ブルガリとヴィアネイ・ハルター、両者の経験と〝新しいチャレンジ〟が生んだ特別な「オクト フィニッシモ」

2026.10.10

9月2〜6日までスイスで開催されたジュネーブ・ウォッチ・デイズで、ブルガリは「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」をリリースした。その名の通り、独立時計師であるヴィアネイ・ハルターと協業して作り上げられた新作モデルだ。確固とした個を持つ両者をまとめ上げたのは、両者の経験、そして“新しいチャレンジ”への姿勢である。

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」Ref.104356
今回発表された特別な「オクト フィニッシモ」のうち、チタン製モデルをブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクターであるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニのデッサンに添えて。このデッサンはボナマッサがヴィアネイ・ハルターからのアイデアを起こしたものとなる。自動巻き(Cal.BVF200)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径40.5mm、厚さ9.7mm)。30m防水。世界限定30本。要価格問い合わせ。
鶴岡智恵子(クロノス日本版):取材・文
Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
細田雄人(クロノス日本版):写真
Photographs & by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
[2026年10月10日公開記事]


ブルガリ「オクト フィニッシモ」とヴィアネイ・ハルターの独創性が融合

 スイス・ジュネーブで9月2〜6日まで開催された、ジュネーブ・ウォッチ・デイズ(以下GWD)。この新作見本市で、ブルガリは独立時計師ヴィアネイ・ハルターとコラボレーションした「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」をリリースした。ハルターがモジュールの構想を担っており、ブルガリにとってはムーブメントでコラボレーションするという初の試みとなった。

 ヴィアネイ・ハルターはフランス出身の独立時計師である。1964年から活動をスタートし、現在はアカデミー独立時計師協会(AHCI)の会員でもある。ハルターは機械愛好家で、自身のアイデアをメカニックかつレトロフューチャーな世界感で表現してきた。代表作の「アンティコア」や「ディープスペース・レゾナンス」には、そんな彼の作風がよく表れている。

 これまでハリー・ウィンストンとのコラボレーションをはじめ、いくつかの時計ブランドとコラボレーションしてきたハルターだが、ブルガリとの、しかも「オクト フィニッシモ」とのコラボレーションには驚かされた。というのもオクト フィニッシモは薄くあることをアイデンティティーとしてきたため、これまで表示や意匠にひとひねり加えて、立体感と存在感のあるデザインを得意としてきたハルターの作風と、どのようにうまくまとめ上げるかということが見えなかったためだ。しかしジュネーブで触れた実機は、ヴィアネイ・ハルターの意匠も、ブルガリのオクト フィニッシモの意匠も、どちらも盛り込まれたものであった。

 独創性にあふれ、ともすれば強烈とも言える個性を備える両者はどのように融合することができたのか? ヴィアネイ・ハルターおよびブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクターであるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニの話から、その過程がひもとかれていく。

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」

(右)ヴィアネイ・ハルター
1963年、フランス出身。1980年にパリ時計学校を卒業後、アンティークウォッチの修復に10年間携わり、1994年に自身の会社をスイスで設立。1998年のバーゼル・フェアで「アンティコア パーペチュアルカレンダー」を発表し、2000年にAHCIに名を連ねた。機械愛好家であり、複雑機構を製造することはもちろん、メカニカルでレトロフューチャーな意匠を作風とする。
(左)ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ
ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクター。1971年、イタリア・ナポリ生まれ。工業デザイン大学ローマ校を卒業後、1998年にフィアットに入社。その後、独立し、2005年にデザインスタジオを設立した。ブルガリがこのデザインスタジオを吸収し、同ブランドのプロダクトデザイナーを手掛けることに。「オクト」「オクト フィニッシモ」「セルペンティ」等を代表作に持つ。

ヴィアネイ・ハルターの“複雑”な世界感

 今回のコラボレーションは、2023年に始まったという。

「最初は『何か一緒にできることはないかな?』といった程度のアイデアしかありませんでした。彼(ハルター)にヌーシャテルの本社、そしてル・サンティエにある工房に来てもらって、そこで働く時計師も交えて話し合いました。この中で、『オクト フィニッシモ』をベースにすることが決まったのです」(ボナマッサ)

 ル・サンティエには、ブルガリがムーブメントを製造している「ブルガリ ウォッチ オート オルロジュリー工房」がある。オクト フィニッシモがキャンバスとして決まった後も、「どんなモジュールにするか?」「どんな機能を搭載させるか?」といったブリーフィングが工房では続けられ、ブルガリ、ハルター、両者のアイデアが具現化していった。

「オクト フィニッシモを選んだのは、コラボレーションモデルも薄型時計にするためですか?」と筆者が質問を投げ掛けたところ、ボナマッサはこう答えた。

「ブルガリにとってのこの15年間、オクト フィニッシモは大きな存在でした。我々が追求してきたこと、我々のスタイルを考えた時、今回のコラボレーション作品として適していると確信しました。オクト フィニッシモは今や『セルペンティ』のように、私どもを代表する作品なのです」

ブルガリ オクト フィニッシモ

一般的な時計の文字盤の1時に位置する部分に時分表示、5時位置にデイ/ナイト表示、8時位置に第2時間帯表示、9〜12時位置にポインターデイト表示があしらわれている。

 もっとも、オクト フィニッシモでハルターの構想を実現することは、お互いに苦心があった。なんせ、この新作モデルには時・分のほか、第2時間帯表示、ポインターデイト表示、デイ/ナイト表示を備えたモジュールが載せられている。しかも、ハルターの得意とするメカニックかつレトロフューチャーなデザインの要素となる複数の小窓を備えた文字盤、立体感あるベゼル、そしてそこに打たれたビスがあしらわれている。その世界感は複雑と言うほかない。ボナマッサが明言するように、オクト フィニッシがベースとなったのは薄さのみを追求してのことではないが、やはりその点を損ねることはできないだろう。本作はケース直径40.5mm、厚さ9.7mmに抑えられており、37mm径のオクト フィニッシモの厚さ6.45mmと比較すればボリュームは増しているものの十分薄く、また、ケースバックからベゼルまでの厚さは7.70mmに抑えられている。これまでブルガリは大きい径のムーブメントにパーツを散らすことで薄さを保ってきたが、この設計思想に加えて、両者の経験、そして“新しいチャレンジ”が生かされていた。

 この新しいチャレンジは難しくも、コラボレーションの「神髄」であると、ハルターは語る。

「これまでも時計ブランドとパートナーシップを結んできました。コラボレーションというのは、自分のアイデアを相手の枠組みにどのように適応させていくかが求められます。私にはある程度の経験があります。だから、私自身、ブルガリ自身に共に個性があることを理解し、この個性をお互い尊重して擦り合わせながら作り上げていくことができました。とはいえ、これまで私が手掛けてきたコラボレーションウォッチは、コンセプトとしてケース厚があるものであり、オクト フィニッシモの薄さに合わせて、モジュールの厚みを抑えつつ、立体感、繊細さを残すというのは苦心しました。この苦心は私にとって、新しい経験、新しいチャレンジでした。こういったチャレンジこそ、コラボレーションの神髄です」

 一方のブルガリもまた、実現までに困難があった。ボナマッサがそう強調する理由は、複雑な造形を持った外装にある。

「(デザイナーとして)デザイン的に難しかったことは、まったくありませんでしたよ(笑)。ル・サンティエでハルターとデザインについて話し合った時、彼はどんどん『ここはこうして、あっちはああして……』と、アイデアを出すから、私はすぐにデザインに起こして、それで出来上がり! もっとも、私もお互いの個性の擦り合わせには苦心しましたが、怠りませんでした。ただ、ケースの製造は非常に困難でしたね。これまでにない複雑な形で、しかも、多層構造です。文字盤側だけでサファイアクリスタルの小窓が4つ、ベゼルが3つ、そしてこの形に合わせたパッキンも必要でした。ケースの段差も複雑さを増していますよね。どんなに複雑で小さなものでも仕上げをするというのが我々ですから、製造にはどうしても手間と時間がかかります」

 このケースに設けられた段差は、ハルターとのアイデア出しの段階で「やってみよう」と合意したのだと、ボナマッサは語った。この段差によって加工や仕上げ、そして厚みを抑えることに制約が出てくることは明らかであろうにもかかわらず、アイデアを優先する姿勢にブルガリのウォッチメイキングの立ち位置を知ることができる。

 なお、本作の製作にあたって、パーツ類の小型化のために専用の製造ツールが必要だったという。ボナマッサは工具も改良する必要があったと語った。

優れた薄型ムーブメントがあったればこそ

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」

ケースバックはシースルーとなっており、搭載されるCal.BVF200がのぞく。モジュールを載せた自動巻きでありながら、ムーブメントの厚さは5.49mmだ。マイクロローターはブルガリとヴィアネイ・ハルターのダブルネームが刻印された、特別仕様だ。チタン製モデルのほか、18Kローズゴールドモデルもラインナップされており、後者のプラチナ製マイクロローターはピンクゴールドカラーに彩られている。

 ハルターは会話の中で、ベースムーブメントの優秀さを強調した。

「『薄さと繊細さを残すことに苦心した』とお伝えしましたが、ベースムーブメントのおかげで今回のサイズ、そしてスペックを実現できたと思っています。私が搭載した機構自体はそんなにエネルギーを食うものではないので、パワーリザーブも約60時間となりました」

 このベースムーブメントは、直径40mmのオクト フィニッシモに搭載されてきた、2017年初出のCal.BVL138である。直径36.60mmと径を大きくしてマイクロローターを搭載させ、厚さはわずか2.23mmでありながらも、約60時間のパワーリザーブや高い巻き上げ効率を実現している。そもそも薄型であるがゆえに、今回のムーブメントCal.BVF200も、厚さ5.49mmに抑えられている。

 ケースバックはシースルーとなっており、Cal.BVF200を観賞することができる。先にボナマッサが語っていた、「どんなに複雑で小さなものでも仕上げをするというのが我々」という言葉通り、ブリッジのコート・ド・ジュネーブはもちろん、穴石やその周囲、そしてネジも丁寧に仕上げられていた。

 ヴィアネイ・ハルターとブルガリのこれまでの経験、そして新しい挑戦が生み出したことを象徴するのがムーブメントと言える。

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」

ブルガリ「オクト フィニッシモ ヴィアネイ・ハルター 限定モデル」Ref.104355
取材時に実機を見ることができたのはチタン製モデルのみだったが、華やかな18Kピンクゴールドモデルもラインナップされる。自動巻き(Cal.BVF200)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGケース(直径40.5mm、厚さ9.7mm)。30m防水。世界限定15本。要価格問い合わせ。


研鑽と挑戦は続いていく

 ブルガリがヴィアネイ・ハルターとのコラボレーションの下に作り上げた、オクト フィニッシモ。ハルターの複雑な世界感を薄型で繊細なオクト フィニッシモで実現できたのは、両者の経験と挑戦への意志があってこそだ。

 なお、最後にハルターに、今後やりたいこと、実現したい夢を聞いた。ボナマッサに「私も聞きたいですね」と促されて語ったのは、まだまだ続く、彼のウォッチメイキングの未来だ。

「アイデアはたくさんあるんですよ。ただ、時間はかかると思っています。例えば『ラ・レゾナンス』は、アイデアから作成まで、約25年かかりました。引き出しの中のいろいろなものを実現するために、なるべく長く生きて、良いものを作っていきたいです」



Contact info:ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142


2026年 ブルガリがジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表した特別な「オクト フィニッシモ」とは?

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