トゥールビヨンの種類と搭載腕時計
ここまでは、トゥールビヨンの歴史や仕組みについて紹介した。
ブレゲが腕時計搭載モデルを発表した1980年代には、10名に満たない職人しか実現できないといわれたトゥールビヨンだが、現在では搭載モデルは増え、より複雑な機構へと進化を遂げている。
ここでは、トゥールビヨンのバリエーションと搭載モデルの一端を紹介しよう。
トゥールビヨンの種類
トゥールビヨンは、ブレゲが考案したキャリッジ(ヒゲゼンマイ、アンクル、テンプ、ガンギ車)をブリッジで固定するタイプのほかにも、いくつかの種類がある。
代表的なもののひとつが「フライングトゥールビヨン」だ。これはブリッジをなくし、キャリッジが浮いているように見える機構を持つ。ブリッジを底面側だけにしたり、透明にしたりするなど、各メーカーによる工夫がこらされている。技術的にも高度で価格も高額だ。
キャリッジが球体のトゥールビヨンもある。これは「ジャイロトゥールビヨン」と呼ばれ、ジャガー・ルクルトが開発した。フライングトゥールビヨンよりもさらに希少価値が高い。
代表的なトゥールビヨン搭載モデル
トゥールビヨンをいかに美しく見せるのか、これは各ブランドに課せられた命題ともいえる。ヴァシュロン・コンスタンタンの場合、1880年から使い続け、長く同ブランドのアイコンとなっている「マルタ十字」をあしらったデザインが特徴だ。大人気コレクションに2019年に登場した「オーヴァーシーズ・トゥールビヨン」ではトゥールビヨンには珍しくステンレススチールケースを採用し、独自性を高めている。
毎年のように機械式時計の世界最薄記録を打ち立てるブルガリの「フィニッシモ」コレクション。4つ目の「オクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティック」(ケース厚3.95mm)に続き、6つ目の世界記録となったのが、2020年に登場した「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン クロノグラフ」である。388点もの部品で構成されるCal.BVL388はムーブメント厚3.5mmという驚きのサイズを実現。単に薄さを追求するのではなく、装着感もよく、使い勝手にも配慮。さらにはフィニッシモらしい美しさを兼ね備えた逸品である。
1000万円超は珍しくないトゥールビヨン機構搭載モデルで、アンダー200万円を実現したのがタグ・ホイヤーの「カレラ キャリバー ホイヤー 02T トゥールビヨン ナノグラフ」である。世界で初めてカーボンコンポジット製のヒゲゼンマイを採用している。カーボンコンポジットとは、軽量で高強度、また重力や衝撃の影響を受けないという特性を持ち、非金属性のため完全な耐磁性能をも備えた素材だ。精度も高く、トゥールビヨンモデルでは珍しくC.O.S.C認定クロノメーターを取得している。
トゥールビヨンを世に送り出したブレゲが、新世代のトゥールビヨンとして2006年に発表したのがふたつの香箱とふたつのトゥールビヨンを載せた土台が、12時間で1回転する「クラシック ダブルトゥールビヨン 5347」である。搭載されるCal.588Nは、いくつもの特許を取得して完成しており、このため現時点で他社が同様のトゥールビヨンを製作しようとしても叶わない。まさにブレゲ唯一のトゥールビヨンである。紹介する「クラシック ダブルトゥールビヨン 5345 ケ・ド・ロルロージュ」は、2020年9月に発表されたモデルで、前作から文字盤を外してスケルトナイズ加工を施したもの。技術面に加えて、その美しさから凄みすら感じさせるモデルである。
トゥールビヨンの機構を楽しむ
トゥールビヨンは腕時計が市販されるより100年ほども前に、高精度な携帯式時計のために発明された複雑機構だ。
現在では各部品の高性能化もあり、機構が誕生した当時のようなトゥールビヨンの必要性は薄れているが、機械式時計の魅力のひとつとして、卓越した技術と美観を兼ね備えた時計史に輝く象徴的な機構であることに変わりはない。
トゥールビヨンモデルの低価格化も進み、100万円台や200万円台で手に入るものも登場している。機械式時計を愛好するならば、トゥールビヨンの美しい動作を直に感じてみてはいかがだろうか。
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