平昌(ピョンチャン)、北京に続き、今回で3度目のオリンピックに挑んでいるスキージャンプ界のエース、小林陵侑(りょうゆう)。独自の飛行技術で世界を驚かせ続けてきた29歳は、自身のパートナーとして少なくとも2本の時計を愛用しているようだ。スイス3大ブランドに数えられる高級時計と革新的スポーツウォッチ──その選択に、トップアスリートとしての美学が垣間見える。

写真:picture alliance/アフロ
Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2026年2月15日掲載記事]
史上最多メダル獲得に期待が高まる今季の日本選手団
イタリアの5つのエリアを舞台に繰り広げられているミラノ・コルティナオリンピックは、オリンピック史上最も広範囲に及ぶ会場で実施される冬季大会だ。山岳地帯を登って滑る新競技「スキーモ」(スキーマウンテニアリング)も追加され、注目度の高いトピックスが盛りだくさんである。
そんな中、日本チームは前回大会の18個を上回る史上最多メダル獲得の可能性があると期待されている。冬季オリンピックで日本が強さを発揮するのは、フィギュアスケート、スピードスケートに加え、なんといってもスキージャンプだろう。
スキージャンプは揚力、抗力、気流の乱れといった空気の力に、選手の動作や姿勢、体格といった条件が絡み合い、結果に繋がる奥深い競技だ。日本のスキージャンプチームは、それぞれの選手に合った跳躍を科学的に分析し、良い点を伸ばし、問題点を解決するスタイルでチーム全体の強さを実現してきた。
スパコン「富岳」が解き明かした小林陵侑の“独自の揚力”
日本スキージャンプ界を代表する絶対的エース、小林陵侑は、過去にスーパーコンピューター富岳を用いたモーションキャプチャー技術により、その強さを分析されたことがある。小林陵侑のジャンプスタイルは、踏み切り直後から体をピンと伸ばしているため、ジャンプの初期段階では風の抵抗を受けやすく、本来は不利と見られてきた。それにもかかわらず驚異的な飛距離を記録するため、関係者の間でも不思議がられていた。
富岳のシミュレーションでは、比較した選手に比べて踏み切り直後に抗力が急増するものの、すぐに減少し、その後の飛行局面では抗力が抑えられていることが判明した。これは、素早く体を前傾させて飛行姿勢を安定させる独自のスタイルが結果に繋がっていると考えられる。
さらに注目すべきは揚力だ。比較対象となった選手の揚力がジャンプ後半に向かって減少するのに対し、小林陵侑は増加していく。つまり、細かな姿勢の制御などで揚力を生み出し続けているのだ。この“自ら揚力を生み出す技術”こそが、小林陵侑の最大の武器である。
レジェンド葛西が見出した天才、世界の頂点へ
小林陵侑は日本人初のワールドカップ総合優勝や、スキージャンプ週間における3度の優勝(そのうち1度は全勝)といった歴史的快挙を成し遂げてきた。常識を超えた飛距離と抜群の安定感が強みだ。2022年の北京オリンピックではジャンプ男子ノーマルヒルで金メダル、男子ラージヒルで銀メダルを獲得している。
兄の小林潤志郎、姉の小林諭果、弟の小林龍尚もスキージャンプ選手であり、まさにジャンプ一家に育った。スキーのキャリアは3歳からスタートし、高校在学時に土屋ホームスキー部選手兼任監督を務めていたレジェンド・葛西紀明から「ヨーロッパの強い選手に飛ぶ姿が似ている」とスカウトされ、高校卒業後に土屋ホームに入社した。
そして世界大会で活躍を重ね、2023年にはプロへの転向を表明。2024年4月にはアイスランドの特設ジャンプ台で291mの“非公式”世界最長飛距離を記録している。これは従来の公式記録253.5mを約37.5m上回る前人未踏の跳躍で、約8秒間の空中飛行を達成した。
トップアスリートが選ぶ2本──革新と伝統、スイスの美学
小林陵侑の2025年5月9日のインスタグラム投稿では、ノルケイン初のスケルトンモデル「ワイルド ワン スケルトン 42mm ターコイズ」を着用。このモデルは、独自の複合素材「ノルテック」を使用した耐衝撃性に極めて優れたスポーツウォッチである。ステンレススティールの約1/6、チタンの約1/3という驚異的な軽さで、本作はわずか78g。200m防水を備え、陸上や水中でのほぼすべてのアクティビティに適している。
ターコイズカラーのラバーストラップは一体型となっており、装着性に優れ、軽やかな着用感とともに華やかなアクセントとなる。「ワイルド ワン スケルトン」は、ノルケインチーム、ジャン・クロード・ビバー、スイス最高峰のサプライヤーとのコラボレーションによって独自に開発されたモデルだ。
搭載されるムーブメントはセリタ製エボーシュをベースとしたCal.N08Sで、パワーリザーブは約41時間。COSC公認クロノメーターであるため、実用性は十分といえる。裏蓋はスケルトンで、ムーブメントを鑑賞することができる。
特筆すべきは5000Gの耐衝撃性能を実現している点だ。スキージャンプのように、ともすれば危険を伴う競技にも力強く寄り添ってくれる。まさに極限に挑むアスリートのためのタイムピースである。
オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン」を着用
もう一本、小林陵侑が愛用しているのがオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン」だ。現在熱戦が繰り広げられているヴァル・ディ・フィエンメ地方のプレダッツォスキージャンプ・スタジアムとほぼ同緯度に位置する、スイスのル・ブラッシュで生み出される名品である。
ステンレススティールケースにブルー文字盤、ステンレススティールブレスレットという組み合わせは、雪山やロッジでくつろぐひと時を優雅な時間に変えてくれそうだ。ダイアル部分にはプチ・タペストリーパターンが施され、ホワイトゴールドのアプライドアワーマーカーとロイヤル オーク針、ルミネサント加工により、視認性にも優れている。
搭載されるキャリバーはCal.2121で、パワーリザーブは約40時間。ベースとなったのは1967年に設計されたジャガー・ルクルトのCal.920で、オーデマ ピゲ以外にもヴァシュロン・コンスタンタン、パテック フィリップへ供給された歴史を持っている。1972年のデビュー以降、「ロイヤル オーク」にはCal.2121が約50年間採用されており、まさに永遠の定番といえる名機だ。

自動巻き(Cal.2121)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径39mm、厚さ8.1mm)。50m防水。
さて、ミラノ・コルティナオリンピックにて小林陵侑はすでに結果を残している。2月10日(日本時間11日未明)のスキージャンプ混合団体では、感動の銅メダルを獲得したのだ。そして14日の日本時間25時30分からは男子個人ラージヒルのトライアルラウンド、続いて第1ラウンド、最終ラウンドが行われ6位入賞。さらに1日空けて16日の26時からは男子スーパーチームトライアルラウンド、第1ラウンド、第2ラウンド、最終ラウンドと続くハードスケジュールだ。
そこでも彼のダイナミックなジャンプが見られることを期待したい。そして中継の中で、小林陵侑が腕時計を着用している姿を目にすることができれば、時計ファンにとってこれ以上の喜びはない。



