2025年に発表された新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ年末恒例企画。今回は時計業界随一の理論派である髙木教雄が選んだ時計を紹介する。1位には氏がクロノグラフの常識を変えたとすら評するオーデマ ピゲの新型クロノスグラフが選出。他にも小径化で話題を呼んだA.ランゲ&ゾーネ「1815」や大塚ローテック「5号改」などを挙げた。

1位:オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)“150周年アニバーサリー”」
クロノグラフ機構を、ここまで大掛かりに革新したのはいつ以来であろう? ラック&ピニオンの応用は、目から鱗。ハートカムをハンマーで叩くというリセット機構の仕組みに、何ら疑問を抱いてこなかった自らを恥じた。

自動巻き(Cal.8100)。44石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。チタン×BMGケース(直径39mm)。2気圧防水。世界限定150本。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
2位:A.ランゲ&ゾーネ「1815」
クラシカル、薄型・小径、ブルーという今年のトレンドを象徴する1本。新型Cal.L152.1は、直径34mm×厚さ6.4mmのケースに収まるサイズでありながら約72時間駆動を実現してみせたのには、脱帽である。ブルーの色合いも好みに合う。

手巻き(Cal.L152.1)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径34.0mm、厚さ6.4mm)。3気圧防水。要価格問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
3位:オーデマ ピゲ「新パーペチュアルカレンダー全般」
こうしたランキングのセレクト依頼では、個人的に1ブランド1本を原則としてきたが、前出の「RD#5」ともども、どうしても外せなかった。リュウズによる永久カレンダーの操作性を、40年ぶりに大革新した設計力の勝利。

自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
4位:ブレゲ「クラシック 5177」Ref.55177BR/2N/9V602
ブラックダイアルのクラシカルウォッチ再評価の先鞭をつけたのが、これ。グランフー エナメルの質感、黒の深みは文句なし。日付表示を外したのも、大英断である。金黒時計に、高貴なまでのエレガンスをもたらした。

自動巻き(Cal.7775)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRGケース(直径38mm、厚さ8.8mm)。3気圧防水。422万4000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
5位:大塚ローテック「5号改」
工房を訪ねた際にプロトタイプを見せてもらって以来気になっていた存在であり、発売がアナウンスされたと同時に即購入。機構もデザインも極めて個性的で、着けていて本当に楽しい。満足感は、価格よりもはるかに高い。

自動巻き(Cal.MIYOTA90S5+自社製サテライトアワーモジュール)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ7.6mm)。日常生活防水。74万8000円(税込み)。(問) 大塚ローテック https://otsukalotec.base.shop/
総評
5本に絞ることに、悩みに悩んだ。今年の新作は、本当に名作ぞろいだったからだ。クラシック回帰や小径・薄型化、ブルーといったトレンドは、既報通り。後半に入ると、これまで稀少種となっていたクラシカルウォッチのブラックダイアルが台頭してきたのも新たな傾向である。
機構面では、永久カレンダーが例年以上に多かった印象。ここでは革新性という点でオーデマ ピゲを選んだが、パルミジャーニ・フルリエの「トリック パーペチュアルカレンダー」とNAOYA HIDA &Co.の「NH TYPE 6A」も、個人的な好みにドンピシャだった。またカルティエの「タンク ア ギシェ」、ルイ・ヴィトンの「タンブール コンバージェンス」のようなディスク表示式も今年、再注目された。その中で飛びぬけて個性的だったのが、国産初のサテライトアワーを実現した大塚ローテックの「5号改」だった。
これらが象徴するように、非時計専業ブランドやマイクロメゾンの創作の完成度と注目度はますます高まってきている。国産勢にも年差±20秒という超高精度をかなえたグランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」や極薄トゥールビヨンと工芸的美観を融合したクレドールの「ゴールドフェザー トゥールビヨン GBCF999」といった力作が出そろった。そして悩んだ末1位に選んだのは、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)“150周年アニバーサリー”」。クロノグラフのリセット機構と操作性を激変させた、近年では群を抜く傑作と呼ぶにふさわしい1本である。
選者のプロフィール
髙木教雄
時計ジャーナリスト。工学部で培った知見と、圧倒的な取材経験によって裏付けされた原稿が魅力的な業界随一の理論派である。その豊富な知識と鋭い視点で切り込んでいく時計専門誌向けの記事から、一般誌での時計特集、新聞での初心者向け記事など、活躍のフィールドは幅広い。世界文化社から機械式時計の入門書、『腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』を上梓。



