を選ぶ意味を改めて考える
防水構造や耐衝撃といったアウトドア用途に必要となる技術が未熟、あるいは確立した直後の時代では、それらを備えた腕時計は高価なプロフェッショナルモデルに限られていた。そのため、高い信頼性を必要とするユーザーに向けた、高額なプロフェッショナル(≒アウトドア)モデルというジャンルが確立した。
極めて安価なモデルでも、高い防水性能や信頼性を持つようになった現代では、飽和潜水用途や高耐磁性能といった特別な場合を除いたホビーユースでは、高級時計を選択する必然性は低くなった。
一方で、高級腕時計はメンテナンスによって長きにわたって愛用することを想定した仕立て、あるいはサポート体制が取られている点が魅力である。また、支払ったコストに見合うパフォーマンスや美観、着用感の高さも魅力である。
アウトドアに向けて購入した腕時計とともに登った山や、そこから見る憧れの景色、友人と語り明かしたキャンプの夜、パートナーと訪れた海の思い出を一緒に記憶し、長く付き合ってゆくことは、そんな“アウトドア向けの高級腕時計”の醍醐味のひとつではなかろうか。
セイコー プロスペックス「アルピニスト」Ref.SBEJ005

自動巻き(Cal.6R54)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。14万9600円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012
最初に取り上げるのは、セイコー プロスペックス「アルピニスト」だ。アルピニストは、ドレスウォッチに近い多用途モデルの趣きを有する点が魅力である。コブラ型の時針と、シリンジ型の分針の組み合わせをはじめとしたクラシカルなデザインが人気で、ビジネスユースにもマッチする懐の深さがある。
紹介するRef.SBEJ005にはGMT表示機能が備わっており、赤い先端を持つGMT表示針とベゼル上の24時間表記によって第2時間帯の時刻表示が可能となっている。日付表示は4時半位置に控えめに配され、測時を優先したデザインとなっている点はツールウォッチらしい仕立てだ。
アルピニスト、すなわち登山家と名付けられた由来は、本作の20気圧の防水性能や信頼性だけではなく、回転式のインナーベゼルによって簡易的な方位計を備えることにある。自身が北半球にいる場合の使用方法を説明しよう。最初に、時計を水平に保ちつつ、時針が太陽を向くように時計の向きを調整する。これにより、文字盤12時位置と時針の中間の方向が南となっている。次に、4時位置のリュウズを操作して、インナーベゼルの“S”をその方向に設定する。以上で、簡易的に方位を確認できるようになる。
さて本作は、グリーンの文字盤に、ゴールドカラーのインデックスおよび各種針を備えるアルピニストの伝統的なデザインとなっている。ここに、従来モデルには無かったGMT表示機能や、約72時間のパワーリザーブなどスペックアップが図られており、従来モデルのファンであっても満足度の高い仕上がりとなっている。
チューダー「ぺラゴス FXD」Ref.M25717N-0001

自動巻き(Cal.MT5602)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.75mm)。200m防水。63万4700円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
続いては、プロフェッショナル達による採用実績が信頼性の高さを裏付けるふたつのダイバーズウォッチを紹介しよう。先に紹介するのはチューダー「ペラゴス FXD」である。ペラゴスとは、評価の高い「ブラックベイ」と並ぶダイバーズウォッチでありつつ、いっそうのハイスペックを備えたモデルだ。また、FXDはFixed(固定された)を意味し、FXDの名を持つモデルは、バネ棒などによりストラップを取り付ける方式ではなく、ケースと一体化したループによるストラップバー固定構造を備え、そこにファブリックストラップを通す方式を採用している。
この構造は、過酷な環境でバネ棒が破損することによる時計の脱落を防止することを目的としている。このようなフェールセーフを必要とする過酷な環境とは何処か。それは、アメリカ海軍のダイバーたちが立ち向かうミッションの現場である。
チューダーのダイバーズウォッチは、1950年代半ばにアメリカ海軍の試験を受け、1958年に制式採用された歴史を持つ。FXDのストラップバーは、当時のアメリカ軍仕様にのっとったもので、その他、異なる時代のモデルに見られたポインテッドクラウンガードも本作には取り入れられている。
このように、クラシカルさを感じるデザインの本作であるが、性能は極めて現代的だ。ケースはチタン製で軽量かつ着用感が良好である。さらに、高い加工精度によって面が整っており、ベゼル外周のエッジもメリハリが効いた精悍な仕上がりだ。搭載ムーブメントは高い完成度で評価を集めるCal.MT5602で、パワーリザーブは約70時間である。また、各針のクリアランスを詰めており、低い風防の配置も相まって視認性に優れる。以上から、本作は現代基準で極めて高い実力を持つアウトドアウォッチと評価してよいだろう。
ジン「EZM 3 S」

自動巻き(Cal.SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。50気圧防水。79万2000円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174
次に紹介するのがジン「EZM 3 S」である。ジンの正式名称は「ジン特殊時計」であり、極限状態で確実な性能を発揮するためのモデルを多くラインナップしてきた。その中で「EZMシリーズ」は、危険の多い出撃・出動(Einsatz)における時刻(Zeit)の計測機器(Messer)としてラインナップされている。特に「EZM 3」は、ドイツ警察特殊部隊用を前提として、使用目的や必要な機能をリサーチして開発されたダイバーズウォッチである。
そのリサーチに基づいて設定された本作のスペックは、500m防水、8万A/mの耐磁性能、Arドライテクノロジーによるケース内部の除湿機構や、ジン特殊オイル66-228の採用により-45℃から+80℃の広範囲温度での精度保証が代表例だ。また、実使用での利便性にも配慮されており、ミッション中はリュウズ操作を行わない想定から、装着時に邪魔にならないように9時位置にリュウズを配している。このようなモデルをアウトドアユースや日常生活に取り入れることにより、ジンの世界観に触れる楽しさが得られることだろう。
従来モデルに対して「EZM 3 S」は、オールブラックのカラーコーディネートにより、EMZシリーズのストイックさを強調したモデルに仕立てられている。このブラックは、ジン独自の表面硬化技術であるテギメントの上にPVDコーティングを施したブラック・ハード・コーティング仕上げによるもので、着色層の剥離や摩耗を大幅に低減している。
ピックアップしたナイロンストラップモデルのほか、ブラックのブレスレットモデルや、ラバーストラップモデルが用意される。ジンの各モデルは着用感が良好で、アウトドアでのアクティビティーに合わせて、スタイリングを選択できる点も魅力だ。
ブライトリング「エンデュランス プロ」Ref.X82310A51B1S2

クォーツ(Cal.82)。ブライトライト®ケース(直径44mm、厚さ12.5mm)。100m防水。52万2500円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
次に取り上げるのは、限界に挑戦する人々に向けたモデルとしても位置付けられるブライトリング「エンデュランス プロ」だ。エンデュランスとは持久力や耐久力を意味し、耐久レースを指すことも多い。エンデュランス プロには、最も過酷な競技のひとつであるトライアスロン選手に向けた特別モデルも存在しており、限界に挑戦する選手をサポートする性能が与えられている。
本作は、2時位置に12時間積算計、6時位置にスモールセコンド、10時位置に30分積算計を備えるクォーツ式のクロノグラフモデルである。このムーブメントは、スーパークォーツに位置付けられており、温度補正機能が備わっている。これは、トライアスロンの長距離走、自転車走時には炎天下にさらされ、水泳では水によって温度が低下するなど、温度変化の激しい環境でも精度を維持することが目的であろう。
さらに、ケースはポリマーとファイバーを組み合わせたブライトライト®製で、チタンの約1/3、ステンレススティールの約1/6という軽さによって着用感を高めている。また、熱安定性に優れ、耐傷性が高く、非磁性であることも特徴だ。これらの極限に挑戦する人々をサポートするスペックは、アウトドアユースでも心強いものとなる。
ピックアップしたモデルは、ビビッドなオレンジを指し色にしつつ、同色のラバーストラップを組み合わせたスタイリングだ。本作以外にも、ブラック、グリーン、レッド、ブルーやパープルといった様々なカラーが用意されている点も本作の魅力である。
G-SHOCK「MT-G」Ref.MTG-B2000YBD-2AJF

タフソーラー。フル充電時約29カ月駆動(パワーセーブ時)。SS×カーボンファイバー強化樹脂ケース(縦55.1×横49.8mm、厚さ15.9mm)。20気圧防水。18万1500円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925
とにかくタフで、かつ外装品質が高いモデルがお好みなら、G-SHOCKの中でもハイグレードなラインとなる「MT-G」の中でも、Ref.MTG-B2000を選択肢に入れるのはどうだろうか。G-SHOCKのMT-Gは、樹脂とメタルを融合させた独自の構造によって高級感と信頼性を両立していることが特徴のコレクションだ。
MTG-B2000では、樹脂とメタルを単純に組み合わせるのではなく、デザイン性と耐衝撃性能を両立させるべく、「デュアルコアガード構造」が初採用された。MT-G従来モデルでも、メタルパーツを用いた耐衝撃構造を備えていたが、ここに「カーボンコアガード構造」を組み合わせることが、デュアルコアガード構造の出発点となっている。デュアルコアガード構造は、時計モジュールを収めたカーボンモノコックケースをステンレススティール製のミドルケースに嵌め込み、ベゼルをミドルケースにビス留めすることで全体を固定する点が特徴だ。
この構造により、高いレベルにあった耐衝撃性能はさらに高められただけでなく、カーボンを多用することでチタン製と錯覚するほど軽量な仕立てとなっている。外殻はステンレススティール製で光沢感があり、縦55.1mm、横49.8mm、厚さ15.9mmと大柄で存在感がある。このような外観でありながら非常に軽量な本作は、良好な着用感が期待できる。このような存在感と着用感の両立は、本作を選ぶ動機のひとつとなることだろう。
また、昨今のG-SHOCKは外装の仕上げ品質が非常に向上しており、エッジの効いたベゼルやケースサイドが印象的だ。また、デュアルコアガード構造によってカーボンモノコックケースが覗き見えており、カーボン特有の質感とのコントラストを成し、本作特有の魅力を生み出している。
このほか、タフソーラーを採用する本作の時計性能は、G-SHOCKのハイスペックモデルに準じた高レベルなもので、アウトドアユースに文句のない仕上がりと言えるだろう。



