1980年代に「ロトコール」の名で親しまれたモデルのデザインを復刻した「セイコーセレクション Sシリーズ デジタルクォーツ」Ref.SBJG019をインプレッションする。八角形型のベゼルはロータリースイッチと呼ばれるもので、回転させてモード切り替えを行うことを最大の特徴とする。復刻に際して、この機構を完全再現するだけでなく、各ディテールについても1980年代を思わせるレトロな雰囲気があふれる仕上がりであることがポイントだ。

クォーツ。SSケース(直径37mm、厚さ10.6mm)。10気圧防水。7万1500円(税込み)。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2025年12月23日公開記事]
往年の名デジタルウォッチのデザインを復刻
今回インプレッションするのは、「セイコーセレクション Sシリーズ デジタルクォーツ」Ref.SBJG019である。本作は、1982年発表で、「ロトコール」の名で親しまれたデジタルウォッチのデザイン復刻モデルだ。ロトコールは、回転ベゼルに相当する八角形のロータリースイッチがアイコンであり、これを回すことでモード(機能)を切り替えることが最大の特徴であった。ロトコールの復刻にあたり、当時の手書き図面を基に本作の設計が行われ、オリジナルモデルの雰囲気たっぷりに仕立てられている。外観だけでなくアイコニックなロータリースイッチもしっかりと再現されている点は、ファンにも歓迎されることだろう。
このロータリースイッチは、八角形の一辺にモードが割り当てられており、12時位置にセットしたモードが有効となるものだ。本作に搭載されている機能は、配置位置順で時計回りに、“時刻表示”、“時刻修正”、“タイマー”、“カウンター”、“ストップウォッチ”、“第2時間帯表示”、“デイリーアラーム”、“シングルアラーム”の8つとなる。今回インプレッションするブラック×レッドのRef.SBJG019のほかに、ブラック×イエローのRef.SBJG017、スカイブルー×グレーのRef.SBJG021と、計3カラーがレギュラーモデルとしてラインナップされる。さらに、漫画『宇宙兄弟』とのコラボレーションモデルとして、ブラック×シルバー、ゴールド×ブラックも発表された。

着用感が良く、さまざまなスタイリングにフィットするデザイン
インプレッションの本論に入る前に、筆者の好みや判断基準をお伝えしておく必要がある。筆者は“着用感に対して過激派”で、コンパクト、薄型、軽量な腕時計が好みである。また、日常使用を想定した十分な精度や防水性能、良好な操作性を有する場合に高評価を与えている。
さて、筆者は本作発表のニュース記事(https://www.webchronos.net/news/145194/)を担当したのであるが、その際に「オリジナリティーがあって面白く、コンパクトかつ薄くて、使いやすいだろうな」と思っていた。実際に手元に届いた本作を着用してみると、思った通りにコンパクトで軽く、使いやすい。好みだ。

直径37mmのケースは、程良い存在感とコンパクトさのバランスが良い。重量は、ブレスレット調整状態で約100gと軽量である。時計の厚さは10.6mmであり、袖口への収まりが良いので、アウターを着込む冬場に本作を選びやすい。また、ポップなカラーリングと、特徴的な八角形ベゼルのインパクトやスポーティーなデザインから、夏場のスタイリングにも良く合う。筆者は、レトロなデジタルウォッチをジャケットスタイルに合わせるのが好きであるのだが、本作もそこにハマってくれる。ジャケットへのマッチングが良いと感じる理由として、5列タイプのブレスレットも一役買っていそうだ。

レトロ感を生み出すケースやベゼルのディテール
本作のケースは、側面がポリッシュ仕上げで、上面が少し粗いヘアライン仕上げである。この切り替え部分のエッジはしっかりと立っている。少し前までのセイコーは、バレル研磨によってエッジを丸めて面を整えたものが多かったが、それとは対照的だ。
1980年代ぐらいまでの時計では、本作のような仕上げの境目がくっきりとしたものが多い。本作のヘアライン仕上げが見えるのはラグ部分だけであって、見える面積としては狭いのであるが、全体にバレル研磨を施して丸めた場合と印象が大きく異なってくる。本作では、このわずかな差が、レトロテイストを生み出す要因となっている。

ベゼルも角を丸めきってしまわず、半艶状態に仕上げていて、ツールウォッチのテイストにあふれる仕上がりだ。ベゼルインサートはアルミ製で、こちらもレトロ感を生み出している。
インプレッションしたブラック×レッドに加え、ブラック×イエロー、スカイブルー×グレーの魅力的なカラーバリエーションが用意される。その中でも、スカイブルー×グレーは特にレトロな仕上がりだ。クォーツ。SSケース(直径37mm、厚さ10.6mm)。10気圧防水。各7万1500円(税込み)。
実用性はいかに?
では、実際の使い勝手について解説してゆこう。
どのモードでも優れた視認性を発揮
液晶画面は上下に分割されており、どの機能を使用中でも下段は時刻表示だ。上段は選択しているモードによって表示が変わる。上下ともに十分な面積があり、分割されていることで意味を読み取りやすく、視認性は優秀である。

ストップウォッチモードを例に取ると、上段にストップウォッチ、下段に時刻が表示される。また、計測時間の上側に“LAP”や“STOP”といった情報が示される。このような付加的な情報は小さくて読みづらいことも多いが、本作では広い面積の液晶画面を有効に使って十分な大きさを確保しており、読み取りやすい。また、ストップウォッチ使用中でも、下段には時刻が表示されており利便性が高い。時刻表示モードで上段液晶に表示される曜日と日付の表示が不要なら、ストップウォッチモードのまま日常使用しても問題はない。
カチリとした感触が楽しいモード切り替え
ベゼルを回転させてモードを切り替えてみると、“スッ”と動き出し、“カチリ”と止まる操作感だ。回転させると画面が切り替わり、各機能を使うことができるようになる。回転部は多少のザラつきや遊びはあるものの、操作感は良好と評価しよう。ザラつきに関しては、しばらく使えばなじんできて、スムーズになりそうな予感がある。本作は、ロータリースイッチという他のモデルにはない独自機構をわざわざ仕立てて搭載していることになるが、本作の7万1500円(税込み)という価格を考えると、かなり頑張っていると思う。
気になったのはモードの配置だ。常用する時刻表示の隣に時刻修正が配置されている。精度の高いクォーツウォッチでは、意図せずに時刻を狂わせないように、時刻修正は触りたくない。それなのに本作の配置では、時刻修正の位置を通る頻度が高くなってしまう。これは操作系として不親切ではないか。
そして、使用頻度が比較的高そうなストップウォッチが時刻表示の反対側に配置されていて、使用時には180度回転させる必要がある。好意的に評論すれば、“ストップウォッチ使用の度に180度も回せる”のであるが、それで喜ぶのは筆者ぐらいだろう。
このような配置は、オリジナルのロトコールに合わせたものであることは理解している。一方で、配置を変えてもデザインに大きな影響を与えるわけでもないので、復刻を機にブラッシュアップしても良かったのではなかろうかとも感じる。
採用事例の少ないふたつのモード
特徴的な機能は“カウンター”である。前述のニュース記事を執筆する際に、これが何であるのか分からなくて困ったのを覚えている。カウンターモードにセットすると、上段の液晶に“00 00”と4桁の数字が表れる。4時位置のスイッチを押すと“00 01”、そこから8時位置のスイッチを押すと“01 01”とカウントアップされる。このように、2桁のカウンターが2セット用意されるのだ。スポーツの得点や勝敗管理、繰り返し作業での回数管理などに役立ちそうである。
もうひとつ取り上げたいのが“第2時間帯表示”だ。よく見られるのは、世界の都市を指定することで、そのタイムゾーンの時間に切り替わるワールドタイマーであるが、本作はそれとは異なる。本作では、上段にもうひとつの時刻表示が現れ、分単位で時刻修正が可能となっている。第2時間帯を、やり取りの多い海外拠点の時刻に合わせておくのも良いだろうし、定時終了時間を0時として残業時間を表示させるような使い方もできそうだ。
レトロで、使い勝手の良いツールウォッチ
本作の本質や基軸となるのは、コンパクトかつ軽量で、クォーツ式であるがゆえに高精度であり、着用感に優れ、視認性が良く、優れたツールウォッチということである。最大の特徴のロータリースイッチは、本作のためにこのような特殊機構を用意したことを考えると、完成度は悪くない。それ以外のルックスは、全体のデザインだけでなく、細部の仕上げからもレトロ感があふれていて、筆者の好みだ。
ただし、すべてが完璧というわけでもなく、ロータリースイッチ上のモードの配置に不可解なところがあり、操作感にも引っ掛かりや遊びが残る。ロータリースイッチに関する筆者の小さな不満を“この程度”と述べてしまうと、本作最大の特徴も小さく評価することになってしまうため悩ましさがあるのだが、日常使用への影響は軽微である。よって、本作の完成度は、総じて高いと評価してよいだろう。



