国内外で高い人気を集めながらも、その稀少性や販売経路の少なさから、実機を見ることができないという時計愛好家の嘆きが止まなかった「大塚ローテック」および「タカノ」。2026年7月8日より、伊勢丹 新宿店で常設展示がスタートしたことで、この悩みが解消されることになった。常設展示が実現した経緯を、時計ジャーナリストの渋谷ヤスヒトがキーパーソンらへのインタビューによって解き明かしていく。

Text by Yasuhito Shibuya
[2026年7月10日公開記事]
大塚ローテックとタカノの常設展示が伊勢丹 新宿店でスタート!
工業デザイナーの片山次朗(かたやま じろう)氏が手掛ける、レトロテイストの独創的なデザインと機能を魅力とし、2024年には“時計界のアカデミー賞”と言われるジュネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)のチャレンジ部門(3000スイスフラン以下の時計)のグランプリを受賞した「大塚ローテック」。そして、日本を代表する独立時計師・浅岡肇(あさおか はじめ)氏が熱い情熱で復活させた伝説の高精度時計ブランド「タカノ(TAKANO)」。
日本はもちろん世界の時計愛好家にとって、今もっとも気になるこのふたつのメイド・イン・ジャパンの時計ブランドは、スイスのマイクロブランドだったら3〜5倍もの価格になること間違いナシの機械式時計を、無理なく手が届く価格で提供してくれる、貴重な存在だ。ただこれまで唯一、残念なことがあった。それは時計の実機に触れるのが難しいということ。インターネット上での抽選販売という公明正大な手法で販売されているのだが、ショールームなどは持たないため、ユーザーが実機を見たり触れたりする機会が限られてきた。購入前にどうしても実機を見たければ、すでに購入したユーザーに頼るしかなかった。

(左)大塚ローテック「7.5号」
自動巻き(Cal.MIYOTA82S5+自社製ジャンピングアワーモジュール)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.2mm)。日常生活防水。39万6000円(税込み)。
(中左)大塚ローテック「6号」
自動巻き(Cal.MIYOTA9015+自社製レトログラードモジュール)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径42.6mm、厚さ11.8mm)。日常生活用防水。49万5000円(税込み)。
(中央)大塚ローテック「5号改」
自動巻き(Cal.MIYOTA90S5+自社製サテライトアワーモジュール)。25石+2ボールベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ7.6mm)。日常生活用防水。82万5000円(税込み)。
(中右)大塚ローテック「8号」
自動巻き(Cal.MIYOTA90S5+自社製モジュール)。33石+3ボールベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約32時間。SSケース(ラグからラグまでの縦47.8×横31mm、厚さ10.8mm)。日常生活用防水。99万円(税込み)。
(右)大塚ローテック「9号」
手巻き(Cal.SSGT)。30石+5ボールベアリング。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(縦48×横30mm、厚さ13mm)。日常生活防水。1760万円(税込み)。

浅岡肇氏がリスタートさせてから、その第1作目として発表されたモデル。フランス・ブザンソン天文台のクロノメーターを取得している。自動巻き(Cal.90T)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径37mm)。3気圧防水。各88万円(税込み)。
しかし、この課題が2026年7月8日から、ついに解消されることになった。愛好家の間では時計売り場として人気抜群の、東京・新宿に位置する伊勢丹 新宿店の5階、ウォッチフロアで、大塚ローテックとタカノの製品が常設展示されることになったためだ。
「このふたつのブランドは基本的には公式サイトでしか販売していませんが、時計は高額なものなので、写真だけで理解していただくのは、メーカー側にとってもお客様にとっても良くないと思っていました。『ぜひどこかで実物を見せたい』という想いがずっとあったので、伊勢丹 新宿店の時計フロアに置いていただけるのはありがたいです」と、浅岡氏は語る。なお、彼は独立時計師協会の独立時計師であると同時に、タカノの代表であり、また、同ブランドが所属する東京時計精密の代表でもある。
「正直なところ、最初に百貨店の時計売り場に展示するという話を聞いたときは、若干抵抗もありました。単に『有名な時計をそろえています』という扱われ方になるのではないかと思ったからです。ただ、伊勢丹 新宿店のバイヤーさんといろいろ話していく中で、きちんと意図を持っての展示ができるのであれば、これはチャンスだと考えました」。片山氏もこう語っている。
世界初となるこの2ブランドの常設展示は、伊勢丹側から提案されたものである。伊勢丹 新宿店の時計バイヤーである橋本久弥氏とアシスタントバイヤー横溝真紀氏の「日本発のクリエイションを、文化として世界へ先駆けて届けること。それが伊勢丹 新宿店の使命だ」という想いが結実したのだ。
「1年ほど前、純粋に時計のことをほとんど知らない状態から、いろいろな情報を調べたり、Instagramで時計の写真などを見たりしていく中で、日本にもこんなに面白い時計があること、そして、そんな時計を手掛けるようなすごい方々がいらっしゃることを知ったのが、この企画のきっかけです。また、伊勢丹 新宿店のウォッチフロアは高い評価をいただいていますが、時計好きのお客様が、自身の感性に素直に従って時計を選ぶようになっている時代にあって、売り場として新しいチャレンジが必要だと思いました。そこで、ダメでもともとという気持ちで協力をお願いしたのです」と、今回、この常設展示を実現させた立役者、橋本氏は語る。
展示予定モデルは、大塚ローテックが「9号」「8号」「7.5号」「6号」「5号改」、タカノが「シャトーヌーベル・クロノメーター」となっている。

常設展の概要
会場:伊勢丹 新宿店 本館 5階 ウォッチ
住所:東京都新宿区新宿3-14-1
営業時間:午前10時~午後8時
※伊勢丹 新宿店では展示のみとなり、時計の店頭販売は行われません。購入希望者は各ブランドの公式ウェブサイト上で定期的に開催される抽選販売にご応募ください。
TAKANO:https://takanowatch.jp/



