未来をデザインするラドー CEO「マティアス・ブレシャン」

FEATUREWatchTime
2020.04.12

2005年からスウォッチグループのExtended Group Management Boardのメンバーで、2011年からラドーのCEOを務めるマティアス・ブレシャン。ウォッチタイムのロジャー・ルーガーとのインタビューにおいて、その役割とブランドの直近における変遷を語った。

マティアス・ブレシャン

ラドー CEO、マティアス・ブレシャン
Originally published on watchtime.com
Written by Roger Ruegger
Edit by Tsuyoshi Hasegawa

ウォッチタイム(以下WT):2011年からラドーの舵取りをされていますが、過去8年間のなかで自身のハイライトと言えば、どのような事柄が挙げられますか?

マティアス・ブレシャン(以下MB):あまりにも多くのことがありますが、特に印象的なのは今年(※2019年)でしょうか。長年我々は、他と競合しないカラー展開をセラミック分野にて研究してきました。これは個人的にも、そしてチームにとっても情熱を注ぎこんだ計画であり、業界が私達に対してパイオニアでありリーダーであることを期待してきた分野だと自負しています。「トゥルー シンライン レ・クルール ル・コルビュジエ」のコレクションにおいて投入したのは、誰もが真似のできないヴィヴィッドで生き生きとした9つのモデルです。建築学的色彩は、ル・コルビュジエが1931年と1959年に考案したふたつの色見本帳で示されており、63のカラーが9つのグループに分類されています。今回、私達はこの9グループそれぞれからひとつのカラーを選び出しています。かなり以前に提唱された色見本ではありますが、非常によく考え抜かれた色彩学であり、現在でも世界のデザインや建築学校で学ばれているものです。

WT:そんなあなたがスイスの時計業界でキャリアをスタートした切っ掛けとは何ですか?

MB:私にとって時計業界は非常に魅力的なシーンであり、個人的には前進や革新ではなく、常に伝統を振り返ることのできる唯一の場だと思っています。ほとんどの産業は、自身を適応させるか衰退の道を辿るかのどちらですから。時計作りには伝統を生かす精神があり、それが時計業界を発展させ続けているのです。ラドーにおいて仕事をしていて、一番引かれる部分はそこにあると感じています。なにか他の会社では実現していないこと、または不可能であることを、当初から継続して行っているということ。ラドーは規格外の存在であると思っています。

トゥルー シンライン レ・クルール ル・コルビュジエ

ラドーの「トゥルー シンライン レ・クルール ル・コルビュジエ」は、コルビュジエ考案のカラーパレットを祝福したモデルだ。

WT:ラドーはどちらかというと若いブランドと言えると思います。創業“わずか”1957年であるというところから見える利点とは、どのようなものでしょうか?

MB:非常に面白い質問ですね。その点に関して言えば、普通は弱点と思われる場合が多いですから。歴史と遺産がもてはやされる時計業界において、“新参者”であるということは大変なことです。ラドーの最大の利点は、その歴史の長さではなく時計業界の“ユニコーン”であるということ。今まで誰も成し遂げなかった、または未着手の分野に私達は足を踏み入れています。グローバルにアピールする、ニッチブランドと言える存在のように思います。

WT:ここ数年、ラドーのコレクターに対する訴求力は高まっていると言われています。この最近の戦略を牽引する軸というと、どのようなものでしょう?

MB:特に戦略における変更はありません。1957年からラドーは素材・革新・デザインという3分野に注力し続けています。急に最近になって何か新しいことを始めたわけではありません。私たちのコレクションから発表される時計はすべて、この3分野にリンクするものばかり。自身の本来の姿に忠実であることが、コレクターの方々への強い訴求力となって表れたのでしょう。一般的に新しい顧客に訴求するということは、市場において他のブランドがカバーしている層にアプローチするということですから。

ゴールデンホース

2019年に再投入された「ゴールデンホース」コレクション。

WT:現在、一番人気と言えるモデルとなると?

MB:ラドーでは一番人気のモデルというものはありません。ラドーが作りだすアイテムは、個々の顧客によって異なる存在だからです。「インテグラル」や「セラミカ」などのアイコンは、ハイテクセラミック素材開発の初期に、ラドーを気に入って下さったお客様に訴求します。「トゥルー シンライン」はカラフルで、長く使えつつ個性を表現できるものを探している若い方にマッチしたモデルです。「トラディション」、「ハイパークローム」、「トゥルー シンライン」は異なった客層に様々なアプローチで強く訴求するという、似たような傾向を備えています。今年は「キャプテンクック」、「トラディション」の「ゴールデンホース」、「トゥルー シンライン レ・クルール ル・コルビュジエ」にて、アメリカ市場が持つ期待感に応えたのではないかと考えています。

WT:ラドーの物作りにおいて、デザインが担う役割とはどのようなものでしょうか?

MB:デザインはラドーにとって、基本事項と言えるでしょう。先ほど申し上げた素材・革新・デザインという3本の柱のなかのひとつでもあり、創業当時からブランドDNAの一部です。外部デザイナーとのコラボレーションは、研究開発に活力を与えてくれます。デザイナー達のユニークなデザインを、ディテールに至るまで商品に生かせるようこちらからも積極的に働きかけ、同時にデザイナーからはビジョンが提供されるのです。デザイナーからもたらされるものは、未来がどのようなものかというアイディアであり、デザイン世界への信念を持つことでベサン・グレイやコンスタンティン・グルチッチ、それにジャスパー・モリソンなど、最高に素晴らしいデザイナー達と仕事をする機会が得られました。どのデザインをベースにしたとしても、ラドーでは常に品質・革新・素材、そしてそのデザインを念頭に、時計作りを続けているのです。