『クロノス日本版』116号(2025年1月号)の第1特集では、デザインや素材が話題に上りやすい近年の時計市場の中で、独自のムーブメント開発に力を注ぐブランドに着目。「新型ムーブメント深掘り鑑定術」として、“見るべき”新型ムーブメントとそれを搭載したモデルを取り上げた。その特集の中のコラムをwebChronosに転載する。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Text & Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
解禁でどこまで普及するか? シリコンパーツ
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今や当たり前となりつつあるシリコン製の部品。脱進機を中心に広く普及したものの、本丸というべきヒゲゼンマイへの採用はまだだ。しかし、その特許はそろそろ切れる時期を迎える。温度変化と磁気に強いシリコン製のヒゲゼンマイ。特許の解禁は、機械式時計の在り方を大きく変えるかもしれない。
機械式時計の在り方を大きく変えるシリコンパーツ
機械式時計の性能が劇的に進化した遠因は、間違いなくETA2020年問題にあった。エボーシュを使えなくなった一部のメーカーは、自社製ムーブメントの開発にシフト。結果として自社製ムーブメントの性能はわずか20年で大きく変わったのである。普通の自動巻きが約3日間ものパワーリザーブを持つとは、誰が想像しただろうか?
もうひとつの理由は新素材の普及だ。例えばUV-LIGAで成形された部品は、より精密な歯車をもたらし、それはかつてない複雑時計を生むことになった。しかし、最も重要なのはシリコンパーツの普及だった。
当初これは、鋼やダルニコ材のガンギ車とアンクルを使わないために採用された。しかし磁気を帯びず、自由に変形できるという特性は、脱進機だけでなく、ヒゲゼンマイにもうってつけだった。ところが今も反対の声は少なくない。以前に比べて安定したものの、金属製部品ほどの信頼性はまだないためだ。しかし、シリコンが機械式時計を劇的に変えたのは紛れもない事実だった。
そんなシリコン素材の使用に関する特許が、もうそろそろ切れることになる。以前、この特許はユリス・ナルダンやロレックス、パテック フィリップやスウォッチグループが独占するものだった。リシュモン グループは実験的にシリコン製ヒゲゼンマイを採用したが、おそらくはスウォッチ グループとの係争を避けるため、自主的に引き揚げたと言われている。その特許が解禁されると、時計業界では大きな地殻変動が起きるだろう。
リシュモン グループのある関係者は、特許の解禁後、シリコン製ヒゲゼンマイを積極的に採用すると語った。同グループが、基幹ムーブメントの共有化を進める一因が、シリコン製ヒゲゼンマイの導入が容易であるためだ。その準備として、リシュモン グループの各社は、まずは脱進機を非磁性の素材に改めつつある。
LVMHグループも同様だ。タグ・ホイヤーがカーボン製ヒゲゼンマイの開発を断念した背景には、間近に迫るシリコン素材の解禁があったと言われている。少なくともハイエンドのメーカーはシリコン製ヒゲゼンマイを搭載するだろう。
ちなみに、割れやすいシリコン製のヒゲゼンマイには、緩急針を付けられない。つまり、今後シリコン製のヒゲゼンマイが解禁され、搭載するようになったムーブメントは、すべてフリースプラングテンプを採用するはずだ。仮にそうなったら、市場にある機械式時計の安定性は、今までとは比較にならないほど高くなるのではないか。






