セイコー アストロンは、GPSソーラーを中心とした高精度モデルとして位置付けられる。現行モデルでは、5X系、3X系のGPSソーラー、そしてソーラー電波モデルを展開しており、外装やムーブメント構成によって多様な選択肢を用意する。本記事ではセイコー アストロンの技術的特徴とラインナップを整理し、現行コレクションから5モデルを取り上げて解説する。

1.セイコー アストロンとは?
セイコー アストロンの特徴
セイコー アストロンは、2012年に世界初のGPSソーラーウォッチとして発表され、現在もセイコーの先端技術を象徴するコレクションとして位置付けられている。GPS衛星の電波から時刻情報だけでなく位置情報も取得し、現在地のタイムゾーンに合わせて自動で時刻を修正する点が最大の特徴だ。
従来の標準電波時計は国内外の電波局からの信号に依存するため、受信できる地域が限られていた。これに対しセイコー アストロンのGPSソーラーは、地球上のほぼどこでも時刻情報を取得できることから、海外渡航が多いユーザーに有用な仕様となっている。
さらに、セイコー アストロンはすべてのモデルがソーラー発電システムを搭載しているため、電池交換の必要がなく、長期にわたり安定して使用できる点も実用的だ。
加えて、ケース素材には軽量なチタンを採用するモデルが多く、セイコー独自の「スーパーブラック硬化処理」や表面処理技術(ダイヤシールド)によって耐傷性が高められている点も魅力だ。

セイコー アストロンのラインナップ
セイコー アストロンはムーブメント別に複数のシリーズを展開しており、GPSソーラーの5X系・3X系、そして標準電波対応のソーラー電波モデルが柱となる。このラインナップにより、使用目的や装着感の好みに応じて選びやすいコレクションになっている。
ネクスター(NEXTER)
ネクスターは2022年に登場したシリーズで、セイコー アストロンにおける新しいデザイン基準を示す存在として投入された。直線と面を組み合わせたケース造形を特徴とし、光の当たり方によって構造が明確に見えるよう計算された外装設計が行われている。またブレスレットとケースの一体感を高めるデザインを採用し、装着時の安定感にも配慮されている。
ダイアルは視認性を重視した構成とされ、インデックスと針は太さや形状が見直されている。サブダイアルやインジケーターのレイアウトも整理され、GPSソーラーの多機能表示を無理なく視認できるよう設計されている点が特徴だ。
ネクスターは5X系および3X系のいずれにも採用され、セイコー アストロンの中心的シリーズだ。
ネクスター(NEXTER)シリーズについて詳しく知りたい方はこちらを参照いただきたい。

「Solidity & Harmonic」をコンセプトとした、シャープな造形が目を引くネクスター。写真は2023年に発売されたシリーズ第3弾の「SBXD013」。GPSソーラー(Cal.3X62)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径41.2mm、厚さ12mm)。10気圧防水。27万5000円(税込み)。
ムーブメントは「GPSソーラー 5X」「GPSソーラー 3X」「ソーラー電波」
セイコー アストロンの現行モデルは、搭載するムーブメントによって大きく3種類に分類できる。
GPSソーラー 5X
5X系ムーブメントはアストロンの最上位に位置し、セイコーが「世界最小・最薄のGPSソーラームーブメント」として紹介する構造が採用されている。
このムーブメントは、
・高速タイムゾーン修正
・デュアルタイム表示
・自動時刻修正(毎日)
・スマートセンサーによる受信制御
などの機能を備える。
タイムゾーン修正は最短3秒で完了する仕様で、渡航時のストレス軽減を目的としている。
タイムゾーン修正は最短3秒で完了する仕様で、渡航時のストレス軽減を目的としている。
また針の動作を制御する独立駆動モーターによって、ローカルタイムとホームタイムを瞬時に切り替えられるようになっている。これによって複雑な操作が必要だったデュアルタイム管理を直感的に行える。

デュアルタイム表示と、1/20秒計測が可能なストップウォッチ機能を備えたGPSソーラームーブメント5X83を搭載する「SBXC151」。GPSソーラー(Cal.5X83)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径43.3mm、厚さ13.4mm)。10気圧防水。30万8000円(税込み)。
GPSソーラー 3X
3X系ムーブメントは、5X系と同じGPS衛星電波受信機能を持ちながら、よりコンパクトな構成になっている。
GPS受信に必要な性能は維持しつつ、針の数や駆動方式を整理することで小型化を進め、ケース径・厚みを抑えたモデルを実現。GPSモデルでありながら装着感を重視したデザインに仕上げられている。
3X系は「シンプルにGPSの利便性を使いたい」ユーザーに向けたラインナップとして明確に差別化されており、ネクスターシリーズでも3X系ムーブメント搭載モデルが存在する。

GPS信号の受信感度を高めたGPSソーラームーブメント3X32を搭載した「SBXD031」。金属製ベゼルを使えるようになったことで、洗練されたルックスを実現している。GPSソーラー(Cal.3X32)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径41mm、厚さ13.1mm)。10気圧防水。24万7500円(税込み)。
ソーラー電波
ソーラー電波ムーブメントは、GPSではなく標準電波を用いて時刻修正を行う方式だ。国内のJJY(40kHz/60kHz)や海外の電波局に対応し、対応地域では屋内でも受信しやすいことが利点だ。
標準電波の受信状況に合わせて自動で時刻修正を行う仕組みを備え、ソーラー発電と組み合わせることで高い実用性を確保している。GPS機能を必要としないユーザーや、ビジネスシーンでの使用を想定したモデルに採用されることが多い。

日本、中国、アメリカ、ドイツ、イギリスの標準電波を受信する電波ソーラームーブメントを搭載した「SBXY031」。電波ソーラー(Cal.7B72)。フル充電時約9カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径39mm、厚さ9.6mm)。10気圧防水。13万7500円(税込み)。
セイコー アストロンの技術
セイコー アストロンを構成する技術の基盤は、GPS衛星電波受信・標準電波受信・ソーラー充電(光発電)の3つに大別される。
いずれもブランドの特徴を理解するうえで核となる機能だ。
GPS衛星電波受信
セイコー アストロンの中心技術は、GPS衛星から送信される時刻情報・位置情報を受信し、地球上のどこにいても現在地のタイムゾーンに合わせて時刻を自動修正できる点にある。
GPS衛星は時刻を正確に測るための原子時計を搭載しており、セイコー アストロンのGPSソーラーモデルはその信号を受信することで、極めて高精度な時刻情報にアクセスできる。
2012年のセイコー アストロンから続くこの仕組みは、標準電波が届かない地域でも時刻修正が可能であるため、渡航が多いユーザーに向いた設計だ。
5X系ムーブメントでは、タイムゾーン修正速度の高速化や受信環境に応じたスマートセンサー制御が導入され、実使用での利便性が高められている。
標準電波受信
セイコー アストロンにはGPS機能ではなく 標準電波受信(ソーラー電波)を搭載したモデルも展開されている。
標準電波は、国内では福島局(40kHz)、九州局(60kHz)の2局が運用しており、海外にも受信対象の局が存在する。
標準電波モデルはGPSモデルと比較すると、
・屋内でも受信しやすい
・構造がコンパクトで実用性が高い
といった点が長所だ。
タイムゾーンの自動切替ではなく受信地域に基づいた時刻修正を行うため、特に日本国内での利用を前提としたユーザーに適している。
電波受信の状況に応じて自動で時刻補正が行われる仕組みが備わっており、日常での安定した使用をかなえるモデルだ。
ソーラー充電
セイコー アストロンは、すべてのモデルがソーラー充電式(光発電)である。
文字盤下のソーラーパネルが光を受けて発電し、長期間にわたり安定した駆動を実現している。
これによって通常の電池式時計のような電池交換が不要となり、GPSモデルでも電波モデルでも、電源管理の手軽さが共通のメリットとして得られる。
セイコーはソーラー充電技術に長年取り組んでおり、光量が少ない環境でも発電効率が高い点が特徴だ。
また過充電を防ぐ制御やフル充電後の長時間駆動など、実用面を意識した機能が付属している。
< h2>2.セイコー アストロンのおすすめモデル5選
セイコー アストロンの現行モデルは、GPSソーラーの5X・3X、そしてソーラー電波モデルに大別される。その中でも厳選したおすすめのモデルを5機種紹介する。
「SBXC175」~5X系のハイエンドとしての魅力

GPSソーラー(Cal.5X83)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径44.1mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。35万2000円(税込み)。
「SBXC175」は、GPSソーラーの最上位ムーブメントである 5X53 を搭載するネクスターシリーズのモデルで、セイコー アストロンの技術的な象徴となる位置付けだ。
5X53はタイムゾーン修正の高速化やホームタイム/ローカルタイムの瞬時切替、スマートセンサー制御を備えた構造で、渡航を前提とした設計が際立つ。
外装はケースとブレスレットの面構成を強調したネクスター特有の立体的造形を採用。素材には軽量なチタンを採用し、表面にはセイコー独自のダイヤシールドが施されることで耐擦傷性を高めている。
ダイアルは多情報表示を整理し、インデックス・針には視認性を考慮した仕上げを行うことで、GPSソーラー特有の複雑性を扱いやすい形にまとめている。
セイコー アストロンの現行コレクションの中でも、技術・外装の両面で“基準点”といえるモデルだ。
「SBXC181」~スポーティーで扱いやすい5X系モデル

GPSソーラー(Cal.5X83)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径43.3mm、厚さ13.4mm)。10気圧防水。33万円(税込み)。
「SBXC181」は、同じく5X53ムーブメントを搭載しながら、外装にスポーツテイストを加えたモデルだ。ケースの稜線を際立たせた造形が特徴で、ダイアルにはサブダイアルの配置を整理した多層構成が採用されている。
5X53の機能はSBXC175と共通し、
・高速タイムゾーン修正
・デュアルタイム
・自動時刻修正
・スマートセンサーによる受信制御
といった機能を備える。
ブレスレットの形状はフィット性を考慮して設計され、長時間装着する際の快適性に寄与。表面処理もダイヤシールドが用いられ、耐傷性と外観の維持が図られている。
スポーティーな外観でありながらビジネス用途でも使用でき、5X系の中でも“汎用性の高い1本”として位置付けられる。
「SBXC159」~ネクスターシリーズを象徴するモデル

GPSソーラー(Cal.5X83)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径42mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。28万6000円(税込み)。
「SBXC159」はネクスターシリーズを象徴するモデルであり、5X系の機能構成と外装デザインをもっともバランスよく備えている。
ケースは直線と面を組み合わせた造形で、ネクスターらしい“造形の輪郭がはっきり見える”デザインを採用。ブレスレットはケースとの一体感を持たせた設計で、装着時の安定性を高めている。
5X53ムーブメントはローカルタイムとホームタイムの切替速度の速さが特長で、海外出張の際には特に、その操作性の高さを実感できる。またGPS受信後の針位置の復帰精度が高く、セイコーもオフィシャルにその制御精度を強調している。
ネクスターの“中心的立ち位置”として、外装と機能の総合的バランスを重視するユーザーに適したモデルといえる。
「SBXY101」~標準電波×ソーラーの実用モデル

電波ソーラー(Cal.7B62)。フル充電時約9カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径36mm、厚さ8.7mm)。10気圧防水。16万5000円(税込み)。
「SBXY101」は標準電波対応のソーラー電波ムーブメント8B63を採用し、GPSではなく電波による時刻修正を行うシリーズの代表的モデルだ。
国内では福島局(40kHz)と九州局(60kHz)に対応し、海外でも主要局の受信に対応する。
GPSと異なり位置情報を用いないためタイムゾーン変更は手動となるが、屋内で受信しやすい点がメリットで、日常使用では安定した精度を保ちやすい。
ダイアルは視認性を重視した構造で、日付表示・受信状況表示を整理して配置。ケース径は抑えめで、ビジネス用途を中心に取り回しのしやすさが意識されている。
ソーラー発電と組み合わせることで長期使用に適しており、セイコー アストロンの中でも“実用性特化”のモデルと言える。
「SBXD035」~3X系のスタンダードモデル

GPSソーラー(Cal.3X32)。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ時約2年)。Tiケース(直径41mm、厚さ13.1mm)。10気圧防水。24万7500円(税込み)。
「SBXD035」はGPSソーラー 3X22ムーブメントを搭載し、セイコー アストロンのラインナップの中でもコンパクトで装着感に優れたモデルとして展開されている。
3X22はGPS衛星電波受信による時刻修正を維持しながらムーブメントの直径・厚みを抑えた構造で、ケースの薄型化と軽量化を進めた点が特徴だ。
ダイアルはシンプルな表示構成とし、GPSソーラーの利便性を確保しつつ視認性とのバランスを取ったデザインとなっている。
外装はネクスターの系譜を踏襲した面構成を持ち、軽快なサイズ感とモダンな造形が両立している。
GPSモデルの利便性をそのままに、日常使いしやすいサイズを求めるユーザーに向いた1本だ。
3.まとめ:あなたに最適なアストロンを見つけるために
セイコー アストロンは、GPSソーラーとソーラー電波を軸に、正確な時刻取得を実現するための技術を体系化したモデルである。5X系・3X系・ソーラー電波という3種類のムーブメント構成により、頻繁に渡航するユーザーから、日常での用途を重視する層まで幅広く対応するモデルが揃う。
ネクスターシリーズの導入によって外装設計が整理され、ケースの造形、視認性、装着感における“セイコー アストロンの基準”が明確になった点も特徴的だ。今回取り上げた5本は、いずれもセイコーの技術的背景や機能設計を反映した現行モデルであり、用途に応じた比較がしやすくなっている。
セイコー アストロンの核となる技術とシリーズごとに異なる外装・ムーブメントの組み合わせを理解することで、自身の使用環境に適したモデルを選びやすくなるだろう。



