カルティエのムーブメントは自社製? 汎用製? 種類や特徴を紹介

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2020.06.30

時計選びにおいて着目するのはどのような点だろうか。もちろん、ビジュアルやブランドバリューも大切だが、長く愛用するうえではムーブメントへの理解も深めておきたい。ここでは、世界の時計ファンを魅了するカルティエのムーブメントについて掘り下げる。

© Cartier


ムーブメントの基礎知識

精度の高い時計は、精密に作られた数多くのパーツが、熟練の技法で緻密かつ丁寧に組み立てられている。メンテナンスを施しながら、ひとつの時計を大切に使い続けるためにも、時計の構造を理解しておくことは肝要だ。

なかでも時計の心臓部となるムーブメントについて、まずは基礎的な知識から押さえていこう。

ムーブメントとは

ムーブメントとは、時計の駆動部分を指す。いわばクルマのエンジンにあたるもので、ムーブメントから発せられる動力で各パーツが作動し、時を刻む。

ムーブメントは大きくふたつのタイプに分けられる。まずは「機械式」だが、この方式には「自動巻き」と「手巻き」の2種類がある。

自動巻きは、身に着けている時の動きで時計内部のローターが回転し、それを動力としてゼンマイを巻き上げるタイプを指す。対して手巻きは、自らの手でリュウズを回し、ゼンマイを巻き上げて作動させる。

「クォーツ」は電池を動力源とするムーブメント。水晶(クォーツ)の振動を用いて時刻を調整するもので、電池が切れれば交換が必要だ。

電池交換が必要な一次電池式に対し、「ソーラー」は文字盤が太陽光や電灯の光を受けてソーラー発電し、動力源とする二次電池式。充電式なので、通常のクォーツと比較して3~4倍と長い電池寿命が特徴だ。

ETAなど汎用ムーブメントの種類

汎用ムーブメントとは、専門のメーカーが製造するムーブメントの総称である。大量生産を実現しているため、低コストで高品質なムーブメントを製造し、多くの時計ブランドに提供している。

高級腕時計にも、汎用ムーブメントを搭載するモデルがある。世界に名立たる一流ブランドにも供給する主要な汎用ムーブメントメーカーとして、「ETA」「セリタ」などが知られている。

特にETAの存在は圧倒的だ。汎用ムーブメントメーカーとして、最も数多くの時計メーカーに提供している。

1990年代には、スイスで生産される時計の実に8割以上に、ETAのムーブメントが搭載されるほどのシェアを誇っていた。


汎用ムーブメントと自社ムーブメント

もちろん、ETAやセリタなどに代表される汎用ムーブメントではなく、自社製のムーブメントを搭載するブランドもある。それぞれの違いなどについて解説しよう。

汎用のメリットとデメリット

汎用ムーブメントのメリットは、第一に価格面が挙げられる。大量生産を可能にしたことで、時計メーカーは安価で供給を受けられるのだ。

これより、メーカーは高品質の時計を低価格でユーザーに届けられる。その結果、消費者はコストパフォーマンスの高いモデルを手にできるというわけだ。

量産型であるため、構造の設計にはさほど複雑さがない。それゆえ、多くの時計工房で修理などの対応が可能なことも利点だ。

一方で、デメリットもある。機能や針のポジションなどが固定されているので、デザインに制約が生じてしまう。同じムーブメントを採用する時計を比較すると、雰囲気が似通ってしまう点は否定できず、ブランドやモデルごとの個性が損なわれてしまうこともある。

自社ムーブメント開発の流れ

2002年、時計界にある事件が起こった。ETA問題と呼ばれるもので、同社が2010年以降、グループ以外への出荷を制限すると発表したのである。

従来、多くの時計メーカーは、ETAから「半完成ムーブメント」を仕入れ、それを独自に組み直す手法で製造してきた。

そのため、ETA社から「完成品ムーブメント」しか提供されなくなる多くの時計メーカーは、対応に苦慮することになった。そして、各社は自社ムーブメントの開発に乗り出すことになるのである。


カルティエの自社ムーブメント搭載モデル

世界の社交界や財界からも根強い信頼と高い評価を得るカルティエも、自社ムーブメント搭載の腕時計を発表している。3モデルについて詳述していこう。

パシャ ドゥ カルティエ

パシャ ドゥ カルティエ

© Cartier
パシャ ドゥ カルティエ
自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径41mm)。10気圧防水。予価71万円(税別)。

「パシャ ドゥ カルティエ」は、カルティエの2020年新作におけるハイライトコレクションだ。

1985年に誕生して人気を獲得したラウンドウォッチで、新モデルではオリジナルを踏襲したデザインを携えながらも、ダイアルの仕上げやリュウズなどのディテール、ブレスレットの簡単な交換を可能にしたクイックスイッチ システムを採用。現代的なエレガンスと実用性を兼ね備えた1本に仕上げている。

ムーブメントは2015年に発表され、脱進機に非磁性のパーツを採用したキャリバー1847 MCを搭載している。

キャリバー1847 MC

Cédric Vaucher © Cartier
サファイアクリスタルのケースバックからはキャリバー1847 MCが確認できる。

サントス ドゥ カルティエ

サントス ドゥ カルティエ LM

Vincent Wulveryck © Cartier
サントス ドゥ カルティエ
自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS×18KYG(縦47.5×横39.8mm)。10気圧防水。109万2000円(税別)。

「サントス ドゥ カルティエ」は、長く深い伝統を踏襲しながらもモダンなデザインの美しさが秀逸な一品だ。ムーブメントにはパシャ ドゥ カルティエと同様、キャリバー1847 MCを採用している。

ルイ・カルティエの友人で、飛行家のアルベルト・サントス=デュモンによってオーダーされた時計は1904年に完成。それは、丸型が主流であった当時としては画期的なスクエアフェイスだった。

スクエアケースの成功は、カルティエにとっても時計界にとっても歴史を飾る貴重な1ページとなった。この伝統はカルティエの歴史に脈々と息づくことになるのである。

タンク MC

Photo 2000 © Cartier
タンク MC
自動巻き(Cal.1904-PS MC)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(縦44×横34.3mm)。日常生活防水。71万円(税別)。

角型フェイスが特徴的な「タンク」は、100年を超える歴史を有する伝統的なコレクション。なかでも「タンク MC」は、クラシカルかつコンテンポラリーな魅力を持つ2013年デビューのモデルである。

モデル名のMCは「マニュファクチュール カルティエ」の略で、その名のとおり同社初の量産型ムーブメントで、ツインバレルを収めた自動巻きキャリバー1904-PS MCを搭載している。

大型のムーブメントを作るメーカーも多いなか、このムーブメントは直径25.6mm、厚み4.0mmの従来サイズで設計。この選択が、薄くエレガントなタンクの美学の追求を支えているのである。


ムーブメントにもこだわろう

ムーブメントが影響を持つ点は、機能面だけではない。設計によって各部の構造がかわるため、ビジュアルやデザインにも影響を与える重要な部分だ。

時計を知る上で、ムーブメントへの理解は欠かせない。適切な知識を備え、こだわりの時計選びに役立ててほしい。

川部憲 Text by Ken Kawabe


Contact info:カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-301-757


カルティエの歴史と基礎知識

https://www.webchronos.net/features/37028/
これぞ完成形! 2020年の新作、カルティエ「パシャ ドゥ カルティエ」

https://www.webchronos.net/features/45043/