ヴァシュロン・コンスタンタン、歴史を紡ぐ現代の古典主義

FEATURE本誌記事
2022.02.04

伝統的な意匠に寄り添う複雑機構のプラットフォーム

 一方、より明確なクラシシズムを牽引することとなったトラディショナルには、もうひとつ重要な役割が与えられてゆく。ケースサイドを絞るという現代的な手法でスリムなイメージを付与されたパトリモニーに対し、よりオーソドックスなシリンダーケースを持つトラディショナルは、厚みのあるコンプリケーションムーブメントを違和感なく搭載するためのプラットフォームとしても好適だったのだ。

トラディショナル・マニュアルワインディング
2009年初出。同年登場の大径手巻きムーブメントを搭載。6時位置にスモールセコンドを置くサボネットスタイルの輪列配置で、古典的な審美性を実現。手巻き(Cal.4400 AS)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KPG(直径38.0mm、厚さ7.7mm。3気圧防水。255万2000円。

 ケース径と厚みのバランスがデザインの鍵となるパトリモニーに比べて、シリンダーケースならば厚みが増してもバランスを崩さない。もちろん、ヴァシュロン・コンスタンタンが手掛けるトゥールビヨンやコンプリート・カレンダーといった複雑機構が、トラディショナルが持つ古典的な雰囲気と、高い親和性を持つことも重要なポイントだ。

コレクションとしては2007年発表の「パトリモニー・トラディショナル・オートマティック」が源流。当初はパトリモニーのバリエーションだったが、14年以降は独立したコレクションに再整備された。ケース造形としては、よりオーソドックスなシリンダースタイルを基調とするが、ケース側面からラグ側面にかけて連続したサイドステップを設けることで実際よりも薄く見せ、バックケース側面のコインエッジがデザイン全体に抑揚を加えている。ダイアル造形の面では、レイルウェイトラックとドーフィンハンドがデザインコードとなるが、時分針の断面には山型の稜線を設けず、平面形状左右をマット/ポリッシュに仕上げることで、立体感を加えている。

 なお、同社ビスポーク部門であるレ・キャビノティエ作品からも分かるように、近年のヴァシュロン・コンスタンタンが手掛けるユニークピースにも、少しずつ新素材導入が目立つようになってきた。同社はチタンケースやNACコートなど、〝伝統的ではない素材〞の導入には慎重な姿勢を貫いているが、決して研究開発を怠っているわけではない。メティエ・ダールに代表される伝統的な装飾技法や、ムーブメントデザインとの鞍点を探りながら、決して過剰とならない範囲で遊び心を加えてゆくのだ。そうした意味では、21年末に発表された「トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス」は、同社が大切に育ててきた〝現代的な古典の姿〞を一歩進めたターニングポイントになるだろう。

 ヴァシュロン・コンスタンタンが模索する〝クラシック・ウィズ・ツイスト〞は、次のステージへと飛躍を遂げようとしている。

(左)トラディショナル・コンプリートカレンダー
2018年初出。写真のWGモデルは21年の新作。オパーリン仕上げのスレートグレーダイアルに合わせて、ムーンディスクも銀色に変更された。自動巻き(Cal.2460 QCL/1)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG( 直径41.0mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。488万4000円。
(右)トラディショナル・コンプリートカレンダー・オープンフェイス
2021年新作。コンプリート・カレンダーのオープンダイアル化に合わせて、地板にNAC処理が盛り込まれた。月相は精細なフォトエッチング。自動巻き(Cal.2460 QCL/2)。27 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG( 直径41.0mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。563万2000円。


【ブランド公式サイトでトラディショナルの全コレクションを見る】
https://www.vacheron-constantin.com/jp/ja/collections/traditionnelle

 

Contact info: ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755
https://www.vacheron-constantin.com/jp/ja


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