腕時計において色彩は、単なる装飾ではない。個性を際立たせ、時に装着者の距離感や心情までも映し出す重要な表現手段である。フレデリック・コンスタントの2024年に発表されたモデルは定番カラーに加えて、まるで桃色を思わせるサーモンカラーと、グリーンカラーを文字盤に追加した。クラシカルで落ち着いた印象を与えつつも、軽やかな印象を与える腕時計を見ていこう。

Text by Martin Green
© WatchTime
Originally published in WatchTime
Reprinted with permission.
[2026年2月11日掲載記事]
色彩がもたらす、腕時計のパーソナルな魅力
腕時計の印象を左右するうえで、色彩は極めて重要な役割を果たす。色はタイムピースの個性を引き出し、あるときは存在感を際立たせ、またあるときは控えめな品格を演出するからだ。そして何より、腕時計をよりパーソナルな存在へと昇華させるという理由も大きい。
フレデリック・コンスタントのふたつの「マニュファクチュール」コレクションのモデルも、まさにその好例である。その理由は、文字盤が“ピーチ”と呼ぶべきカラー、そしてグリーンのカラーをまとい、ビタミンを補給するかのような活力を与えてくれるからだ。
フレデリック・コンスタントにおける「マニュファクチュール」の意味
マニュファクチュールコレクションは、フレデリック・コンスタントにおいて特別な地位を占める。1988年の創業からわずか16年後の2004年に、初の自社製ムーブメントを発表し、ブランドの驚異的かつ急速な発展を象徴した存在だからだ。このブランドの進化はとどまることはない、という事実を、多くの人々に知らしめたコレクションなのだ。

自動巻き(Cal.FC-706)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。5気圧防水。57万2000円(税込み)。
2024年の時点で、ジュネーブ郊外の自社工房で開発・製造されたムーブメントは30種類を優に超える。クロノグラフやトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダーといった複雑機構を手がける一方で、「クラシック デイト マニュファクチュール」のような、よりシンプルなムーブメントにおいても、その魅力は少しも損なわれていない。
シンプルであることの完成度。Cal.FC-706の実力
本作に搭載されたCal.FC-706は、毎時2万8800振動で作動し、約72時間の余裕をもったパワーリザーブを誇る。堅牢な造りに注力し、テンプの上にはフルブリッジを採用。さらに、地板のペルラージュ装飾やブルーカラーのネジ、中央から放射状に広がるサンバースト仕上げが目を楽しませる。

ゴールドカラーの回転ローターは、ムーブメントに対して配色の見事なコントラストを描くと同時に、搭載されたムーブメントがケースに対して絶妙なプロポーションで収まっていることを強調する仕上がりだ。
サイズダウンがもたらした、装着感と視覚効果の両立
フレデリック・コンスタントは、このクラシック デイト マニュファクチュールのケースサイズを、以前のモデルの直径42mmから40mmへとサイズダウンした。実際に手首に装着すればその違いは歴然だが、視覚的なインパクトは変わっていない。ベゼルが比較的細いため、文字盤から視線が逸れることはない。

なお、文字盤上のサンレイ仕上げによって光が存分に戯れることで、実際のサイズよりも大きく見える効果を生んでいる。また、ブラックのレイルウェイミニッツトラックと、細身のインデックスを組み合わせたクリーンなデザインも、その印象を後押ししている。針も同様のスタイルで統一されており、それに加えて6時位置のサブダイアルにはポインターデイト式カレンダーが配されているため、腕時計のクラシックなたたずまいをいっそう引き立てているのだ。
控えめなディテールが生む、有機的な調和
デザインに注視すると細かな工夫が見受けられ、全体の完成度に大きく貢献している。例えば、6時位置に配されたカレンダーのサブダイアルは、日付表示部分を1段下げることで立体感が与えられている。カレンダーの31日のみ赤字にされていることも同様だ。さらに、丸みを帯びたケースと、オニオン型のリュウズも相まって、この腕時計全体が有機的な調和を見せているのだ。
「サーモン」ではなく「ピーチ」と呼びたい理由
文字盤のバリエーションにはシルバーやブラックも用意されているが、個人的に定石をやや外れた、このサーモンカラーのモデルこそが白眉ではないだろうか。この文字盤の淡い発色とサンバースト効果により、筆者としてはむしろ「ピーチ」と呼ぶのがふさわしい。呼び名はどうあれ、このカラーはブランドのクラシックなイメージと見事に合致している。
もしかすると風変わりに思えるかもしれないが、実際には想像する以上に服装を選ばず、なじみが良い。加えて、フォーマルな黒や伝統的なシルバーに比べ、このモデルはどこか軽やかだ。チェスナットブラウンのストラップとの組み合わせも、そのカジュアルな雰囲気作りに一役買っているだろう。
ムーンフェイズを備えたもうひとつの選択肢
「クラシック ムーンフェイズ デイト マニュファクチュール」は、ムーンフェイズ表示とグリーンの文字盤およびストラップを除けば、基本的には「デイト」モデルと同一の設計である。ケースの厚さを含めた寸法も変わらない。Cal.FC-706にムーンフェイズを追加しても、ケース形状を変更する必要がなかったためだ。

自動巻き(Cal.FC-716)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm)。5気圧防水。69万3000円(税込み)。
Cal.FC-716と名付けられたこのムーブメントも、同様に毎時2万8800振動で作動し、ひとつの香箱で約72時間のパワーリザーブを実現する。5年間の長期保証が付帯する点も共通だ。ムーンフェイズ機構は当たり前だが文字盤側に配置されているため、サファイアクリスタルのケースバックからながめたムーブメントは「デイト」モデルと同じ仕様だが、その仕上げのよさは何度見ても飽きることはない。
定番色となったグリーン、その奥行き
近年、グリーンは一時の流行を超え、定番色としての地位を確立した。フレデリック・コンスタントを含む多くのブランドが、今やレギュラーコレクションに採用している。

本作に用いられたブリティッシュ レーシング グリーンという呼称は、まさに言い得て妙だ。一般的なグリーンよりも深く、光の加減によっては黒に近い表情を見せる。しかし太陽の下に持ち出せば、鮮やかな芝生のような緑や、黄みがかった若草色が力強く主張を始める。この色の変化こそが、本作を身に着ける楽しみにほかならない。一方で、文字盤がダークトーンであるため、紺地のムーンフェイズディスクの存在感はやや控えめだ。
日常に寄り添うマニュファクチュールという価値
クラシック デイト マニュファクチュールの57万2000円(税込み)、そして「クラシック ムーンフェイズ デイト マニュファクチュール」の69万3000円(税込み)という価格設定は、いずれも極めて高いコストパフォーマンスを誇る。
確かな実績を持つマニュファクチュールとして、これらの時計は精度、信頼性、そしてスタイルを兼ね備え、日常的に愛用されることを前提に造られている。そのユニークな色彩は、日々の生活に心地よい「腕時計のビタミン」を届けてくれるに違いない。



