薄型腕時計の在り方を刷新した、ブルガリ「オクト フィニッシモ」

2026.07.21

2014年の登場以来、機械式腕時計の薄さの記録を塗り替えてきたブルガリの「オクト フィニッシモ」。しかしこのコレクションを、単なる極薄腕時計と見なすのは大きな間違いだ。ブルガリは、本作を「使える腕時計」としてリリースし、その性格は年を追うごとに強まっていった。いわば、薄型腕時計の在り方を刷新したオクト フィニッシモ。新しく加わった直径37mmモデルは、その集大成とも言えるパッケージを備えたものだ。

ブルガリ「オクト フィニッシモ」

奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]


単なる小型にあらず、「万能時計」を志向する薄型腕時計の雄

 実のところ、筆者が現行品で最も好きな時計のひとつがブルガリの「オクト フィニッシモ」である。その構成は“ラグスポ風”に見えるが、極端に薄いケースや、ブレスレットに施された強めのテーパーが示す通り、これはドレスウォッチを今風に仕立て直した試みと言える。オクト フィニッシモがスポーティーな薄型ドレスウォッチ ——かつてはニッチだったが、今や堂々たるメインストリームだ—— の基準機たる理由は、腕時計としての確かなパッケージがあればこそだろう。

ブルガリ「オクト フィニッシモ」

 オクト フィニッシモの面白さは、薄さと立体感というそもそも相容れない要素を、高度に両立した、あるいはしようと試みてきた点にある。これはパテック フィリップの「ノーチラス」、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」、あるいはヴァシュロン・コンスタンタンの「222」が取り入れた要素だが、ベゼルだけでなく、ケースも立体的に改めたのが、オクト フィニッシモの新しさだった。もっとも、こういう“無理”ができた理由は、ブルガリの開発チームが、高度な生産設備を持つ、グループ傘下の外装工場を使用できたためである。

 さらに、オクト フィニッシモは薄型腕時計らしからぬ性格をも備えるようになった。そのひとつはインデックスや表示などを大きくすることで、視認性を改善したこと。そもそもジェラルド・ジェンタが手掛けたバーとアラビア数字の混在インデックスは、非常に見やすいものだった。ブルガリの時計デザインを統括するファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニはそれを手直しし、拡大したうえでオクト フィニッシモに採用したのである。薄型腕時計ならば細身にまとめるはずのインデックスを、あえて大きく見せたのはかつてない試みだった。

 そしてもうひとつが、堅牢なムーブメントである。薄型は普段使いに向かないという定石を破るべく、オクト フィニッシモの各ムーブメントは強固に仕立てられた。大きな受けや、受けの下側でひっかけて支えるクロノグラフのアームなどは、薄型ムーブメントらしからぬ頑強さをオクト フィニッシモにもたらした。

ブルガリ「オクト フィニッシモ」

ブルガリ「オクト フィニッシモ」
新しい直径37mmモデルには、複数の素材が用意された。右はおなじみのブラスト仕上げによるチタンモデル。左はドレッシーに振り切った18Kイエローゴールドモデルである。新しい製法により、面は従来以上に整った。併せてバックルも、標準的なプッシュ式に変更されている。自動巻き(Cal.BVF100)。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。直径37mm、厚さ6.45mm。30m防水。(右)262万9000円/(左)753万5000円(いずれも税込み)。

 そういった歩みの集大成が、2026年に追加された直径37mmモデルである。ケースを縮小するため、ムーブメントは全くの新規設計。香箱から再設計することで、約20%の縮小に成功したとファブリツィオは語る。また、今後の展開も考えて文字盤の厚みは0.4mmから0.8mmに増やされた。そしてブレスレットの弓管も、ピンではなく頑強なネジ留めだ。ファブリツィオが、薄さ以上にパッケージを強調した本作を「オクト フィニッシモのメインストリームになる」と評したのも納得である。

 加えて、ブルガリは外装の仕上げをさらに改善した。ファブリツィオ曰く「他社も使うザラツ研磨のような手法で、外装の平面を整えた」とのこと。詳しくは聞けなかったが、回転する円盤にケースを当てることで、角を残しつつ面を整えたのだろう。その成果は写真が示す通り。従来と変わらないように見えるが、角は一層立つようになった。また弓管とケースのクリアランスを詰めることで、時計の立て付けも向上した。ブラスト仕上げのチタンという素材でさえも、高級に見える理由だろう。

 37mmモデルのケース厚は6.45mm。40mmモデルの5.15mmより若干厚いが、極薄と言える範囲にある。ブルガリは増えた厚みを、存在感を増す方向に振り向けた。それを示すのが、わずかに広げられた弓管とケースのギャップ。ここに限らず斜面の幅をわずかに増やした結果、37mmモデルを斜めから見た際の印象は、薄型というよりもむしろ立体的だ。結果として、腕に乗せた際に「肩」が張ったように見える印象は減った。もちろんそれはオクト フィニッシモの明確な個性ではあるが、万人向けという意味では、「肩」を落とした処理は一層巧妙だ。

 初出から12年を経て、いよいよ熟成の域に達したオクト フィニッシモ。さまざまな矛盾を高度に抱合した本作は、今買える傑作のひとつと言って間違いない。



Contact info:ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142


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