何がロレックスに大きな成功をもたらしたのか? その9つの理由

FEATUREWatchTime
2019.11.27

ロレックスは言わずもがな世界的に知られた腕時計ブランドであり、その揺るぎなさゆえ「ナンバーワン」の時計ブランドとして称されることも多い。今回は、『クロノスドイツ版』の編集長であるリュディガー・ブーハーが、ロレックス成功の9つの理由について言及する。

Originally published on watchtime.com
Text by Ruediger Bucher

理由1:名声

ロレックス

ロレックスは、世界的知名度を誇るウォッチブランドである。

 ロレックスは、ラグジュアリーウォッチブランドの中でも、最も知られた存在と言っても過言ではなかろう。時計ブランドに明るくない人のうち、ブライトリング、パテック フィリップを知らずとも、ロレックスの名前は多くが耳にしたことがあるはずだ。ロレックスの顧客にはふたつのグループがある。ロレックスについて非常に詳細まで知っているグループと、ほとんど知らないグループだ。前者の時計愛好家たちは、ロレックスの高い品質に引かれて購入する。おそらく極端に細部まで仕上げられた複雑時計にはない、日常生活での実用性や気軽さを好むのであろう。もう一方の後者のグループは、時計のことはあまり知らないものの、ロレックスを最良として認識している。このグループにとっての動機付けは、時計を着けるならばロレックスという考え方であり、ブランドにとってはこの上ない褒め言葉である。なぜならば時計について何も知らない人が、あるブランドを「ナンバーワン」と認めていることは、ブランドの在り方が正しい証だからである。

理由2:品質

GMTマスターⅡ

ロレックスのセラクロムベゼルインサートは、極めて硬いセラミックスから作られ、耐傷性と耐蝕性に優れる。

 ロレックス成功の最たる理由は、その誕生から今日までにわたり高く認められてきた品質にある。ロレックスの時計は堅牢性に優れ、精度も安定しており、正確な時間表示に信頼が置ける。年間100万本弱を生産しつつ、常にハイクオリティを維持できるというのは、もはや芸術の域に踏み入っている。また、あえて複雑時計を手掛けない方針も利点となっている。ロレックスにはトゥールビヨンもパーペチュアルカレンダーもミニッツリピーターもない。加えて言えば、ビッグデイトやパワーリザーブ表示、アラーム機構すらもない。自社の既存商品に全力を注ぎ、ディテールを改良し続けているのだ。そして同じことがムーブメントやケースにも言えるのである。ハイエンドを含む競合のどのブランドを見ても、サブマリーナーやGMTマスターⅡが備えるような滑らかなラチェットの回転式ベゼルを見付けることはできないだろう。

理由3:時計に求められる全て

2019年発表の「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」。C.O.S.C.クロノメーター認定。自動巻き(Cal.3285)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径40mm)。100m防水。SSブレスレット。

 ロレックスの知名度を築き上げた礎に、ロレックスが創業初期から日常使いの腕時計に求められる要素を見つけ出し、世に送り出した功績がある。1914年、ロレックスの創業者ハンス・ウイルスドルフは腕時計のムーブメントを、公認歩度証明書を取得するためにキュー・テディントン天文台へ送っている。精度の高さを証明するためだ。この姿勢は、現在でもクロノメーター検定協会(C.O.S.C.)が定めるよりも厳しい自社基準の高精度クロノメーターをクリアすることで引き継がれている。他にも1926年、ブランドとして最初の防水性能を持った時計が導入され、自動巻き機構が数年後に続いた。これは防水性能の維持を目的とし、リュウズを毎日引かないようにするために生まれた。このふたつの特徴は商品名の「オイスターパーペチュアル」に反映されている。1945年に誕生したデイトジャストは、これら全ての特徴を備えた最初の時計であった。自動巻き式、防水性能を持ったケース、クロノメーター認定である。名前の由来となったデイトウィンドウと共に、全ての基本を備えていたのだ。

理由4:デザインと特徴

フルーテッドベゼル

ロレックスのアイコニックな特徴、日付表示の上のサイクロップレンズ、フルーテッドベゼル、そしてメタルブレスレット。

 実用性の高さとは、そのデザインの機能が発揮されているということだ。ロレックスのデザインは防水性能と視認性に貢献し、それに加え、センター針のスイープセコンド運針やデイト表示を拡大するサイクロップレンズ(これもハンス・ウイルスドルフの考案)なども特徴的で実用性がある。ロレックスの現行のコレクションは、これまで何年も継続して、同モデル内での改良が加え続けられている。これを支持するのが、ロレックスのエキスパートであり、ドイツ語のポータルサイト『R-L-X Das Forum』を立ち上げたPercy Christian Schoelerだ。彼は「それぞれのアイコニックな意匠に対して、数十年にわたり、徹底的に検討された変更だけが加えられてきたことが、結果として外観に対する高い認知度につながった」と語る。突然のデザイン変更や方針転換はなく、ケースサイズの変更でさえあまり行われてこなかった。溝のついたフルーテッドベゼルや、特徴的な形の針、日付表示を拡大するサイクロップレンズ、オイスターブレスレットなどがその例であり、変更はまれにしか加えられていない。そのためデイトジャストやサブマリーナーの既存モデルと初期のモデルは、非常によく似ている。結果として遠目からでもロレックスの時計は認識しやすい。著名なウォッチジャーナリスト、ギズベルト・L・ブルーナーはこれを「10mのルール」と呼んだ。

理由5:安定した価値

スポロレ

ロレックスのステンレススティール製プロフェッショナルモデルは、人気が高く、価格の安定性を維持している。

 車は購入した途端、その価値は半減する。時計においても同様のことが言えるが、ロレックスは例外である。少なくともステンレススティール製のプロフェッショナルモデルに対する高い需要を見ると(これは同時にゴールド製モデルや、チェリーニにとっては悩ましいが)、購入価格をわずかに下回る程度か、むしろ上回る価格を付けることが往々にある。例え購入動機がそこにあろうとなかろうと、これはどのような顧客にとっても魅力的な要素であろう。賢い選択をしたと顧客を安心させるのである。

理由6:オークション・プライス

バオ・ダイ

ロレックスのRef.6062バオ・ダイのトリプルカレンダー・ムーンフェイズは2017年5月にフィリップスにおいて、506万USドル(約5億7000万円)で落札されている。

 リセール市場の安定性は、ロレックスの時計がオークションで高い落札価格を記録することに大きくつながっている。オークション市場において、パテック フィリップの次に注目されるブランドがロレックスだ。ここ数十年の間、ロレックスのオークションでの成功例は、何千にも及ぶ。いくつかの事例は、めまいが起こるほど高い価格で落札されている。2017年10月には、俳優かつレーサーであったポール・ニューマンが所有していたコスモグラフ デイトナが、ニューヨークで行われたフィリップスの「Winning Icons」において、当時のオークション史上最高値となる1775万2500USドル(バイヤーズプレミアム込みで約20億円、なしだと約17億円)で落札された。これは、ベトナム最後の皇帝バオ・ダイが所有していたトリプルデイト表示(ポインター式デイト表示、曜日・月をウィンドウで表示)で、ワンショットのブラック文字盤にダイヤモンドインデックスがあしらわれたRef.6062が記録した、それまでのロレックスの最高落札価格を塗り替えたものだった。ちなみにバオ・ダイは同年5月にジュネーブのフィリップスにおいて落札されたものだった。

理由7:人気モデルにおける入手の困難さ

コスモグラフ デイトナ

希少性と人気の高い、ロレックスのステンレススティール製オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ。

 人の欲求とは、対象が入手できないという状況において頂点に達するものだ。ステンレススティール製のオイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナは、その初期のモデルがハリウッドスターのポール・ニューマンの手首に現れてから、多くの人々にとって垂涎の的となっている。ロレックスは、実売数に伴ってほぼ同じ本数の時計を店頭に納品する。これが結果として、長いウェイティングリストをつくることになるのだ。こうしたことによる入手の困難さが、ロレックスの神話の世界を拡張させていく。

理由8:マーケティングとコミュニケーション

ロジャー・フェデラー

ロレックスは1978年以来ウィンブルドンのオフィシャル・タイムキーパーを務める。現在ではテニス界のレジェンド、ロジャー・フェデラーのスポンサーとなっている。

 ロレックスの創業者、ハンス・ウイルスドルフはマーケティングの天才であった。顧客の関心がブランドにでなく、出入りの時計店にあった当時から、異なる言語でも発音しやすいブランド名を考え、それを文字盤にしっかりと記した。またウイルスドルフは自社の防水性能を持った時計を「オイスター」と呼び、その時計をイギリスのドーバー海峡の横断遠泳を試みる女性スイマーに与えた。この出来事を、ウイルスドルフをはデイリーメール紙の一面に全面広告として打ち出す。他にも若い女優が時計を着けた手首を、水槽の水に浸している広告を雑誌にも掲載した。1970年代頭には、プレステージ性の高いテニスやゴルフ、カーレース、乗馬やヨットなどに注力。それ以降もウィンブルドン、USオープン、F1において公式タイムキーパーを務め、ロレックスはスポーツ界での存在感を明確に示してきている。

理由9:ゆるがぬ神話

ロレックス

ジュネーブのプラン・レ・ワットにあるロレックス本社。

 ロレックスは常に堅実性を重視し、時代の流行や変わったものを追いかけるより、検証された方法を用いて継続的な改良を重ねることに忠実であり続けてきた。ブランドの神話はロレックスが1970年代に訪れたクォーツブームに(いくつかのクォーツモデルを発表したにしても)完全に飛び込まなかった事実にも見ることができる。ロレックスはトゥールビヨンやリピーターといった複雑時計を作らず、新しいコレクションを発表することは非常にまれで、オンラインでの販売からも距離を置いてきた。シリコンパーツなどの新しい技術は非常に時間をかけて開発した上で慎重に採用している。スマートウォッチなど「スマート」と名が付くものは、もっての他だ。これらの手法により、顧客にとってブランドの印象は明確なものとなり、同時にブランドが誤った一歩を踏み出さないことに貢献している。毎年春に行われるバーゼルワールドにおいて新作発表を行うときも、それに重きを置き過ぎることはない。他のブランドは世界初といった発表を重要視し、セレブリティを擁したプレスカンファレンスを行ったり、真新しいコレクションを発表したりしている中で、ロレックスは静かに細かい改良に勤しむのだ。ロレックスの多くの発表内容は、ムーブメントの改良、セラミックベゼルの導入、新色の採用などだが、それでもロレックスファンの間で熱く語られ、論争を巻き起こすものもある。また筆者とブランドとの接触の経験から述べれば、ロレックスは「牡蠣(オイスター)のように」謎めいており、ジュネーブの本社からビエンヌのムーブメント製造部門に至るまで、顧客もプレスも滅多にその内部を垣間見ることはできない。そしてお決まりのルールとして、CEOはインタビューを受け付けないのだ。


本誌、2019年7月号では、約10年ぶりにスイス本社および製造拠点への訪問を許可されたクロノスドイツ版編集長リュディガー・ブーハーが、王冠を掲げた時計王国の知られざる世界を紹介している。
https://www.webchronos.net/features/31729/
クロノス7月号