サマータイムにも対応したA.ランゲ&ゾーネの新型「ランゲ1・タイムゾーン」を着用レビュー

FEATUREWatchTime
2020.12.16

2005年の初作発表から15年後、A.ランゲ&ゾーネの「ランゲ1・タイムゾーン」は新しい自社製ムーブメントを搭載することとなった。専用に開発されたCal.L141.1を搭載し、新たにサマータイム表示を得た新しいランゲ1・タイムゾーンを紹介しよう。

ランゲ1・タイムゾーン

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1・タイムゾーン」
手巻き(Cal.L141.1)。38石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYG(直径41.9mm、厚さ10.9mm)。ブティック限定100本。585万円(税別)。
Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
(2020年12月16日掲載)


A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1・タイムゾーン」

 地球上を直接移動しなくても、異なるタイムゾーンにいる人と仕事やコミュニケーションを行うようになったのに伴い、第2時間帯表示は時計が装備する最も便利な機能のひとつに上がった。

 そのため、現在では第2時間帯表示は非常に一般的な機能として多くの時計で見られるが、我々が思っているほど最近考案されたものではない。1884年に開かれた国際子午線会議の直後、グラスヒュッテの革新性にあふれた時計師達は、調節可能なふたつの時刻を合わせ持つ懐中時計の製作に取りかかった。これらのアンティークタイムピースは、現在コレクター達の垂涎の的である。

 今回レビューを行った「ランゲ1・タイムゾーン」は、ホームタイムと任意に選んだもうひとつのタイムゾーンの時刻を表示する。全体的にクリアで直感性に優れ、いうまでもなくランゲ1のデザインに組み込まれているものだ。大きく、オフセンターされた9時位置側にある時分針がローカルタイムを示す。一方、5時位置にあるサークルが第2時間帯のゾーンだ。

 これは2005年にデビューを果たした最初のランゲ1・タイムゾーンから採用され続けているレイアウトである。ランゲ1・タイムゾーンでおなじみの都市リングは文字盤外周に配され、24の都市名がそれぞれ地球の24のタイムゾーンとリンクするようになっている。

 この都市名のリングによって、現在、第2時間帯として表示されているタイムゾーンがどこかすぐに分かるようになっているのだ。そしてランゲ1・タイムゾーンの機能性は、調整が可能な第2時間帯を備える他の時計をはるかにしのいでいる、と筆者が考えるほどに扱いやすい。

ランゲ1・タイムゾーン

既存モデル同様、ランゲ1・タイムゾーンはメインの時間を、9時位置にあるオフセンターのサブダイアル上にゴールドの針とアプライドインデックスで表示する。

昼夜表示のために回転する2枚のディスク

 ところで、もともと設定されていたタイムゾーンから外れる都市もある。タイムゾーンが前述の国際子午線会議において、その地理的経度によって理論的に決定されていたとはいえ、現在は政治的境界線や各国の利権による変更を伴い、タイムゾーンの設定はより難しくなっている。

 結果としてランゲ1・タイムゾーンのような時計の設定も難しくなるというわけだ。例えばロシアは、10年と14年にふたつのタイムゾーンを廃止し、11年から3年以上サマータイムを通年で採用していた。この混乱に伴い、ランゲ1・タイムゾーンの都市リング上では、「モスクワ」は影響を受けにくいサウジアラビアの「リヤド」(UTC/GMT+3時間)に変更されている。ベネズエラも同様にタイムゾーンの変更を行い、「カラカス」が削除され、都市リングにはチリの「サンティアゴ」(UTC/GMT−4時間)が加えられている。ただこれらは混乱を招くいくつもの更新の中の一事例にすぎないのだ。

 このタイプの時計で非常に便利な昼夜表示は、今回の新しいランゲ1・タイムゾーンで全く新しく設計しなおされている。2枚のディスクからなり、1枚はローカルタイムを示すサブダイアル中央に、もう1枚は第2時間帯表示のサブダイアルの中央に配されている。

 夜を示す半円の形をしたダークブルーのアーチがプリントされたディスクは、軸を中心に24時間で1回転し、それにつながる時針は同じ軌道を2回転する。もし時針がブルーのアーチの上にある場合は夜、より正確には午後6時から午前6時の間ということになる。

 時針が文字盤のブルーではない部分にある時は、日中で、午前6時から午後6時ということになる。これらの表示は以前オフセンターされて配されていたランゲ1・タイムゾーンの昼夜表示に比べ、直感的に理解しやすいだけでなく、調和が取れているように思える。

ランゲ1・タイムゾーン

都市リング上の名称は、24のタイムゾーンにリンクしている。GMTの意味は1984年に定義されたように、グリニッジ標準時(Greenwich Mean Time)である。

第2時間帯のセッティング方法

 第2時間帯の設定方法は、既存モデルと同じだ。対象となる場所が記されているリングを通して行われ、8時位置にあるプッシャー操作によって24段階で行う。このプッシャーを押すと、第2時間帯の時針は1時間進む。同時に都市リングが西から東に向かって1タイムゾーンごとにジャンプする。小さな方のサブダイアルの5時位置にアプライドされたゴールドの矢印が、対象のタイムゾーンの場所を指し示す。この操作の間、既にセットされた大きなサブダイアル上のローカルタイムに変更は見られない。

 ビジネスパートナーのいる場所の時間や、これからの行き先などの目的に合わせ、第2時間帯をセレクトする前に、最初に時計を同期させておく必要がある。このプロセスを始めるには、8時位置のプッシャーを1度ないしは複数回押して、都市リングを希望する位置へもっていき、ゴールドの矢印の先がホームタイムと同じになるようにする。

 その後針を合わせるには、刻みのついたリュウズを第二段階に引き出す。これは2本の指で難なく行うことができ、リュウズもスマートに所定の位置に収まる。すると2本の針はリュウズを回すにつれて、同期して動く。ただし8時位置のプッシャーを押し込むと、第2時間帯の時針は同期から外れる。こうしてふたつの時間表示は同期するが、気を付けてほしいのは、プレッシャーを適切に押し込む必要があるということだ。

 あまりにもソフトにプッシャーを浅く押し込んでしまうと、第2時間帯の針は回転し続ける。そしてあまり強くプッシャーを押し込むと、今度は文字盤外周の都市リングが前進し、全てのプロセスを1からやり直す必要がある。同期作業はプロセスを時計回りに進めるのが、一番やりやすい。

 時刻調整の時、昼夜表示とデイト表示が適切かどうかを確認するのも重要である。これについては必要があれば、10時位置のボタンをプッシュして修正することができる。プッシャーに比べ、このボタンは非常に操作しやすい。そして(ストップセコンドが用意されている)秒表示を合わせれば、ふたつのタイムゾーンは並行して稼働することになる。

ランゲ1・タイムゾーン

アプライドされた矢印がリンクの役割を果たし、どのタイムゾーンの時刻を表示しているかを指し示す。矢印の中がレッドの場合は該当タイムゾーンではサマータイムが適用されている。

 小さなサブダイアルでビジネスパートナーのいる場所を設定する場合は、単純に8時位置のプッシャーを押すだけでよい。すると文字盤を取り囲む都市リングが1時間ごとに進むので、ゴールドの矢印の先に希望する都市が来るようにすればいいのだ。操作が終われば、選択した第2時間帯の時間を針が示すようになる。

 上記で述べた同期についてのプロセスは、新しいタイムゾーンに長く滞在する場合にメインの表示時間を変更したい時にも用いられる。リュウズを使って大きなサブダイアルに表示されているメインの時間表示を変更すると共に、8時位置のプッシャーを押して第2時間帯表示の時刻が変わらないようにする。都市リングは常に第2時間帯とリンクしている一方、アウトサイズデイトはメインの時間表示につれて進んでいく。もし時差で眠れない時に時計が動いていれば、真夜中の後1時間の間にデイト表示が徐々に変わっていくのをみることができるであろう。

ランゲ1・タイムゾーン

A.ランゲ&ゾーネのムーブメントの眺めはいつも魅力的である。ここではCal.L141.1が6本のネジで留められたサファイアクリスタル製ケースバックを通して鑑賞できる。2番車への輪列が4分の3プレート上に見える。

 この時計のサマータイム表示は、アプライドの矢印を通して行われる。矢印の中心がレッドの時は、選択したタイムゾーンでサマータイムが実施されていることになる。その場合、頭の中で第2時間帯表示にある時刻に1時間の調整をする必要がある。

 これか機能を担っているのが新しい自社製手巻きムーブメントCal.L141.1、つまりオリジナルのベーシックキャリバーであるL901ではなく、ランゲ1のファミリーが搭載している新しいムーブメントである。既存の65個のさまざまなムーブメントから得られた経験値がこの最新作に集約されている。

 前作と同様に、ランゲ1・タイムゾーンのパワーリザーブは約72時間。しかし、ツインバレルからシングルバレルへと変更されている。このため初期のモデルに見られたツインバレルを意味するドイツ語表記がムーブメントの地板から取り除かれ、代わりに72時間のパワーリザーブを意味するドイツ語の「Gangreserve 72 Stunden」の表記が見られるのである。

 今までA.ランゲ&ゾーネの文字盤に用いられていたパワーリザーブの残量を示すドイツ語のAuf(up)とAb(out)は、そのまま文字盤の2時位置と4時位置の間に変わらず配置されている。1時位置にある重要なアウトサイズデイト同様、針の軸もランゲの考え抜かれたデザインの一部であるため、今回変更が加えられることはなかった。メインタイムのローマンインデックスとその他のアプライドインデックス、第2時間帯のアラビア数字のブラックプリントもそのままである。ゴールドのリーフ状の針も健在である。

Cal.L141.1

新しい昼夜表示の24時間車、革新的なサマータイム表示に使われる大きなレバー、レッドとホワイトの三日月型パーツがはっきりと見て取れる。

世界を旅することを念頭になされたムーブメント設計

 スペースを確保するため、Cal.L901で4分の3プレートの上に配置されていた第2時間帯表示を司る3つのギアは、新しいキャリバーL141.1でも同様となっている。メインの時間のミニッツホイールから第2時間帯のミニッツホイールへの伝達機構が、美しい輪列のカーブを描いている。同様の形状の歯車は古い旋盤でも見ることができる。典型的なグラスヒュッテ様式として、大きなゴールドの中間車が、ハンドエングレービングされゴールドシャトンで留められたコックに組みこまれている。

 Cal.L141.1はもちろん「A.ランゲ&ゾーネの高い品質基準」にのっとって作られている。その技術的かつデザイン的ディテールには、2万1600振動/時のテンプや、ランゲ自社製のヒゲゼンマイ、洋銀製4分の3プレート、ふたつのゴールドシャトン、青焼きのネジ、スワンネック型の稼働ヒゲ持ちを備えるハンドエングレービングが施されたバランスコックなどが含まれる。

 精度を言及すると、今回のタイミングマシーン上は僅かにゆっくりな数字となっていた。だがこの点は、今回のテスト機が発表前のプレビューモデルで、量産機ではないため、評価対象から外されている。同じ理由から、この美しいタイムピースはすぐに送り返す必要があったため、数日間の着用テストも実現できなかった。

ランゲ1・タイムゾーン

 世界への旅へぜひこの時計と共に繰り出したかったが、残念ながらそのための時間も機会も得ることはできなかったため、自らの場所を離れずにこの時計のタイムゾーン機構を使って世界を巡ることができたのは大きな喜びであった。


Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080


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