復刻、古典、アニバーサリーモデル…秀作と評される共通因子とは?
復刻や古典を謳った現代の秀作機ほど、その佇まいの裏側に最先端のウォッチメイキングが巧みに隠されている。熟成された過去の感動を凌駕するために、現代の復刻モデルはその名と裏腹に、常に進化の最前線に立ち続けている。

1960年代にヌーシャテル天文台を制した懐中ムーブメントのデッドストックを搭載。ダイアルの意匠は39年のフライトデッキクロックから。手巻き(Cal.5011K)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径57.5mm)。111万3000円。問/ゼニスブティック銀座 Tel.03-3575-5861
もうお分かりのように、少なくとも現代において秀作と評される復刻モデルは、そこに盛り込まれた手法の面で、どれひとつとしてオリジナルに忠実であろうとはしていない。現代的な高級時計として必然性のない素材は淘汰され、多軸制御CNCなどの加工技術が加わり、ダイアルのニュアンスは一層複雑になった。復刻のみならず、古典、アニバーサリーといった、本来異なったテーマの作品の中に、同様のベクトルを持った秀作を多く見つけられる理由である。
では、これら秀作機に共通する因子とは何か? それは時計愛好家それぞれが抱え込んだ、オールドピースへの理想像を過不足なく盛り込むバランス感覚に他ならない。例えばオリジナルとは決定的に異なるはずのトランスパレントバックは、心の中で許容(むしろ歓迎)しているが、オリジナルに存在しなかったデイト表示の追加は許さない。スタンダードモデルに限って、確信犯的にデイト表示を追加したパネライでさえ、愛好家向けのスペシャルエディションには決してデイトを備えようとはしないだろう。
こうした心理的な絶対領域を侵されない限り、我々は復刻や古典の改編を認め、現代的にブラッシュアップされてゆく様を心地よく受け入れていられる。すなわち過去の感動が美化されて強化されていくように、古典機もまた進化してゆく余地を残しているのだ。むしろ新作が、熟成された過去の感動を凌駕しえないならば、新たに復刻などする必要すらないと断言できるだろう。復刻モデルの純度とは、オリジナルに最大限の敬意を払いつつ、あらゆる手法を駆使して、ファーストインパクトを越えてゆくことに真価があるのだ。 (鈴木裕之:本誌)
ジャガー・ルクルト 「グランド・レベルソ・ウルトラスリム 1931」

ロレックス 「オイスター・パーペチュアル・エクスプローラーⅡ」

ハミルトン 「パン ユーロ」

ロンジン 「シングルプッシュ クロノグラフ 180 リミテッド」

ボーム&メルシエ 「ハンプトン ハンドワインド エクスクルーシブ」

タグ・ホイヤー 「シルバーストーン 限定モデル」

オメガ 「シーマスター 1948 “ロンドン2012” 限定モデル」

