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スペシャルイベントでH.モーザーの確たる技術力を噛みしめる(1/2)

三田村優:写真
Photographs by Yu Mitamura
細田雄人(クロノス日本版):取材・文
Text by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)

webChronosで参加者を募集したH.モーザーとクロノス日本版の限定イベントが、2018年11月11日(日)に東京・銀座のNX ONEで開催された。当日は現行モデルのタッチ&トライや懇親会、さらには日本限定モデルのお披露目など、数多くのプログラムが組まれたが、中でも一番の見どころはH.モーザーのCEOであるエドゥアルド・メイラン氏と本誌編集長広田雅将による対談形式でのトークショーだろう。本稿ではそんな両者のトークショーを中心に、当日の模様をお伝えする。

H.モーザーの歴史を振り返る

「我々クロノス日本版にとってH.モーザーは、2007年の復活以来、ずっと好きで追いかけてきたブランドです。今日はそんなH.モーザーの魅力を伝えていこうと思います」

 H.モーザーを中心に希少な高級時計を扱うNX ONEへ招かれた、およそ30名に向かって行われたトークショーは、クロノス日本版編集長広田雅将の上記の言で幕をあけた。

「みなさんご存知でしょうが、H.モーザーは1828年にロシアのサンクトペテルブルクで創業されました。会社を興したのはスイス・シャフハウゼン出身のハインリッヒ・モーザーです。1979年に会社は休眠しますが、2002年にユルゲン・ランゲ博士が復活させます。彼は自社製ムーブメントを開発するなど、H.モーザーのマニュファクチュール化を推し進めました。そして12年にその経営権をメイラン一家が引き継ぎ、現在に至るのです」

マニュファクチュールとしての底力

 そんな、H.モーザーのマニュファクチュールとしての底力が、同社のひとつ目の魅力だ。そして、その実力を端的に示すのがヒゲゼンマイである。

「H.モーザーはヒゲゼンマイに関しても自社で製造しており、さらに外部の25ブランドへ供給しています。ヒゲゼンマイを内製するメーカーは数社しかありませんが、その中でH.モーザー製(すなわち傘下のプレシジョン・エンジニアリング製)ヒゲゼンマイの質はスイスの中でも特筆して優れているでしょう。H.モーザーのヒゲゼンマイは、一体どんなポイントが優れているのでしょうか?」

 この質問に答えるのはH.モーザーCEOのエドゥアルド・メイラン氏である。

「ヒゲゼンマイは会社にとって非常にコアな部分のため、お伝えできることは少ないのです。コカ・コーラのエッセンスが公開されていないようなものですね。H.モーザーのヒゲゼンマイは合金の組成に秘密があります。現在、ヒゲゼンマイに用いられる合金で主流となっているのが、80年以上前に開発されたニヴァロックスです。しかし、現在のH.モーザーは3年ほど前に開発した、PE4000というオリジナルの合金を使用しています。業界における最新の素材を使用できている点が他社との大きな違いと言えるでしょう。ヒゲゼンマイの開発には、H.モーザーの株主として私たちメイラン一家のほかに名を連ねているシュトラウマン家の存在が大きいです。彼らが私たちのヒゲゼンマイ製造に関して、大きな知恵をもたらしてくれるのです。また、製作工程は他社と変わりませんが、使用される工作機械はH.モーザーが独自の仕様で発注したものを用いています。この点においても弊社のヒゲゼンマイは他社と異なっていると言えるでしょう」

 さらに、広田からもH.モーザーのヒゲゼンマイが高品質であることを端的に示す理由として、同社がダブルヘアスプリングを採用している点を挙げた。

「ヒゲゼンマイがひとつだけだと、伸縮した際にどうしても中心がずれてしまいます。ダブルヘアスプリングはその名の通りヒゲゼンマイを2枚、180°回転させて重ねることでこのずれを抑えようというものです。理論上は可能ですが、これまで実現できるメーカーはほとんどありませんでした。なぜなら重ねる2枚のヒゲゼンマイの品質が一致していなければいけないからです。一方が軟らかく、もう一方が硬いなど、2枚のヒゲゼンマイの品質が異なる場合は、結局中心がずれてしまうのです」

H.モーザーが公開している脱進調速機の製造動画。特にヒゲゼンマイの工程に関しては、公表しているメーカーが少ないため、非常に貴重な動画だと言える。


フュメダイアルのパイオニア

 自社製ヒゲゼンマイに並んで、H.モーザーを代表するのがフュメダイアルである。広田はふたつ目の魅力として、この美しいダイアルを挙げた。

「フュメダイアルとはカラーグラデーションダイアルのことで、もともとH.モーザーが始めた技法ではありません。しかし、これを広めたのは同社です。そして、いくつかのブランドが手掛けるようになってからも、いまだにH.モーザーの質はずば抜けて高いです」

 H.モーザー以外のメーカーもカラーグラデーションダイアルを採用するようになったとはいえ、そもそもカラーグラデーションダイアルを持つ時計自体がいまだ少ないように思える。他社が積極的にこのダイアルを作らないのには理由があるのだろうか。

「グラデーションを作るには塗料を薄く吹いていかなければなりません。しかし、塗料が薄いと下地が見えてしまうから、ダイアルの面をしっかりと磨く必要があります。下地を整え、色ムラが出ないように塗らなければならないため、非常にコストがかかるのです」

 フュメダイアルの製作がいかに複雑なのかは、次のメイラン氏の言葉からも見て取れる。

「製作にはベースになるダイアルが大切です。そこにサンドブラストの加工を施し、塗料を載せていくときれいなグラデーション効果が出ます。塗料を吹き付ける角度やスピードなどによってこのグラデーションは出ています。また、フュメダイアルを作る際は、気温や空気の流れなど、あらゆる要素が作用するため、すべての個体に差ができます。これはハンドクラフトの利点だと言えるでしょう」

 高い技術力が必要とされるフュメダイアル。そうなると歩留まりがどの程度なのかも気になるところだ。メイラン氏は続ける。

「フュメダイアルでは下地の処理からインデックスがセットされるまでに約200の工程を経ます。熟練の時計師であってもこの間に傷を付けてしまうことはあるでしょう。また、品質チェックもH.モーザーは他社と比べてより厳しく行なっています。一般的なスイスメーカーでは時計から30cmの距離をとって、肉眼で傷などを見ますが、H.モーザーではルーペを使って確認します。それだけで不合格になるダイアルは増えるでしょう。おおよそ半数が破棄されています」

2012年よりH.モーザーを率いるCEOのエドゥアルド・メイラン氏。この日は自社製ヒゲゼンマイに用いられる合金の素材から、フュメダイアルの歩留まりまで、普段なら表に出てこない話題が語られた。


“真面目”以外の魅力と今後の展望

 H.モーザーの時計が確かな技術力と手間をかけた手作業によって出来ていることが、これまでのふたりのトークからもよく分かるだろう。復興から10年以上が経過し、その時計づくりも十分に評価されているが、決して保守的にならないのが同社の強みである。広田が語る。

「“真面目なだけ”ではない、というのもH.モーザー、特にメイラン氏がCEOに就任してからの製品を語るうえでは欠かせない魅力です。スイスネス法を皮肉ったスイス マッド ウォッチやスマートウォッチに似せたスイス アルプ ウォッチなど、常に挑戦的な時計を作り続けています。とはいえ、これらはちゃんとしたモノを作れる土台がある、型あっての型やぶりです」

 常にベンチャー精神を持ち続けるH.モーザー。トークショーの最後はそんな同社を率いるメイラン氏に、今後の展望を尋ねた。

「クロノグラフやジャンピングアワーなどのコンプリケーションウォッチを拡大していきたいですし、よりスポーティーなブレスレットモデルを作っていきたいとも考えています。また現状、女性向けのモデルがラインナップにないため、強化していきたいですね。独立したブランドとして、しっかりとしたモノづくりをしながら、たまにはクレイジーなことをする。そういった方向性を大切にしていきたいです」

イベント当日には、日本限定モデルの「エンデバー・センターセコンド オートマティック コンセプト “ブルーホライズン”」が披露され、タッチ&トライに加わった。
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