「空」と関わりの深いブランド4選とその代表作を紹介

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2022.07.15

時計ブランドおよび、それらが手掛ける時計というのは何かしらのルーツを持っていたり、ある思想が反映されているものだ。今回は「空」をテーマとするブランドを4つ紹介し、その代表モデルを解説する。

佐藤しんいち:文
Text by Shinichi Sato
2022年7月15日掲載記事


空をルーツに持った4ブランドとその代表作を紹介

ビッグ・パイロット・ウォッチ

 時計ブランド各社および、それらモデルは、それぞれに異なるルーツを持っている。デザインやスペックに引かれて時計を選ぶのも良い。そのモデルが誕生した背景を知ることは、新たな魅力を発見したり、自分との共通点を見つけて親近感を覚えたり、あるいはそれが特別な物であることにつながる。

 そこでこのシリーズでは、それぞれのモデルをより深く楽しむために、あるいは興味の対象を広げてもらうことを目的に各テーマと関わりの深いブランドやモデルを取り上げる。今回は「空」に注目しよう。


パイロットウォッチを提供するブランドとして高い認知度を誇るIWC

 パイロットウォッチを提供するブランドとしてIWCは高い認知度を誇っている。IWCのパイロット系コレクションは、大きく「ビッグ・パイロット・ウォッチ」と「パイロット・ウォッチ」のふたつに分かれている。これらはサイズによる分類だけではなく、その出自も異なる。

 ビッグ・パイロット・ウォッチは、1940年に開発されたドイツ空軍基地の士官向け軍用観測時計が起源である。基準時刻の管理のために要求される高い精度を実現するために、懐中時計用の大型ムーブメントを搭載したことから大型の腕時計が誕生した。現在のIWCの各モデルに引き継がれているダイヤ型の時分針と、ビッグ・パイロット・ウォッチの特徴であるダイヤ型のリュウズは、この軍用観測時計のデザインを参照したものである。

 一方、現在のパイロット・ウォッチは、イギリス空軍に納入されていた48年製造開始の「マーク11」を起源のひとつとしている。マーク11は直径36mmのケースに、耐磁性能を確保するための軟鉄製インナーケースを備え、手巻きのCal.89を搭載する3針モデルである。84年まで相当数が製造されるも、いわゆる放出品としての流通に限られた。

 IWCは92年にクロノグラフモデルをリリースしつつ、93年にマーク11の後継として自動巻き3針モデル「マークXII」の市販を開始する。その後、モデルの刷新と共に「マーク○○」と名称もアップデートしてゆき、2022年現在は「マークXVIII」が最新である。マーク11の外観的特徴は、スクエア型の時針とペンシル型の分針だ。この特徴はマークXIIには引き継がれたが、その後の一部のトリビュートモデルを除いて、ビッグ・パイロット・ウォッチ風のダイヤ型の針が与えられてきた。

 ここまで見てきたように、IWCのパイロット系の系譜をたどれば、ドイツおよびイギリスとの関係性が見えてくる。では現在はどうか?

パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン “SFTI”

IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン “SFTI”」
セラミックスの耐傷性とチタンの耐衝撃性を兼ね備えたIWCの独自素材、セラタニウムをケースバックに用いる。同作に限らず、トップガンシリーズのケースにはセラミックスあるいはセラタニウムが使用されているのは、機材に時計をぶつけやすいコックピット内でも傷が付きにくく、信頼性も高いからだ。自動巻き(Cal.69380)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラミックス×セラタニウム(直径44.5mm、厚さ15.7mm)。6気圧防水。完売。

 07年からIWCは、アメリカ、特にアメリカ海軍の戦闘機戦術教育特別コース、通称“トップガン”(映画で有名な“あの”トップガンである)と協力関係にある。精鋭ぞろいのアメリカ海軍パイロットの中の更に精鋭が集められたトップガンでは、最高レベルの戦闘機操作と戦術が教育され、プログラムを終えたパイロットはそれぞれの部隊に教官として戻る仕組みである。

 18年以降、IWCはトップガンの教官と共同でパイロット・ウォッチの開発を始める。プログラムの中でパイロット・ウォッチを着用し、さまざまなフィードバックがIWCにもたらされた結果、トップガンシリーズは「F/A-18E/F スーパーホーネット」のコックピット内でも正確かつ確実に機能する信頼性を獲得するに至った。このような活動を通じて現在のIWCは、アメリカ海軍と海兵隊の全飛行隊の時計に取り組むことを許可された唯一の会社となっている。


創業直後から航空機の発展に着目していたブライトリング

 パイロットウォッチのイメージが強いブランドがブライトリングだ。同社は、パイロット向けのクロノグラフを幅広くラインナップするのが特徴であるが、航空機との関係性は創業当初までさかのぼる。

 創業者のレオン・ブライトリングは、キャリアのスタート時からクロノグラフの製作において名声を得た人物で、航空機へ強い興味を持って今後の事業展開も見通していたとされる。注目すべきはその時期で、ブライトリングの起源となるサン・ティミエの工房開設が1884年、ライト兄弟による有人動力飛行の成功が1903年であることから、その先見性の高さがうかがえる。14年に工房の経営を引き継いだ息子ガストンも航空機の発展に着目し、航空時計及び航空計器メーカーとして事業を拡大したことが、現在まで残る時計ブランドとなる転機となった。

 工房開設当初から得意としていたクロノグラフの技術を生かし、42年にはクロノグラフに回転計算尺を搭載した「クロノマット」を発表。52年には回転計算尺をフライトコンピューター(航空用計算盤)に置き換えた「ナビタイマー」を開発着手し、54年に誕生させている。

クロノマット B01 42

ブライトリング「クロノマット B01 42」
1984年モデルのデザインを踏襲した、ライダータブを備えたベゼルやルーローブレスレットが特徴的な現行機。アイコニックな外観を引き継ぎつつ、構造や仕上げは現代的にアップデートされていて、スポーツウォッチの性能を有しながらTPOを選ばないオールパーパスなモデルと再定義されている。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径42.00mm、厚さ15.10mm)。200m防水。104万5000円(税込み)。

 ご存知の通り、これらは現在のブライトリングのラインナップの主軸だ。ブライトリングは、自社のすべてのラインナップはプロフェッショナルのための計器であるという哲学を持っており、機能性と信頼性に妥協しない姿勢を貫く。そのストイックさが支持を集める点であろう。

 ブランドの成り立ちやラインナップが航空機と関わりの深いブライトリングであるが、それだけに留まらない。国際航空連盟(FAI)とパートナーシップ協定を締結しているほか、2003年には民間で最大のジェット機を使ったアクロバットチーム「ブライトリング・ジェット・チーム」の結成、レッドブル・エアレース・ワールドシリーズの2017年シーズンにおけるワールドチャンピオンとなった室屋義秀の国内パートナーを務めるなど、幅広く活動を行っている。さらに、ユーザーを航空機に関するイベントに招待するなど、航空機の魅力をより身近なものとする活動も行っている。