ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」を実機レビューする。航空機のパイロット用に開発され、70年以上にわたって進化を重ねてきたナビタイマー。直径43mmケースの逆パンダダイアルモデルを基に、その現在地を知る。
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月25日公開記事]
パイロットクロノグラフの傑作機、ブライトリング「ナビタイマー」
多くの傑作が存在するパイロットクロノグラフというジャンルにおいて、一際個性を放つのが、1952年に誕生したブライトリング「ナビタイマー」である。ナビタイマーは、航空機オーナー・パイロット協会(AOPA)の要請に従って開発された生粋のプロフェッショナルツールであり、70年以上が経過した現在においても基本的なデザインは変わらず、パイロットのみならず多くの時計愛好家から人気を集めている。
ナビタイマーを象徴する要素が、ダイアル外周に配された航空用回転計算尺だ。ベゼルを回転させることで、掛け算や割り算、燃料計算、単位換算、上昇・下降距離の計算など、フライトプランの作成や航空機の操縦に必要な計算を即座に行うことができる。これは、パイロットが使用する回転計算尺を改良・縮小し、腕時計のサイズに収めたものである。
ナビタイマーの礎となったのは、1942年に発表された「クロノマット」だ。現行のクロノマットが“クロノグラフ”+“オートマティック”の造語であることに対し、1942年のクロノマットは“クロノグラフ”+“マスマティック”を由来としており、その名の通り回転計算尺による計算機能を備えたパイロットクロノグラフであった。ナビタイマーでは、計算尺の機能を航空用に拡充させ、さらにクロノグラフの12時間積算計を追加するなど、アップデートを図っている。
誕生後もナビタイマーは進化を重ね、自動巻きモデルや液晶表示のデジタルモデル、24時間表示の「コスモノート」など、多岐にわたるコレクションを展開し、時代に合わせてパイロットをサポートしていった。現在では、オリジナルの機能を継承するクロノグラフモデルだけではなく、シンプルな3針モデルやGMTモデル、豊富なカラーダイアルも登場し、老若男女幅広い層から注目されている。
今回はその中でも王道ど真ん中にあたる、直径43mmのステンレススティールケースと、いわゆる逆パンダダイアルを備えたクロノグラフモデルをレビューする。

ブライトリングの代表作「ナビタイマー」。航空機のパイロット向けに開発されたクロノグラフウォッチであり、運航に必要な各種計算が可能な航空用回転計算尺を備えている。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.69mm)。3気圧防水。134万2000円(税込み)。
航空用回転計算尺が融合した緻密なダイアル
まず注目すべきは、パイロット用の計算尺を収め、クロノグラフ用のインダイアルを配した計器感あふれるダイアルだろう。3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計とデイト表示、9時位置にスモールセコンドを配し、12時位置にはAOPAのロゴが輝いている。皿状に窪んだインダイアルはシルバーに仕上げられ、レコード状の溝によって光の反射を防いでいる。ダイアルそのものは艶やかなブラックだ。ブルー、グリーン、カッパーなど、現行のナビタイマーには多くのカラーダイアルがラインナップしているが、やはりブラックダイアルには王道らしい安定感がある。
なお、ナビタイマーは2022年にモデルチェンジを迎え、いくつかの変更が加えられている。そのうちのひとつが、タキメーターの廃止だ。デザインがすっきりとした一方で、プロフェッショナルツールとして誕生したナビタイマーの生い立ちを考えると、多少複雑な気持ちになることも否めない。個人的な意見としては、ナビタイマーは洗練されているよりも多機能でごちゃついている方が“らしい”と感じる。
12時間積算計の中に設けられたデイト窓も、意見の分かれる部分だろう。シンプルな見た目になっているものの、積算計の視認性を損ねていることは間違いない。目盛りは装飾ではなく読み取るためのものであるという前提に立つと、いっそのことノンデイトでも良いのではないかと思ってしまう。
情報量の多いクロノグラフであることを考えれば、視認性は十分。バーインデックスとペンシル型の時分針が上品さを感じさせつつ、ホワイトの蓄光塗料がブラックダイアルとのコントラストを作り出す。計算尺の細かな文字や目盛りも鮮明に仕上がっており、しっかりと読み取ることが可能だ。ひとつ難点を言えば、その計算尺を操作するためのベゼルが固く、回転させるにはそれなりに力を入れる必要があることだろうか。

スタイリッシュなケースデザイン
パイロットクロノグラフでありながらも、どことなく上品な佇まいのナビタイマー。そう感じさせるのは、ケースデザインのためだろう。細身のラグに幅の狭いベゼル、ポンプ型のプッシャーなど、構成する要素には、ややドレッシーな特徴が多い。スポーツウォッチの多くは時代を経て厚く大きく肥大化してきたが、オリジナルのデザインを強く継承するナビタイマーは、クラシカルなディティールを堅持し続けた。
ケースの厚さは13.69mm。自動巻きクロノグラフとしては標準的な厚さだろう。ベゼル、ミドルケース、ケースバックに厚みが分散しているため、過度に大きな印象は受けない。仕上げは、ラグの上面をポリッシュ、ケースサイドをヘアラインとしている。軍用として開発されたパイロットクロノグラフでは、サンドブラストやヘアラインで仕上げを統一している場合が多い。対してナビタイマーにポリッシュが取り入れられているのは、主に民間航空のパイロットをターゲットとして開発された背景が関係しているのだろう。

防水性は3気圧と、日常生活における手洗いでのしぶきや小雨をしのげるレベルだ。ブランドの説明によれば、水泳やシャワー、川の水流などは厳禁とされている。ベゼルで操作する航空用回転計算尺を備えていることがネックなのだろう。ただし、そもそもとしてパイロットが水に浸かるようなシチュエーションを想定するのは縁起でもないのかもしれない。
ベルトは、ナビタイマーを象徴する“パイロットブレスレット”だ。これは、エベルやタグ・ホイヤーで実績を積み、後にブライトリングでも「クロノマット エボリューション」や「アベンジャー」など、数々のデザインを手掛けたデザイナー、エディ・ショッフェルの作品である。斜めにカットされたコマを繋ぎ合わせたデザインは、可動域が大きくしなやかな装着感をもたらしてくれる。バックルはプッシュボタンによって開閉する両開き式を採用。微調整機構が備わっていない点は少し惜しいが、閉じた状態でのすっきりとした見た目には好感が持てる。

実用性ピカイチなCal.01
本作が搭載しているのは、ブライトリングが2009年に発表した自社製自動巻きクロノグラフムーブメントであるCal.B0。コラムホイールと垂直クラッチによるクロノグラフ機構を搭載し、約70時間のロングパワーリザーブやC.O.S.C.公認クロノメーターを取得した優れた精度など、高いスペックを誇る。実用性を重んじるブライトリングらしく、頑強かつメンテナンス性に優れた設計を持ち、現在に至るまでにマイナーチェンジを重ね、完成度を高め続けている。
本作では、そのCal.01をシースルーバックから鑑賞することが可能だ。オープンワークのローターやコラムホイール、テンプの動き、コート・ド・ジュネーブをはじめとする仕上げなど、存分に楽しむことができる。
リュウズはねじ込み式でないため、押し込んだ状態で主ゼンマイの巻き上げを行うことが可能だ。自動巻きムーブメントらしいジリジリとした感触は、決して高級感のあるものではないが、指を通してしっかりと巻き上げていることを感じることができる。一段引きで日付の早送り、二段引きで時刻調整を行うことが可能。Cal.01は、日付早送りの禁止時間帯がないことも特徴だ。

腕上の計器が、空への憧れを加速させる
それでは手首に装着してみよう。直径43mmというケースサイズは当初、手首回り約16.5cmの筆者にとって少々大きいと考えていたが、実際には自然な収まり具合であった。ラグtoラグが約49mmに抑えられていることと、スリムなラグによってケースラインがすっきりとしていることが、そう感じさせるのだろう。
そして何よりも、緻密な航空用回転計算尺を備えた異質なデザインが、時計というよりも計器らしさを強調し、大型であることをむしろ自然なことと思わせてくれる。手首に着けているだけで自然と空を見上げたくなるような、幼少の頃に夢想した大空への憧れを思い起こさせてくれるような時計である。
ケース自体は大ぶりであるものの、装着感は良好だ。下方に向かって湾曲したラグが手首にぴったりと寄り添い、パイロットブレスレットの厚みのあるコマがヘッドとの重量バランスを取っているためだろう。
リュウズガードがなくベゼルの張り出しも抑えられているため、クロノグラフ用のプッシュボタンも押しやすい。実用時計らしい固めの感触は、誤作動を起こしにくいだろう。逆パンダダイアルはインダイアルが引き立ち、経過時間を読み取りやすい。日付表示が無ければさらに使いやすかったことだろう。

70年以上の時を経て愛される、パイロットクロノグラフのアイコン
1952年に誕生し、ブライトリングを象徴するモデルとして確固たる地位を確立してきたナビタイマー。その背景には、計時装置としての優れた基本性能や、航空用回転計算尺を備えたフライトコンピュータというユニークなキャラクターもさることながら、現在に至るまでその姿を大きく変えていないということが大きいだろう。腕時計の中には、ブランドや特定のジャンルを象徴するアイコンたるモデルが存在する。それらの多くに共通するのは、腕時計の新たな可能性を切り拓いてきた功労者であることと、一目でそれと分かるデザインコードを有しているということだ。
近年のナビタイマーでは、オリジナルのデザインコードを生かしつつ、クロノグラフ機能を廃したモデルやカラーダイアルモデルをラインナップに加え、より多様性を追求するようになった。時代を超えて愛されるアイコンとして、変えるべき部分と変えてはいけない部分を慎重に見極めアップデートを重ねていくナビタイマーは、これから先も多くの時計愛好家の手元を飾っていくことだろう。




