これまでも、ミュージシャンやファッションブランド、ポップカルチャーなど枠にとらわれないコラボレーションを展開してきたオーデマ ピゲ。メゾンが新たなパートナーとして選んだのは東京を拠点に、多彩なカルチャーを横断して活動するYOONとVERBALのふたり。その溢れ出る創造力は、キャンバスとなった「ロイヤル オーク コンセプト」の魅力を新たな次元に引き上げている。

ブラックアベンチュリンのダイアルと、レッドにアルマイト加工されたトゥールビヨンキャリッジが存在感を示す。チタン製のベゼルとケースは、サンドブラスト、サテン、ポリッシュ仕上げが組み合わされ、コレクション特有のモダンな造形を際立たせる。手巻き(Cal.2982)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti×セラミックケース(直径38.5mm、厚さ11.4mm)。2気圧防水。世界限定150本。要価格問い合わせ。
Photographs by Eiichi Okuyama
竹石祐三:編集・文
Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]
コラボレーションで魅せる創造の新領域
150年以上にわたって受け継がれてきた製造技術を駆使して、高い審美性を備えた時計を展開する一方で、オーデマ ピゲは多様なカルチャーとのコラボレーションも積極的に行ってきた。
嚆矢となったのは、1999年に発表された「ロイヤル オーク オフショア エンド オブ デイズ」。時計好きで知られる俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーとオーデマ ピゲが共同で創出したこのモデルは、本人が主演する同名の映画でも使用され、一躍話題となった。
この成功を機に、オーデマ ピゲはコラボレーションモデルをコンスタントに展開していく。2005年にヒップホップミュージシャンであるジェイ・Zとのコラボレーションで注目を集めると、その後は音楽カルチャーとの結び付きを加速させ、一方ではNBA選手(現ロサンゼルス・レイカーズ)のレブロン・ジェームズとも連携。また近年では、コミックや映画でおなじみのマーベルや、マシュー・ウィリアムズ率いる1017 ALYX 9SM、アーティストのKAWSなど、ジャンルを横断したパートナーシップを構築して話題を提供するのみならず、オーデマ ピゲの傑出した時計製造技術をもアピールしてきた。
これらのパートナーに共通しているのは同時代のカルチャーとの強固なつながり。オーデマ ピゲは先鋭的なカルチャーと結び付くことで、若い世代からの支持を獲得していった。このアプローチはなおも継続しており、26年もサプライズな連携が実現した。YOONとVERBALとのコラボレーションである。

YOONはアメリカ出身のファッションデザイナー。08年にジュエリーブランドのアンブッシュ(AMBUSH)を立ち上げ、代表作の「POW!」がカニエ・ウェストをはじめとするセレブリティの支持を獲得すると、一躍ファッション業界で注目され、18年にはディオール オムのジュエリーデザイナーにも就任した。
片やVERBALは、m- floやTERIYAKI BOYZのメンバーとして、国内外で広く知られるミュージシャン。他にもDJや音楽プロデューサー、さらにはカルチャー起業家として数多くの作品やプロジェクトに関わってきた。
このYOONとVERBALが、共同で設立したのがアンブッシュである。当初、アンブッシュはジュエリーブランドとして始動したが、後にファッションブランドへとシフト。その後はナイキやユニクロとも協働するなど、世界的な評価を獲得するに至った。
オーデマ ピゲはこれまでのコラボレーションと同様、YOONとVERBALのふたりが、トレンドに流されることなく本質を追求し、既存の枠組みに挑み続けてきた姿勢に着目。その在り方がメゾンの時計製作と深く共鳴することから、協働によってユニークなケミストリーが生まれると確信し、新たなタイムピースの製作を推進した。
ベースに選ばれたのは「ロイヤル オーク コンセプト」。“実験と革新のプラットフォーム” として、コラボレーションピースのキャンバスに幾度となく採用されてきたコレクションだ。またVERBALにとって02年に発表された初代ロイヤル オーク コンセプトは、自身のコレクションの中でも特別な思い入れのある時計で、「コレクターとして追い求めてきた “決定的瞬間” を体現する、大切な1本」として位置付けられているという。

こうして誕生したのが「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン」だ。「過剰ではなく目的を」「雑音ではなく本質を」という、両者共通のビジョンに基づいて創作された本作は、ユニセックスで着用できる38.5mmのケースに、ブラックアベンチュリンのオープンワークダイアルと、アルマイト加工によって上部キャリッジをレッドに彩ったフライングトゥールビヨンが組み合わされた、静謐さと前衛的な姿勢が共存するデザインが特徴。ダイアルのクリエイションも実に個性的で、複雑なラインを描く開口部の縁にはミラーポリッシュで仕上げたシルバーグレーの面取りを施し、開口部からはムーブメントの一部が姿を覗かせる立体的な構造を採用。その先鋭的なデザインワークは、ロイヤル オーク コンセプト特有の、アーキテクチュアルな造形との好相性を見せる。


搭載されるのは、本作のために特別に開発された手巻き式のフライングトゥールビヨンムーブメント、キャリバー2982。これまで、ロイヤル オーク コンセプトフライング トゥールビヨンに搭載されてきたキャリバー2964の発展形となるムーブメントで、奥行きのある構造は踏襲しながらも不要なエレメントを削ぎ落とすことで、“本質” を追求する本作のコンセプトに則したデザインにまとめている。一方で、ムーブメントにはマイクロブラストやサテン、ポリッシュといった繊細な仕上げが手作業で施され、オーデマ ピゲらしいクリエイションが堪能できるのも本作のハイライトである。


ディテールを子細に確認すれば、オーデマ ピゲのクラフツマンシップがあるからこそ、革新的かつ隅々まで隙のないデザインが作り上げられていることが分かる。コンプリケーションウォッチを舞台に、異分野とコラボレーションすることによって表現の限界を超えるクリエイションに挑み続けてきたオーデマ ピゲ。そのチャレンジはこの先も続き、愛好家を驚嘆させるに違いない。




