オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」、50年にわたる大いなる歴史(誕生〜1986年まで)

FEATUREその他
2022.09.27

1972年4月15日の発表以来、時計製造の歴史にかつてないほどの変革をもたらしてきたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」。ジェラルド・ジェンタがデザインした手仕上げのステンレススティールケース、6角形のビスで留められた8角形のベゼル、優雅な一体型ブレスレットや、薄型の自動巻きムーブメントという要素は50年を経ても色褪せることなく人々を魅了している。この誕生からの歩みを前後編にわたりお伝えする。

ロイヤル オーク

1972年に発表されたロイヤル オーク。この時計によってステンレススティールという素材が初めてゴールドに並ぶステータスに引き上げられた。
Originally published on Montres de luxe
2022年9月27日掲載記事


ロイヤル オーク 誕生秘話

 1970年代の文化・産業革命の影響を受け、いわゆるクォーツ危機の初期に発表されたロイヤル オーク。この時計は、スポーティーな存在感と時計製造における伝統的なノウハウを融合し、ライフスタイルの変化に合わせた新時代の到来を告げるものであった。

 長い年月を経て、サイズ、素材、スタイル、ムーブメントが進化しながら、ロイヤル オークは独立したコレクションとなった。過去50年にわたり500モデル以上がデザインされたロイヤル オークは、時計業界における文化的アイコンとなった。

 その成功の代償として、ロイヤル オークは正規販売店では入手困難となり、2次市場で4倍から5倍の価格で取り引きされるようになりつつある。コレクターの不満は募る一方だ。

 そこで今回はこの時計の創成期に立ち戻ってみよう。

 1970年、あるオーデマ ピゲ代理店が顧客の嗜好変化を察知し、ブランドに挑戦を提案。当時の社長ジョルジュ・ゴレイは経験豊富なジュエラーであり時計デザイナーでもあるジェラルド・ジェンタに、まったく新しいタイプのステンレススティール製スポーツウォッチのデザインを託したのである。

ロイヤル オーク

ジェラルド・ジェンタによるロイヤル オークのデッサン。

「ロイヤル オーク」の名はイギリス軍艦「ロイヤル オーク号」の舷窓をモチーフにデザインされたことに由来することは愛好家には知られた話だ。より詳細には、艦砲を搭載し、ステンレススティールで補強されたオーク製の船体である。

 英国海軍はその長い歴史の中で、1651年の「ウスターの戦い」でクロムウェルを破った英国のチャールズ2世が身を隠したロイヤルオークという名の木にちなみ、いくつかの艦船に「HMSロイヤルオーク」と命名している。

 ジェラルド・ジェンタはロイヤル オークのデザインを一晩で仕上げたという。まさに天才の技といえる。

ロイヤル オーク

ジェラルド・ジェンタによるロイヤル オークのデッサン。

 ジェラルド・ジェンタのデザインを引き継ぐチームは、業界における最高峰の技術を持つ職人たちで構成された。有名なギヨシェのプチタペストリーダイアルをスターン・フレール社が、ステンレススティール製ケースをファーブル&ペレ社が、一体型のステンレススティール製ブレスレットをゲイフレアー社が担当したのだ。ステンレススティールは硬く加工が困難な素材のため、最初のプロトタイプはより扱いやすいホワイトゴールドで作成された。

 一体型ブレスレットだけでも20点の細かいリンクを含む154点のパーツで構成されているため、このブレスレットは時計業界で最も複雑なもののひとつとなった。その上、ブレスレットとケースの表面はそれぞれにサテン仕上げとポリッシュ仕上げが組み合わされた非常に洗練されたものである。この仕上げはオーデマ ピゲの工房内で行われた。

「ロイヤル オークの構想は1970年に高級時計の販促におけるゴールドのマーケティング的価値に疑問を持った代理店からの提案で生まれました。そのような考え方は現在では想像もできません」「彼らが依頼したのは現代のライフスタイルに適したステンレススティール製の腕時計で、スポーティーでエレガント、夜の装いにも日常使いにも適したものでした」とジョルジュ・ゴレイは語っている。

ロイヤル オーク

1972年発表の初代「ロイヤル オーク」。3300スイスフランという価格はSSケースモデルとしては当時驚くような設定だった。

 このようにして1972年4月15日、市場で最も高価なステンレススティール製時計(当時3300スイスフラン)がバーゼルフェアでお披露目となった。まさに大激震を引き起こし、多くの反対意見、そして時に批判的な反応を巻き起こしたのである(ジェンタはそのような状況に慣れっこだったが)。

 顧客の懐疑的な反応や、生産・納品時に直面した困難から、出だしは厳しいものに思えた。だが、最初の490本は1972年初頭に完売。これはオーデマ ピゲにとって記録的なものとなり、商業的成功が続くことを予見させるものであった。

 他とは違うデザインを持ったこの時計は、その洗礼を受けた人々を魅了していった 1975年、映画「ブーメラン」の中でアラン・ドロンはこの時計を身に着けている。フィアットの象徴的な経営者であったジャンニ・アニェッリのようなコレクターも現われた。その後、デザイナーのカール・ラガーフェルドも続くが、彼はアフターマーケットで仕上げられた最初の「ブラック」モデルを着用。ラガーフェールドは、ロイヤルオークをジャンニ・アニェッリのようにシャツの手首部分に着けていた。

 4年の間、オーデマ ピゲは最大限の注意を払って、現在では有名なRef.5402のみを生産。1976年になって初めて、ジャクリーヌ・ディミエがデザインした直径29mmの初の女性用ロイヤル オーク(Ref.8638)が世に送り出されている。


1977年以降に見られたロイヤル オークバリエーションの拡大

ロイヤル オーク

コンプリートカレンダーを搭載したロイヤル オーク。

 1977年以降、このふたつのモデルにはイエローゴールド、ホワイトゴールド、ステンレススティールとイエローゴールドを組み合わせた派生版が登場し、本格的なコレクションが誕生した。オーデマ ピゲはさらに直径35mmの中間サイズのRef.4100も投入し、メンズウォッチとしての存在感を不動のものにした。もはや特別な存在ではなく、ロイヤル オークは将来有望な存在になりつつあった。

 意外なことに、そして並外れたことに、ロイヤル オークは1980年代への適応力を発揮している。Ref.5402から移行し、オーデマ ピゲは新しいサイズと素材で新しい外観の新しい幅を広げていったのだ。

 素材にはプラチナやピンクゴールドも追加されていく。これらの貴重なタイムピースの文字盤やベゼルには、ダイヤモンドセッティングされたものも多い。

 クリエイティブな多様性と平行して新しいムーブメントの研究も進められた。時代に合わせて、1980年にはクォーツムーブメント搭載のロイヤル オークも登場している。当初、この技術を旗艦コレクションに導入することに消極的だったオーデマ ピゲは、「クォーツ」と名付けた別コレクションRef.6005で、1978年に試験導入を行った。レクタングルケースを備えたこのコレクションは残念ながらあまり成功しなかった。

ロイヤル オーク

クォーツムーブメント搭載のロイヤル オーク。

 このクォーツムーブメント搭載機は、ケースの形状やサテン仕上げとポリッシュ仕上げを組み合わせたブレスレットなど、ロイヤル オークの美的要素を取り入れている。しかしベゼルはもはや8角形ではなく、6角形の8つのビスで飾られているわけでもなかった。10年の間に6種類のクォーツムーブメントが採用され、ケースサイズは直径26mmから36mmまで用意された。展開されたモデルは少なくとも59を数える。

 クォーツ技術を試す一方で、オーデマ ピゲは機械式モデルの伝統的な複雑機構も復活させていく。1983年、初のデイト表示付きロイヤル オーク(Ref.5572)を、直径36mmケースのステンレススティール、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ステンレススティールとイエローゴールドのバイカラーのバージョンで発表した。
 
  このカレンダー表示付きの時計は、1984年にRef.5554へと続き、1978年にはセンターローターの自動巻き2120/2800を搭載し、世界で最も薄いパーペチュアルカレンダーとなったRef.5548として世に送り出されている。

1986年に、オーデマ ピゲは「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」(Ref.25636)をラインナップに加えた。この18Kイエローゴールドの時計は、初のシースルー仕様のロイヤル オークで、またサファイアクリスタル製ケースバックを採用している。これらのパーペチュアルカレンダー搭載モデルは伝統的な時計作りを愛好するコレクターたちの関心を集め、ロイヤル オークの新たな時代を切り拓いている。

(後半へ続く)

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000


全296ページ、イラスト点数400点。ロイヤルオーク50周年を記念するパイオニアブック『ロイヤル オーク:革命児から、英雄へ。』

https://www.webchronos.net/news/84796/
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