新作のサブマーシブルをメインに据えたパネライのイベントレポート

FEATURE本誌記事
2019.09.20

パネライ海へ還る

 5月下旬、中国・上海において、新作のサブマーシブルをメインに据えたパネライのイベント“Survival Instruments for Modern Heroes”(現代のヒーローのためのサバイバルツール)展が開催された。中国だけでなく、日本やシンガポールなど、アジア各国のジャーナリストやVIPが招待され、海の世界、それも沈没船が海底に横たわる、冒険心をくすぐられるパネライの世界へと誘われた。

イベント会場に選ばれたのは上海の黄浦江沿いに位置するミンシェン アート ワーフ。巨大な倉庫を改装して、海底をイメージした世界が構築された。だが、単に平穏な海だけがパネライのすべてではなく、時に力強く、危険な雰囲気を漂わせるのもパネライのDNAに含まれると、クリエイティブ・ディレクターのアルバロ・マッジーニは言う。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)

海のカタチを持つパネライがユーザーと分かち合う〝海体験〟

 パネライの商品開発トップのアレッサンドロ・フィカレリは言う。「今年のSIHHではサブマーシブルを独立したコレクションとして発表し、パネライのプロダクトを4つの柱にリブランディングしました」。また、クリエイティブ・ディレクターのアルバロ・マッジーニはイベントの趣旨をこう語る。「パネライほど海と密接な関わりを持つブランドはありません。そうしたパネライのDNAを、新しいサブマーシブルとともに伝えたいのです」。

会場内に展示された新作。写真のように、大きなアコヤ貝や岩礁を用いて海底らしさを演出。P.9010を搭載した47mm、OPXXXIVを搭載した42mm、そしてカーボテックやBMGテックに代表されるハイテク素材など、バリエーションも豊富になり、パネライの注力度を感じさせる。

 確かに、イベント会場は海底をイメージしたネイビーのライティングで照らされ、四方の壁面にはプロジェクターで、サメをはじめ、多様な海洋生物が映し出されている。だが、海底に目を移すと、そこには難破船や沈没した潜水艦など、非日常の光景が広がっている。その中に、サブマーシブルを中心に今年の新作が、大きな貝など、海をモチーフにしたディスプレイとともに展示されているのだから、その独創性に心が躍る。

潜水艦の中はVRの体験ブース。

一見、海底にいるような錯覚を覚えるが、ここは歴としたイベント会場である。上の写真は、会場の壁面にプロジェクターで映し出された海中のひとコマ。海面から差し込む太陽の光が真に迫る。その光を背に悠々と泳ぐのはサメだ。ディナー時は右の写真のように、タコのビジュアルが登場し、飽きさせない演出が憎い。

 加えて、会場の一角には潜水艦を模したブースが設けられ、そこでは深海での冒険をVRによって体験できるなど、ただ会場で雰囲気を感じるだけでなく、もっとリアルに〝体験〞するアトラクションまで用意されているのだ。

 そう、この〝体験〞こそが、サブマーシブルと並ぶ、今年のパネライのキーワードであることは間違いない。1月のSIHHでは、体験付きを売り文句にした3つの限定モデルが発表され、話題を集めた。このイベントにもゲストとして招かれているギヨーム・ネリーとのダイビング体験が付いた「サブマーシブル クロノギヨーム・ネリー エディション」。冒険家のマイク・ホーンとノルウェーを探検できる「サブマーシブル マイク・ホーン エディション」。そして、イタリア海軍の特殊部隊でトレーニングを受けられる「サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック™」である。どのモデルも海に関わる体験を提供しているが、このイベントを含め、今年、パネライは本気で〝体験〞を重視しはじめたのは間違いない。

ギヨーム・ネリー

イベント“Survival Instruments for Modern Heroes”のスペシャルゲストで、パネライのアンバサダーを務めるフリーダイバーのギヨーム・ネリー。彼の競技に対するストイックさには感銘を受けた。

 CEOのジャンマルク・ポントルエはパネライを指して、「テクニカル ライフスタイル ブランド」と位置付ける。「今や時計は機能だけでは十分ではありません。機能的なものではなく、エモーショナルなストーリーが求められているのです。レガシーにもなり得るストーリーは感情を呼び起こし、やがて人生を共に歩む相棒になるでしょう」

 そうした感情が芽生えた時、初めてその時計は道具を超えて、新たな価値を生むのだ。今、一部の高級時計ブランドが目指しているのはホスピタリティの提供であり、それは時計の世界でもモノからコトへのシフトが起きつつある証しだ。これこそがポントルエが打ち出した〝体験〞にほかならない。彼の言う「テクニカル ライフスタイル ブランド」という定義もこの潮流に照らし合わせれば、彼一流の慧眼と見ることができるだろう。

パネライCEOのジャンマルク・ポントルエ。取材時は前任者であるアンジェロ・ボナーティからパネライを引き継いでほぼ1年。偉大すぎる先達の存在をむしろチャンスと捉え、積極的に新展開を企図する。

プロダクトディレクターのアレッサンドロ・フィカレリ。ルミノールの一カテゴリーだったサブマーシブルを今年、独立したコレクションに格上げして拡充。パネライのプロダクトラインを4つの柱にリブランディングしたことを力説する。

 だが、理由は何であれ、海と深い関わりを持ち、海から生まれたカタチを持つと言っても過言ではないパネライが、再び海へ還ってきたことは、古くからパネライを知る者にとっては福音である。


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