高級時計が製造されるまで〜パルミジャーニ・フルリエを支える工房〜(ムーブメント編)

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2020.11.09

ヒゲゼンマイを自製するアトカルパ

 ケースに使用されるネジは、ケースの主要パーツと共に前述のカドランスで製作されているが、パルミジャーニ・フルリエのムーブメントに使われているエルウィン製ネジは、ジュラ州のアルという広大な農村にあるアトカルパに供給される。

 1989年創業のこの会社は、もともとスイス軍向けに機械部品を製造していたが、2000年にサンド・ファミリー財団に買収されたことがきっかけで、飛躍的な成長を自社とパルミジャーニ・フルリエにもたらした。

 そのきっかけは時計大国、スイスでもごく一部の限られた企業しか行えないヒゲゼンマイの製造を始めたことによる。

 ヒゲゼンマイは非常に繊細なパーツだが、ムーブメントの中での稼働率はテンワ(ここでもエルウィン製のネジが使われている)同様非常に高い。実際アトカルパは、時計の脱進調速機に使用されているパーツの全て、すなわちヒゲゼンマイからガンギ車、各輪列、そして爪石に至るまでを内製する能力を持つ。

アトカルパ

アトカルパのマニュファクチュールは、ヒゲゼンマイを含む脱進調速機の主要部品全てを製造している。

歯車のポリッシュといった繊細な作業も

 工作機械は自社製を主に、外注する際にも厳しい基準を設け、スイス国内で作らせることで、自国の産業を支援している。

 だが、機械的な側面はアトカルパの全体の一部でしかない。同社では装飾工房で職人を雇用し、社内で作られたパーツにハイエンドな仕上げを手作業で施している。とはいえ、パルミジャーニ・フルリエのムーブメントにおいて「見せる」部分とも言えるギヨシェやコート・ド・ジュネーブ、その他の装飾は含まれず、それらはヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエで行われるのである。

 ではアトカルパではどのような仕上げを行なっているのか。ここでは特に手先の器用さが求められる複雑な作業、つまり歯車の歯の間のポリッシュ仕上げなどがその例として挙げられる。

 従業員約140名のうちたった3名だけが、この作業をやり遂げることができるのだ。これらの行程は外観的というよりは機能的なもので、歯車同士の摩擦を減らすことが目的である。結果としてトリック エミスフェール レトログラードのパフォーマンスとレトログラード針のなめらかな動きにも貢献するであろう。

Cal.PF317

パルミジャーニ・フルリエのムーブメントメーカーであるヴォーシェのホールマーク、バーリーコーン模様が施されたCal.PF317のソリッドゴールド製ローター。