「ベンチュラ」は、1957年にハミルトンが発売した、電池式腕時計から系譜を引くコレクションだ。盾型のケースやダイアルデザインがアイコニックで、ひと目見たら忘れられない存在感を放っている。このベンチュラとは、どのような腕時計なのだろうか? その歴史とコレクションの特徴を解説する。

1.ハミルトン「ベンチュラ」とは?
ハミルトン「ベンチュラ」は、電池式腕時計の実用化と大胆な外装デザインを同時に提示したと言えるモデルだ。現在もこのオリジナルの意匠を引き継ぎつつ、多彩なバリエーションを展開している。
ベンチュラが成功した電池式腕時計の発売
「ベンチュラ」は、1957年にハミルトンから登場した世界初の電池式腕時計とされている。初代モデルにはCal.500が搭載され、水銀電池を動力源としながら、機械式と同様の脱進機を備える点が特徴だった。この電池式機構と大胆なケースシェイプの組み合わせは、当時の時計業界に強いインパクトを与えた。
そんなベンチュラを象徴するのは、一般的なラウンドケースとは異なるトライアングル型、あるいは盾型のケースデザインだ。1957年に登場したこのモデルは、インダストリアルデザイナーのリチャード・アービブがデザインを手掛けたことで知られている。
このケース造形は、輪郭の個性だけで成立しているわけではない。独特のケース形状にリュウズを組み込み、さらにストラップやブレスレットを装着するための工夫が施されている。 またアービブは、ダイアルからブレスレットに至るまでを一体として捉え、外装全体でベンチュラの個性を成立させた。
トライアングル型ケースとブラックダイアルの組み合わせに加え、着け心地のよさも計算されている。 造形のユニーク性と装着性を両立させた点が、ベンチュラを“デザインアイコン”として語る際の核となる。

エルヴィス・プレスリー着用モデルとしてのベンチュラ|映画『ブルー・ハワイ』との関係
なお、ベンチュラは、1961年公開の映画『ブルー・ハワイ』で、エルヴィス・プレスリーが着用した腕時計として知られている。その後もエルヴィスは公私にわたってベンチュラを愛用したとされ、映画での着用をきっかけに、ベンチュラはハミルトンを代表するコレクションとして位置付けられていった。

現在ベンチュラをアイコンウォッチに据えるハミルトンは、エルヴィスとのつながりを再認識し、エルヴィス生誕80年の2015年に「エルヴィス80」シリーズを発表。以降、2017年のベンチュラ誕生60周年の節目には「エルヴィス80 スケルトン」、2021年にはその後継機の「ベンチュラ エルヴィス80 スケルトン オート」をリリースした。また近年では、エルヴィスの楽曲「ブルー・スエード・シューズ」に着想を得たブルーグラデーションダイアルの新作が追加されるなど、エルヴィスとの関係性はプロダクト表現としても継続している。

自動巻き(Cal.H-10-S)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS+ローズゴールドPVDケース(縦44.6×横42.5mm、厚さ12.33mm)。50m防水。30万8000円(税込み)。

エルヴィス・プレスリーのヒット曲「ブルー・スエード・シューズ」から着想を得たベンチュラ。フレックスブレスレットとストラップタイプがラインナップされた。クォーツ。SS+イエローゴールドPVDケース(縦50.3×横32.3mm、厚さ9.2mm)。5気圧防水。14万3000円(税込み)。
2.ハミルトン「ベンチュラ」のラインナップ
現在展開されているベンチュラは、ムーブメントやサイズ、デザインの違いによって複数のバリエーションが用意されている。電池式腕時計として誕生した歴史を踏まえつつ、自動巻きモデルも加えたラインナップ構成となっている。
ムーブメントの違い
1957年のオリジナルが冠した「世界初の電池式腕時計」という称号。その後、1969年にセイコーが世界初の量産型クォーツ式腕時計の製造に成功した。現在普及しているクォーツ式時計は、ベンチュラのCal.500が備えていた電磁テンプ駆動とは異なり、水晶振動子を調速機構に用いている。ベンチュラの駆動方式は一般に普及するには至らなかったが、主ゼンマイで駆動する機械式時計が主流だった当時、革新的で未来を感じさせる時計であったに違いない。そのため今なお一部モデルには、ダイアル中央に配されたパルス信号のモチーフが配されており、エレクトリックウォッチとしてのキャラクターを象徴するものとなっている。
対して、近年存在感を増しているのが自動巻きモデルだ。手首の動きを利用して主ゼンマイを巻き上げるこの機構。ハミルトンはETAとの共同開発による自動巻きムーブメント、Cal.H-10(またはH-10-S)を主要コレクションに使っており、ベンチュラの自動巻きモデルにも採用されている。振動数を毎時2万1600振動に抑えることで約80時間のパワーリザーブを実現したり、Nivachron™製ヒゲゼンマイによって耐磁性能を有したりできるこのムーブメントを持つことで、優れた実用性を備えている。
ケースサイズの違い
ベンチュラは、ケースサイズのバリエーションが複数用意されているため、幅広いユーザーにリーチするコレクションでもある。
ベンチュラの特異なアシンメトリー・ケースを選択する際、「直径」と「全長」は大切だ。
例えば「ベンチュラ Quartz」は、縦50×横32mmという寸法を堅持しており、オリジナルのサイズに近い凝縮感を楽しめる。
一方で、モダンな存在感を放つ「ベンチュラ S Auto」は、縦38×横34mmと横方向にボリュームを持たせ、ラグを短く設計することで、機械式ムーブメントの厚みがあっても快適な装着感を実現している。
対極に位置するのが、ハイテクな意匠をまとった「ベンチュラ エッジ スケルトン」だ。縦51×横47mmという数値が示す通り、ベンチュラの中ではかなりの大ぶり。手首の上での存在感は圧倒的だが、ラバーとの一体型構造を採っており、装着感は優れている。
このように、最小クラスである「ベンチュラ S Quartz」から、マキシサイズの「エッジ スケルトン」に至るまで、ベンチュラという記号は「盾型」というアイデンティティーを保ちながらも、手首の太さやスタイリングに応じたサイズエンジニアリングが施されているのである。装着性についても、トライアングルケースのデザインは着け心地のよさが計算されているとされる。
ベンチュラを選ぶ際は、ムーブメントの違いと併せて、ケースサイズやストラップ仕様をセットで確認すると、自分に合うサイズ感を絞り込みやすい。
デザインの違い
ベンチュラという「非対称のアイコン」を完成させるのは、単なる造形ではない。ケースの加工やダイアルデザインといった、多彩なバリエーションによって、各モデルのキャラクターを確立している。
PVDコーティングでの表現
多くのモデルのケース素材は高耐食性を備えた316Lステンレススティールをベースとするが、その表情は多彩だ。ポリッシュ仕上げに加え、ブラックPVD、イエローゴールドPVD、ローズゴールドPVDといった、カラーリングを楽しめるコーティングが施されているのだ。このPVDによって、1950年代のミッドセンチュリー的な華やかさから現代的なステルス性まで、全く異なる時間軸を演出する。
文字盤の表現
視認性とデザイン性を左右するダイアル表現も進化を遂げている。スタンダードな3針モデルが“パルス”のグラフィックを冠する一方、「ベンチュラ エッジ スケルトン」に代表されるスケルトン文字盤では、奥行きのある構造を採用。グラデーションを施した透明プレートを介してムーブメントが透過する演出は、デジタルとアナログが融合した近未来的な深度を文字盤上に形成している。
一体感のある専用設計
最後に注目すべきは、ケースと一体化するストラップの設計だ。クラシカルなクロコダイル型押しレザーはドレスウォッチとしての格を上げ、一方で“XXL”や“エッジ スケルトン”に見られるラバーストラップは、大型化するケースのホールド性を高める機能的必然性を有している。
ベンチュラを選ぶことは、ムーブメントやサイズといったスペックの選定のみならず、これらデザインの組み合わせから、自らのスタイルに合致する最適解を導き出すプロセスにほかならない。
3.特筆すべきモデルを紹介!
ベンチュラは、基本デザインを共有しながらも、仕様やコンセプトの異なるモデルが展開されている。ここでは、特筆すべき3モデルを紹介しよう。
ベンチュラ SHIBORI 東京 キャットストリート エクスクルーシブエディション
クォーツ。SSケース(縦50×横32mm、厚さ9.2mm)。5気圧防水。14万9600円(税込み)。
「ベンチュラ SHIBORI 東京 キャットストリート エクスクルーシブエディション(Ref.H89431640)」は、ハミルトンストア 東京 キャットストリートのみで展開されるストアエクスクルーシブだ。絞り染めと風呂敷からインスピレーションを得ており、ダイアルには手染めされた藍染めを模した7層のパターンをデジタルプリントで表現している。インデックスとロゴは立体的に浮かび上がっているよで、秒針先端の赤い差し色に加え、カウンターウェイトやケースバックに“ネコ”の意匠が盛り込まれている点も見逃せない。
手染めの風呂敷に包まれた特別なボックスセットで、ポリッシュ仕上げのメタルフレックスブレスレットに加え、追加のツートーンレザーベルトも付属する。
ベンチュラ エッジ スケルトン Ref.H24645330

自動巻き(Cal.H-10-S)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(縦51×横47.1mm、厚さ13.8mm)。50m防水。30万6900円(税込み)。
「ベンチュラ エッジ スケルトン」Ref.H24645330は、ベンチュラのアイコニックなケースを、より彫刻的なアングルフォルムで再構成したモデルだ。 非対称のダイアルは透明プレートが漆黒からスモーキーな透明へと変化する。これによって文字盤側からムーブメントが徐々にのぞくスケルトン表現が成立している。
ムーブメントは、ETA社が開発したスケルトンの自動巻きムーブメントのCal.H-10-Sを搭載し、パワーリザーブは約80時間だ。 ベンチュラのデザインを軸に、ケース造形と文字盤表現、そして機械式ムーブメントの存在感まで一体で楽しみたいユーザーにはぜひお勧めしたい。
ベンチュラ クォーツ ゴールド

クォーツ。24KYGケース(縦52×横33mm、厚さ9.38mm)。5気圧防水。173万2500円(税込み)。
「ベンチュラ クォーツ ゴールド」は、1957年の世界初エレクトリッウォッチへのオマージュとして位置付けられたモデルで、ケースには14Kイエローゴールドを採用する。ムーブメントはクォーツ(Cal.F05.115)で、ケースサイズは縦52mm×横33mm、5気圧防水、風防はサファイアクリスタル製だ。さらに世界限定130本として展開され、ケースバックには130周年のエングレービングとシリアルナンバーが施されている。
14Kイエローゴールドケースという素材の選択に加え、限定本数とシリアル入りの仕様が組み合わさることで、ベンチュラの歴史に直接結び付く特別感を有する点が、本作の大きな見どころとなる。日常で扱いやすいクォーツを採用している点も、特別仕様を実用的に楽しめる要素だ。
4.まとめ|ハミルトン「ベンチュラ」が今も選ばれ続ける理由
ハミルトン「ベンチュラ」は、1957年に電池式腕時計として登場したモデルからスタートするコレクションだ。盾型ケースという大胆な造形は個性的であるだけでなく、新しい技術を象徴する合理的なデザインとして成立してきた。
またエルヴィス・プレスリーが着用したことにより、カルチャーアイコンとしての側面も併せ持つ。現行モデルでは、駆動方式、サイズ、デザインの違いによって多様な選択肢が用意されており、ベンチュラの歴史や造形に共感した1本を自分の感覚で選べる。手首に載せた瞬間、その成り立ちまで感じ取れる点こそが、ベンチュラが今も選ばれ続ける理由と言えるだろう。



