ドイツ時計のカリスマクリエイター「ヨルク・シャウアー」氏 インタビュー

自らを「Der Uhrenbauer(デア・ウーレンバウアー)」、英語に訳すと「ウォッチビルダー」と名乗る、ドイツ時計のカリスマクリエイターのひとり、ヨルク・シャウアー氏が、新生渋谷パルコ5階「NEXT TOKYO」の「TiCTAC update」オープンを記念した限定モデルのプロモーションのために来日した。

ヨルク・シャウアー

渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

ヨルク・シャウアー氏インタビュー
「スイス時計はコンプリケーテッド過ぎる」

 記念モデルは本人の名を冠したブランド「シャウアー」ではなく、彼が2004年から継承と発展に取り組んでいる彼の地元フォルツハイムの老舗ブランド「STOWA(ストーヴァ)」の定番モデル「フリーガー」コレクションの新作「フリーガー ウエールス 40」の世界30本のみの限定モデルである。なお、この「フリーガー ウエールス 40」のレギュラーモデルは、ドイツのグッドデザイン賞ともいえる「レッド・ドット・デザイン賞2019」を受賞している。

フリーガー ウエールス 40

「フリーガー ウエールス 40」の渋谷パルコ新生オープン記念モデル。自動巻き(ETA2824-2)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径40mm)。5気圧防水。世界限定30本。12万円(税別)。

フリーガー ウエールス 40

裏蓋はシースルーバック仕様になっており、搭載されるムーブメントETA2824-2を見ることができる。

 フリーガーモデルの針やインデックスをグレー文字盤に合わせてステルス化したクールな1本。価格は税別で12万円とお手頃だ。ケースバックからは搭載されるムーブメントETA2824-2の様子も楽しめる。

 グレーのシンプルなロングTシャツに、確かジーンズとホワイトスニーカー。黄緑色のメガネフレームに黄緑色のラバーベルトのウォッチ。インタビューは11月22日、新生渋谷パルコのグランドオープン当日。5階「NEXT TOKYO」のフロアにぴったりなファッションのシャウアー氏。だが「ウォッチビルダー」を名乗るだけに、彼ほど職人魂を感じさせる時計ブランドのオーナーは珍しい。

「機械式時計の魅力を若い人にもっと知ってほしいから『ストーヴァ』ブランドを限定モデルに選びました。『シャウアー』は、私のアイデアを私の手作業で具現化する時計ブランド。私がいなくなったら作れない。でもストーヴァは違います。歴史があり、多くの人に愛されてきた時計ブランド。ストーヴァでより多くの人にドイツ時計の魅力を味わってほしいのです」とシャウアー氏。ムーブメントの仕上げをあえてベーシック仕様にしたのも、価格を抑えるためだという。

フリーガー ウエールス 40

左が、「レッド・ドット・デザイン賞2019」を受賞した「フリーガー ウエールス 40」のレギュラーモデル。右が、世界30本限定の渋谷パルコ新生オープン記念モデルとなる新作の「フリーガー ウエールス 40」。

 思い返せばシャウアー氏に初めてインタビューさせてもらったのは、2000年頃のバーゼル・フェア(現バーゼルワールド)。メッセ会場のすぐ近くにある地下のスペースにドイツ時計のクリエイターたちがスペースを借り、合同で出展していた。引き合わせてくれたのは、現在「TiCTAC」などを統括するヌーヴ・エイ代表取締役社長の松崎充広氏。シャウアー氏の工房に連れていってくれたのも松崎氏。当時はバイヤーとして自らバーゼル・フェアに乗り込み、新規ブランドの開拓に奔走していた。1999年にシャウアー氏と運命的に出会い、日本の代理店となって以来、「TiCTAC」で「シャウアー」そして「ストーヴァ」を販売してきた。

 ドイツ時計の魅力は何よりも「シンプル、ミニマムなスタイルと高品質だ」と語るシャウアー氏。いつしか話は最近のスイス時計やバーゼルワールドの今後の話に。

「個人的には、今のスイス時計は複雑過ぎると思いますし、高価すぎるとも思います。そして、バーゼルワールドはお金がかかり過ぎます。私が出展していた頃のバーゼルは時計好きな人たちが集まって時計の話ができる楽しい場所でした。当時のような、時計に関わるすべての人のための、出展者も参加者もお金がかからない、新しいプラットフォームを作るべきだと思うし、それを求めている人は多いと思います」

 先日、独立系の時計ブランドが集まる3日間の小さな展示会がニューヨークであり、それに出展し、大きな感銘を受けたという。「小さな会場でしたが、誰もが時計を気軽に見に来られる。たった3日間の開催なのに1万5000人もの来場者があり、会場の誰もが生き生きしていました。楽しかったですよ」。

 工房の近くの、以前レストランだった建物を買い取ってゲストハウスに改装し、そこで顧客イベントを定期的に開催していくというシャウアー氏。

「毎回15人を上限に、一緒にワインと食事、会話を楽しんでから工房を案内します。料理の半分はケータリングですが、半分は私が作っているんです。イタリア製の素晴らしいエスプレッソマシンも入れました。時計の背景にどんなことがあるのか。それも含めて私の時計を楽しんでほしいと思います」

 渋谷パルコで、時計の中にも彼のような世界があることを知る若者が増えれば、もっと時計人気が高まって、業界がもっと楽しく盛り上がるのではないだろうか?