オリエントスター創設75周年を祝う大作。「オリエントスタースケルトン」を深掘り

2026.09.17

2026年に創設75周年の節目を迎えたオリエントスターが送り出す、「オリエントスタースケルトン」。本作は、「時空間」をテーマとして置き、時とともに移ろう星々の軌道を着想源にデザインされている。星々が描く円軌道をダイナミックに表現するため、本作は搭載する手巻きムーブメントのCal.F9B82を新設計している点が大きな特徴だ。今回は、Cal.F9B82のデザインや各所の仕上げに注目し、本作を深掘りしてゆきたい。

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」

佐藤しんいち:文・写真
Text & Photographs by Shin-ichi Sato
[2026年9月xx日公開記事]


75周年を祝う「オリエントスタースケルトン」のハイライト

 1951年に誕生したオリエントスターが、75周年の節目に送り出すのが「オリエントスタースケルトン」だ。ブランドが35年にわたって培ってきたスケルトンウォッチ製作の技術を集結し、「時空間」をテーマに、日本の美意識と宇宙観を表現したフラッグシップモデルである。その特徴は、文字盤をなくし、新開発の自社製ムーブメントCal.F9B82の構造そのものをデザインの主体とした点にある。

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」Ref.RK-BR0001N
手巻き(Cal.F9B82)。20石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40.0mm、厚さ9.5mm)。3気圧防水。世界限定130本(うち国内75本)。110万円(税込み)。2026年12月10日(木)発売予定。

 視線を引き付けるのは、文字盤の3層を成す多重サークルだ。枯山水の波紋のように広がる円は、太陽系の星々の軌道から着想を得たもので、時計の両面から内部を見通せる空間は、「間」を重んじる和の美意識が取り入れられている。

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」

本作の“顔”となる裏物押さえ。デザインの着想源は、枯山水や太陽系の星々の軌道である。表面には細かな筋目仕上げが施され、上品な仕立てであり、エッジ部の面取りは控えめであることが特徴だ。

 本作の“顔”となる裏物押さえには、手作業による筋目模様や墨入れが施され、ダイヤモンドカットによる面取りがきらめきを加えている。また、ポリッシュされたネジや、ブルーのシリコン製ガンギ車、青焼きのスケルトン針などの部品構造や仕上げの組み合わせによって、時空間という世界感を具現化している。

星々の軌道で表現する「時空間」

 本作のデザインのテーマは「時空間」であり、直接の着想源となっているのは、惑星系における星々の軌道である。時の移ろいによって太陽の周りを地球が、その地球の周りを月が巡るような光景を、宇宙空間を俯瞰する視点から捉えているのだ。

 近年のオリエントスターが、星座や流星群、月夜など、地上から見上げる星々の情景をテーマとしてきたことを踏まえると、本作ではその視野が大きく広がったと言えるだろう。筆者はこの視点の転換を、75周年を迎えたブランドが、これまでに培った表現をさらに押し広げようとする兆しであると解釈した。

ダイナミックで、抜け感と立体感に富んだデザインのCal.F9B82

 このデザインの主役となるのは、本作のために新開発された手巻きムーブメントであるCal.F9B82だ。筆者は本作を手に取った際に、オリエントスターの従来モデルから大きく飛躍する、ムーブメントのデザイン性の高さに驚いた。

 Cal.F9B82は、ムーブメントを固定するリング部品のない構造を前提とした設計となっており、ケースの端まで使って星の軌道が表現されている。そのため、ケースサイズは直径40mmと、従来モデルの「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング」のケース(直径39.0mm)とほぼ同等であるが、より伸びやかで、ダイナミックな印象を受ける。

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」

ケースバックにも、星々の軌道から着想を得たオープンワークが施される。光が当たると筋目仕上げが白く光り、梨地部分とのコントラストが生まれ、立体感が際立つ。

 このようなダイナミックな印象は、輪列配置の見直しが大きく寄与している。オリエントでは、伝統的にムーブメントをコンパクトに設計することが多かった。これは将来の小径モデルへの展開を見越したものであろう。それに対して本作では、ムーブメントの固定リングを取り払ってムーブメントを大径化し、香箱やテンプ、スモールセコンドを外周側へ移動させ、スペースを大きく使ったデザインとなっているのだ。さらに、デザインと機能面で必要な部分だけを残したオープンワークによって、ケースバック側まで見通せる構造となっており、これまでにない抜け感のある仕上がりとなっている。

ムーブメントのデザインを引き立てる、控えめで緻密な仕上げ

 ブリッジには柔らかで細かな筋目模様が手作業で施されており、その奥の地板は梨地仕上げで、そのコントラストが階層となった構造を引き立てる。手に取って観賞してみると、オープンワークによってさまざまな方向から光が入り、構造が生み出す陰影や仕上げの違い、エッジ部に施された面取り部の鋭い光の反射が立体感を際立たせている点が印象的であった。

 従来モデル、例えば「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング」が搭載するCal.F8B61は、ペルラージュ仕上げが施されることによって、煌びやかに仕立てられていた。これに対して本作は、筋目仕上げと梨地仕上げによるシックさを有しており、かつ墨入れによって引き締まった印象となっていることが大きな違いである。各部品は、長野県の塩尻で製造されており、各所の仕上げも塩尻の職人の手によって施されている。かなりの工数が掛けられていることは一目で分かるが、あくまで主張は控えめに、構造の美しさを引き立てる要素に留めている点は、日本の美学に通ずるところがあると筆者は感じた。

オリエントスター「オリエントスター スケルトン」

斜めから光が当たると、造形によって作り出される陰影が立体感を生み、仕上げの違いが浮かび上がる。裏物押さえのエッジ部には、細く、控えめに面取りが施されているが、光が当たることで鋭く輝き、アクセントになっている。

 仕上げの観点で注目してほしいのは時分針だ。本作のために起こした型によってスケルトン状に肉抜きをしており、そこに青焼きを施している。青焼きにおいては、この肉抜きが職人泣かせの種である。というのも、肉抜きによって細い部分と根元の部分の熱容量の差が大きく、そのため熱の伝導が均一にならず、青焼きによる発色がまばらになってしまいやすいのだ。本作では、ひとつひとつ職人が微調整しながら加熱をしており、見事な仕上がりとなっている。

実用性も備えた完成度の高いCal.F9B82

 Cal.F9B82にはオリエントスターの誇るシリコン製ガンギ車を採用するほか、オリエントスター最長となる約72時間のパワーリザーブを実現している。12時位置にはパワーリザーブ表示が配置され、予期せぬ主ゼンマイの巻き上げ不足によって時計が止まってしまう心配は少なそうだ。

 さて、Cal.F9B82の特徴である大胆なオープンワークは、強度不足による耐衝撃性の低下という弊害の原因にもなりうる。設計の段階では、デザインと耐衝撃性の両立がデザイナーと技術部隊の間で繰り返し議論されたそうだ。最終的には、テンワの受けを両持ち化し、衝撃が加わったときに発生する力を減少させるために受けの裏側を削って軽量化することで、本作のデザインが完成した。

付属ストラップも特別仕様

 また、レザーストラップも、本作のための特別な仕立てだ。素材には、軽量で強度に優れるゴート(山羊)革が用いられる。ゴート革は耐久性や耐摩耗性に優れており、本作では自然な風合いが特徴の、植物由来のタンニンによる鞣しを採用している。そこに、日本伝統の「茶利八方(ちゃりはっぽう)」と呼ばれる、縦・横・斜めの八方からの手揉みを施し、機械では再現できない、柔らかく、細かなシボを持つ仕上がりとなっている。

 また、素材自体はマットな表情を見せるが、シボの凸部分では表面が潰れて艶が出ている。そのため、マットな中に点状の光の反射が生じ、宇宙を着想源としている本作にマッチした星空を思わせるものとなっている。なお、柔らかく、肌触りも良かったため、着用感に優れるストラップであったことを付記しておこう。


オリエントスターの本気度が伝わる最新作

 本作は、世界限定130本の販売で、価格は税込み110万円と、限定数、価格の観点でもスペシャルだ。これまでのオリエントスターの価格レンジと比べると大きく飛躍するものであり、本作発表のニュースを見て驚いた読者も多かったのではないだろうか。しかし、従来モデルとは大きく異なる設計や、隅々まで手を抜かない仕上げ、実用性の両立など、非常に完成度が高く、プライスタグ上の数字にも納得感があると筆者は感じた。これは筆者だけの感想ではないようで、大きな反響により公式オンラインストアでも好調な予約状況を見せており、オリエントスターへの注目度や期待値が高まっている証しと言えるだろう。

 これまでのオリエントスターが地上から見上げる星々の情景をテーマとしてきたことに対し、本作ではその視野を大きく広げて宇宙空間を俯瞰するデザインを取り入れたことは、本作の重要なメッセージであると筆者は捉えている。本作はオリエントスターのさらなる飛躍の第一歩となるに違いない。



Contact info:オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380


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