1930年代に薄型ムーブメントのスケルトン化を手掛け、このジャンルを創造したオーデマ ピゲ。その同社が新たに取り組むのが、より造形的で自由なオープンワークである。題材に選んだのは、リュウズだけですべてのカレンダーを調整できる最新の永久カレンダー。仕上げに加えて、動きを見せる複雑時計の新しい在り方を読み解く。

Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
仕上げだけでなく、動きを楽しめるオープンワークという新しい打ち出し
腕時計の世界に、スケルトンという概念を持ち込んだのはオーデマ ピゲと言ってよいだろう。1930年代に薄型ムーブメントをスケルトン化した同社は、以降、とりわけ極薄キャリバー2003のスケルトン化でこの世界をリードし続けた。より正確に言うと、このジャンルを創造したのである。
そんなル・ブラッシュの老舗が新たに取り組むのが、オープンワークというアプローチだ。ムーブメントを肉抜きする点はスケルトンに同じ。しかし、歯車などの構成部品を強調するスケルトンに対して、オープンワークはより造形的である点が大きく異なる。つまりは、より自由というわけだ。

こういった変化の背景には、オーデマ ピゲのマニュファクチュール化がある。長年、ジャガー・ルクルト製のコンベンショナルなエボーシュに依存してきた同社は、旧ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)の買収を皮切りに、ムーブメントの内製化を進めてきた。複雑時計に始まった内製化はやがてベーシックな自動巻きに及び、今や複雑機構の部品を自在に配置できるまでになった。その帰結が「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(RD#4)」だろう。40もの機能を実用的なサイズに収めた本作は、同社の設計力が飛躍的に向上した証しである。
もうひとつ取り上げるべきは、2025年に刷新されたパーペチュアルカレンダーだ。リュウズの操作だけですべてのカレンダーを個別に調整できる点に、非凡な設計力がうかがえる。しかも搭載するCal.7138は、優れて実用的ながら(パワーリザーブは約40時間から約55時間に延びた)、審美性を失っていない。普通、3段引きのリュウズで4つのインダイアルを個別に操作するとなれば、部品は機能優先で配置され、見た目は二の次になる。しかし7138は、ベースである自動巻きの7120系はもちろん、その上に載る永久カレンダー機構も、傑作中の傑作とされた2120ベースの永久カレンダー(これをけなす時計好きはまずいない)に見劣りしないのである。ルカス・ラッジ率いる設計陣は、よほどの腕利き揃いに違いない。

永久カレンダームーブメントCal.7138をオープンワーク化した新ムーブメントCal.7139を搭載。同コレクション初のオープンワーク永久カレンダー。サファイアクリスタル製の文字盤にグレーの透明なインダイアルを重ねることで、審美性と視認性を高度に両立させている。カレンダーはすべてリュウズで調整可能。自動巻き(Cal.7139)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG×セラミックケース(直径41mm、厚さ10.6mm)。30m防水。要価格問い合わせ。
その7138をオープンワーク化したキャリバー7139を載せるのが、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ パーペチュアルカレンダー オープンワーク」である。文字盤の大部分を省き、受けを肉抜きして構成部品を見せる一方、あえて地板を残したのはうまい。スケルトンにすれば、いっそう見栄えはしただろう。しかし、ここまで部品の重なった複雑機構では、スケルトンならではの「ヌケ感」は演出しにくい。また、同社が課す「日常生活で想定される衝撃に対する厳格なテスト」もクリアできなかっただろうし、視認性も損なわれただろう。同社がオープンワークでさえ見やすさを重視したことは、4つのインダイアルを半透明のグレーに、その下で機構部品を押さえる受けの彩色をアンスラサイトにしたことからも明らかだ。
構成部品を露出させた本作には、Cal.7139ならではの機構が見られるという魅力もある。例えば、不均等な日付表示を可能にした「プログレッシブステップ」のディスク。不均一な歯車が噛み合って日付表示を替える様は、時計好きならば見たいもののひとつだろう。3段引きのリュウズを操作した際の部品の動きも、一般的な永久カレンダーでは決して見られないものだ。普通、スケルトンと言えばムーブメントや部品に施された仕上げを楽しむものである。対して本作は、「動き」を楽しめるようにしたのが新しい。
スケルトンというジャンルを創造したオーデマ ピゲは今、オープンワークで複雑時計の見せ方そのものを変えようとしている。仕上げを眺める時計から、機構の動きを楽しめる時計へ。それを可能にしたのは、部品を自在に配置できるまでに高まった設計力だ。本作は150年の歴史を重ねた今のオーデマ ピゲを象徴する1本なのである。



