『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2025。「ジュネーブで輝いた新作時計 キーワードは“カラー”と“小径”」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回取り上げるブランドは、今年も寡作ながら、高い完成度を備えた新作を打ち出すA.ランゲ&ゾーネだ。
Photographs by Yu Mitamura, Ryotaro Horiuchi
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
2025年の白眉は直径34mmの新型1815だ

いわばA.ランゲ&ゾーネの「全部載せ」。満を持してお披露目されたエナメル文字盤は、おそらくA.ランゲ&ゾーネ史上ベストだ。少なくともリピーターの音質も、リヒャルト以上に調整が取れている。ただし、極めつきに高価だ。手巻き(Cal.L122.2)。54石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径40.5mm、厚さ12.1mm)。20m防水。世界限定50本。要価格問い合わせ。
毎年寡作を貫くA.ランゲ&ゾーネ。2025年の新作もわずか3つしかないが、そのいずれもが高い完成度を備えている。そんな今年のハイライトは、永久カレンダーとリピーターを組み合わせた「ミニッツリピーター・パーペチュアル」だ。ムーブメントはリヒャルト・ランゲをベースに大幅に改良。リュウズを引いたらリピーターを鳴らせない機構や、クォーターをパスするシステムも同じ。しかし、抵抗を減らすべく慣性ガバナーが改められた。ちなみに文字盤はなんとブラックのクロワゾネエナメル。ティノ・ボーベいわく「会場内にあるほとんどの時計よりもこの文字盤の値段は高い」とのこと。
時計好き待望の新しい1815は、小さなケースに新規設計の手巻きムーブメントを格納する。サイズを含めて、個人的には歴代の1815のベストだ。小径化で使う金の量が減ったためか、価格も戦略的だ。手巻き(Cal.L152.1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。
こちらはPG版。搭載するCal.L152.1は、香箱の直径を拡大し、長い主ゼンマイを収めることでパワーリザーブを大きく延ばした。手巻きの感触も、A.ランゲ&ゾーネらしい精緻さに満ちる。内外装の質感は言うことなし。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。
個人的に引かれたのは、小径の「1815」だ。直径34mm、厚さ6.4mmのケースには直径28.1mm、厚さ2.9mmの新型ムーブメントが搭載される。テンワの慣性モーメントが大きくなったほか、パワーリザーブも約72時間というから、現行では最も望ましい手巻きのひとつだ。しかも価格も妥当である。最後はハニーゴールドの「オデュッセウス」。溶接のできないこの素材は、外装部品がすべてネジ留めのオデュッセウスにはうってつけだろう。

外装部品がすべてネジ留めのオデュッセウス。理由は修理の際に磨きやすくするためだ。溶接に向かないハニーゴールドの採用は妥当だろう。自動巻き(Cal. L155.1DATOMATIC)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18Kハニーゴールドケース(直径40.5mm、厚さ11.1mm)。12気圧防水。要価格問い合わせ。
アントニー・デ・ハスをインタビュー
今年の「ミニッツリピーター・パーペチュアル」で、ミニッツリピーターに永久カレンダーというコレクターにとっての「全部載せ」を実現したA.ランゲ&ゾーネ。説明のために現れたアントニー・デ・ハスは「リピーターはクラシカルなものですよ、何も特別ではない」という前置きから話を始めた。「リピーターの機構自体は、リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターと大きく変わってはいません。ですが、皆さんが思っているほど単純ではないんです」。
リピーターの開発でも自分たちの道を歩んでいきたい

A.ランゲ&ゾーネ 商品開発ディレクター。1967年、オランダ生まれ。スイスの時計学校を卒業後、セイコー・オランダに入社。97年、IWCでアフターサービスを担当した後、1999年、ルノー・エ・パピ(現マニュファクチュール・デ・セニョル)に入社。A.ランゲ&ゾーネに招聘され、04年に入社。05年以降、すべての製品の開発を統括する。モットーは「過去の焼き直しはしないこと」。
「リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターやランゲマティック・パーペチュアルが載せるムーブメントを流用したのでは? と聞かれましたが、そうではありません。仮にオリジナルのムーブメントをそのまま流用したら、ケースの厚さは14mmになっていたでしょう。でも今回は厚さ12mmに収めています」。
もっとも、永久カレンダー自体はそう目新しいものではない。「今回もクラウンホイールと呼ばれる、1カ月で1回転するディスクがすべてのカレンダーを変える機構を採用しました。ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨンやランゲマティック・パーペチュアルでも使う機構を、今回のモデルにも応用しましたね」。むしろ見るべきは、ベースとなったリピータームーブメントの大幅な見直しだ。
「やっぱり、そのままだと面白くないですからね。今回は機械を薄くするため、ベースとなるリピータームーブメントに永久カレンダーを部分的に統合しています。モジュールではないのです。合わせてラックの位置を調整したり、部品の配置も変えていますよ」。他の改良点を彼は列挙した。
「ゴング自体はあまり変えていませんが、ケースを軽く、厚みも抑えました」。つまり、音響効果を改善したというわけだ。そして「今回のモデルでは、ゴングをベゼルに固定せず、ケース内の共鳴空間に固定しています。これにより、手に持ったときと腕に巻いたときで音量に差が出ないよう調整しました」。デ・ハスが実機を鳴らしてくれたが、確かに腕に置いたときと、それ以外でも音量に大きな違いはない。加えて、リピーターのスピードを司るフライング・ガバナー(遠心制御機構)も変更された。
「リヒャルト・ランゲのガバナーはブリッジの下にありますが、新しいモデルではブリッジの上に移動しました。これによりガバナー軸受けの長さが短くなり、調速時の余分な振動を抑えることに成功しました」。価格を考えれば当然だろうが、結局全面的な見直しになったというのは、いかにもA.ランゲ&ゾーネだ。
「リピーターの開発において、私たちA.ランゲ&ゾーネは、他社のような50年や60年の経験を持っていません。せいぜい10〜12年ですね。しかし、その分、常に学びながら独自の方法を築いてきました。やはり私たちは他社を真似るのではなく、自分たちの道を歩んでいきたいのです」



