高いが、やむなし! 400万円を超えるベーシックウォッチ、パテック フィリップ「カラトラバ Ref.5226G」はアリ

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2022.04.19

毎年定点観測の対象になっているのが、パテック フィリップだ。実用性を重視した複雑機構に、ユニークな文字盤の仕上げは、他社にとってのベンチマークであり続けてきた。2022年もさまざまなモデルを投入したが、個人的に最も興味深かったのは、ベーシックな「カラトラバ Ref.5226G」である。

広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

カラトラバ Ref.5226G


ひとつひとつのディテールに高い理由が隠されている

 1990年代に、パテック フィリップは若年層に訴求するコレクションとして「カラトラバ Ref.5000」を完成させた。パテック フィリップらしからぬ丸みを帯びたケースに、黒文字盤とアラビックインデックスの組み合わせは、明らかに今までのカラトラバとは違うものだった。同社の意図が成功を収めたかはさておき、ジュネーブの老舗が、早くから定番モデルに現代味を接ぎ木したのは興味深い。

カラトラバ Ref.5226G

パテック フィリップ「カラトラバ Ref.5226G」
カラトラバ Ref.5000のいわば進化系。際立って良質な外装が特徴だ。ブラックグラデーションのテクスチャード・ラック・アントラサイト文字盤に、ゴールドのアプライドインデックスを埋め込んでいる。写真が示す通り、地をかなり荒らしているが、品よくまとめている。ベゼルを太くできるのは、磨きに対する自信があればこそ。自動巻き(Cal.26-330 S C)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWG(直径40mm、厚さ8.53mm)。

 2022年のカラトラバ Ref.5226Gは、そんなモダンなカラトラバの最新作である。文字盤の仕立ては、1990年代のRef.5000に同じ、ブラックのベースにアラビックインデックスの組み合わせ。もっとも、下地を強く荒らして、インデックスとのコントラストを強調するだけでなく、インデックス自体も、プリントではなくアプライドに改められた。年々、薄さと立体感の両立に妙味を見せるパテック フィリップらしく、本作も、その薄さを感じさせないだけの存在感を放つ。

 地味だが注目すべきは、アプライドのインデックスだ。細いインデックスはエンボスではなく、ホワイトゴールドのアプライドを文字盤に固定している。この細さのインデックスに脚を立てるのは難しいが、パテック フィリップは、永久カレンダーで採用したこの新手法でノウハウを蓄積したのだろう。今年はベーシックなモデルに採用しただけでなく、下地を荒らした文字盤に固定する、というもう一段難しい試みに挑んだ。

Cal.26-330 S C

雑な写真だが、ケースの歪みのなさは分かるはず。ラグと裏蓋を一体成型することで、ミドルケース全面にクル・ド・パリ装飾を施している。


ケースのクル・ド・パリはラグとミドルケースを分けることで実現

 ケースの造形も面白い。ケースサイド全面にはクル・ド・パリ模様が刻まれている。外周に彫り込んで、ラグを取り付けたと思いきや、本作は、裏蓋とラグが一体成型されている。つまり、外周にクル・ド・パリを彫り込んだミドルケースを、ラグと一体になった裏蓋とラグで挟み込んでいるわけだ。ミドルケースとラグのクリアランスは極めて小さく、まるで溶接で仕上げたように見える。その意図を、パテック フィリップの開発責任者であるフィリップ・バラは「ケース側面にきちんとクル・ド・パリを施したかったため」と説明する。

 彼が強調するだけあって、カラトラバ Ref.5226G-001のケースは、ベーシックなモデルとは思えないほど磨きが良い。見た限り、鏡面仕上げのレベルはRef.6119に同じだが、ベゼルやラグの平面を強調した本作では、歪みの小ささがいっそう際立っている。現行パテック フィリップの魅力である完成度の高いケースは、本作でも十分味わえる。

 搭載するのは、自動巻きのCal.26-330。傑作324 S Cを熟成させた本作は、相変わらず優れた巻き上げ効率と、優れた感触、それ以上に、セラミックベアリングで保持しているとは思えないほど、静かなローター音に特徴がある。パワーリザーブが短いのは惜しいが、優れた感触はそれを補ってなおあまりある。

Cal.26-330 S C

傑作Cal.Cal.324 S Cを置き換えるのがCal.26-330 S Cである。基本的なスペックは変わらないが、耐久性や整備性などが向上している。ローターはセラミックベアリングによる保持。にもかかわらず、ローター真からのノイズは非常に小さい。

 凝った外装と、相変わらずの優れたムーブメントを備えたカラトラバ Ref.5226G。もっとも、価格は約450万円と、普通の3針自動巻きとは思えないほど高額だ。従って興味のある人は、実際に見ること(目で見る機会は非常に少ないだろうが)をお勧めしたい。仕上げが良いと思えばその価格は妥当だろうし、引かれない人にとっては、その価格は高価であるに違いない。ちなみにかくいう筆者は前者である。触ってやむを得ない、と思わせるだけの説得力を、本作は持っている。