時計経済観測所/ポストコロナで圧倒的に高まる?中国の存在感

LIFEIN THE LIFE
2021.04.23

新型コロナウイルスの感染拡大が世界を席巻したことにより、日本だけでなく、世界の経済状況が大きく変わった。その中で、唯一気を吐いているのが同ウイルスの発生地とされる中国だ。一党独裁故に、いち早くコロナ禍を克服できたことも、他の先進民主主義諸国とは異なる点である。果たして、やがて訪れるポストコロナの世界はどう変わっているのだろうか? 気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が考察する。

磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama
安堂ミキオ:イラスト Illustration by Mikio Ando
[クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事]

ポストコロナで圧倒的に高まる? 中国の存在感

磯山友幸

 新型コロナウイルスの蔓延は世界経済の「地政学」にも大きな変化を与えている。財務省が発表している貿易統計を見ると、日本と世界各国との輸出入の現況が分かる。それによると、2020年の日本から世界への輸出額と、世界から日本への輸入額の合計である「貿易総額」は136兆円あまりと前年に比べて12.4%減少した。輸出が68兆円と11.1%減、輸入が67兆円と13.7%減った。

上昇しつづける中国の重要度

 そんな中で「中国」の存在感が大きく増している。中国向け輸出は15兆円と2.7%の伸びにすぎなかったが、他の地域向けの輸出が激減しているからだ。2019年に最大の輸出先だった米国向けは12.6兆円あまりと17.3%も減少。この結果、中国向け輸出額を下回り、中国が最大の輸出先になった。

 もともと中国からの輸入額は米国からの輸入よりもはるかに多く、輸出と輸入を加えた貿易総額は2007年に中国が米国を抜いて以降、差が開いてきたが、その差がさらに広がった。

 ただし、輸出額から輸入額を引いた「貿易収支」を見ると、米国との間では約5兆1800億円の日本側の黒字なのに対して、中国との間では2兆4100億円あまりの赤字になっており、日本にとって米国が依然として重要な貿易相手国であることは変わらない。だが、新型コロナの影響から米国がどれぐらいのペースで脱却できるかによっては、中国の重要度がさらに上がっていくことになるかもしれない。

香港の首位陥落と存在感を強める中国

 そんな中国の存在感の高まりは、高級時計の世界にもはっきりと表れている。この欄でもお馴染みのスイス時計協会の集計による、2020年年間のスイス時計の輸出先では、歴史的に大きな変化が起きた。これまでスイス時計の最大の輸出先は、戦後長い間、香港がトップだった。香港は高級時計の世界最大の需要地だったわけだが、ついに昨年、その地位を明け渡した。統計によると、2020年の香港向け輸出額は16億9670万スイスフラン(約1986億円)で、2019年比なんと36.9%も減少、世界3位に転落した。香港に代わってトップに躍り出たのは、もちろん「中国(大陸)」である。2020年のスイスからの輸出は一気に20%も増え、23億9400万スイスフラン(約2800億円)に躍進した。新型コロナに伴う経済凍結で消費が落ち込んだ米国向けは19億8670万スイスフラン(約2326億円)と17.5%も減ったので、中国に大きく水を開けられて、2位にとどまった。

 香港は英国の植民地だった頃から、世界を代表する貿易都市として栄えてきた。1999年に中国に返還された後も「一国二制度」の方針の下で、それまでと変わらないアジアの貿易拠点、金融拠点としての地位を保ってきた。それがにわかに変わり始めたのは2014年の「雨傘運動」と呼ばれた民主化運動から。2019年には強権姿勢を強める香港政府に対してさらに激しい抗議運動が盛り上がったが、2020年6月に遂に中国政府が「香港国家安全維持法」を成立させ、民主派の弾圧に乗り出した。

 従来の「一国二制度」が風前の灯火となったことに西側諸国は強く反発。貿易上の最恵国待遇を取り消すなど対抗措置を強めた。この結果、香港の貿易都市としての地位が音を立てて崩れているのだ。貿易統計を見ても、日本から香港向けの輸出額は2015年には年間4兆2300億円と4兆円を超えていたものが、2020年は3兆4100億円にまで減少している。

 ちなみに、2020年のスイス時計輸出の総額は169億8410万スイスフラン(約1兆9884億円)と21.8%も減少した。これまでに経験したこともない、未曾有の減少だった。いずれ、新型コロナは終息し、経済活動が本格的に再開されることになるだろうが、その「ポストコロナ」の時代に世界の貿易地図はどう変わっているのか。やはり、中国の「独り勝ち」が鮮明になっていくのだろうか。


磯山友幸
経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。
http://www.hatena.ne.jp/isoyant/


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