ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー」名門の矜恃を示す永久カレンダークロノグラフ

FEATURE本誌記事
2023.05.07

永久カレンダークロノグラフを作るのは、今や決して難しくない。しかし、それをラインナップに掲げ続けるウォッチメーカーは稀だ。数少ない例外のひとつがヴァシュロン・コンスタンタンである。手巻きの永久カレンダークロノグラフという構成を持つトラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダーは、非凡な手腕と名門の矜恃を感じさせる傑作だ。

トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]


モダンなデザインに古典味を盛り込む「手法」

 何をもって名門ウォッチメーカーとするのか? 人によって条件はさまざまだが、筆者はそのひとつに永久カレンダークロノグラフを作っていることを挙げたい。今でこそミニッツリピーターやソヌリといった、より複雑な機構も見られるようになったが、1940年代から90年代にかけては、永久カレンダークロノグラフこそが、ウォッチメーカーの実力と威信を体現する存在であったし、今なお変わっていないように思える。ふたつの複雑機構を重ね、それを腕時計のパッケージにまとめ、さらに個性を加える。これまで実現できたウォッチメーカーが数えるほどしかなかったことを思えば、これは思うほど容易ではない。永久カレンダークロノグラフの製作に長けたウォッチメーカーが、ベーシックな3針や、それ以上の複雑時計でも傑作を作れるのは当然だろう。

トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー

 ヴァシュロン・コンスタンタンが2016年に発表した「トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー」は、永久カレンダークロノグラフのお手本的な存在である。基本的なパッケージングは、2000年代に発表された「マルタ・パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ」からの転用。しかし、デザインの線が細くなった結果、ヴァシュロン・コンスタンタンらしさ、つまりは「ひねりの効いたクラシック」なデザインはより強調された。

 ヴァシュロン・コンスタンタンが永久カレンダークロノグラフをラインナップに加えたのは1992年のこと。これは薄いフレデリック・ピゲ製の自動巻きクロノグラフムーブメントに、永久カレンダー機構を加えたオーセンティックなものだった。もっとも、よりエッジの効いたデザインを好むヴァシュロン・コンスタンタンは、やがてラグなどを誇張し、ケースに膨らみを持たせた「マルタ」コレクションに進化させた。それに合わせてベースムーブメントも、レマニアをベースにした手巻きクロノグラフムーブメントに永久カレンダーモジュールを加えたものに置き換わった。

 このモデルの後継機が「トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー」となる。ケースは直径38mmから43mmに拡大された一方、厚さは13.8mmから12.94mmへと薄くなり、ラグやケースサイドもあえてシンプルに改められた。マッシブな前作から一転して、端正な作風を指向したのは、同メゾンがデザインへのメソッドを確立すればこそ、だった。

トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー

ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダー」
手巻きの永久カレンダークロノグラフという、古典的な構成を磨き上げた傑作。本作で採用されたサーモンカラーダイアルは、1940年代から使用されている。ケースだけでなく、彫金されたムーンフェイズディスクもPt950製である。手巻き(Cal.1142QP)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ptケース(直径43mm、厚さ12.94mm)。30m防水。予価2574万円(税込み)。ブティック限定販売。

 直径27.5mmのムーブメントを43mmのケースに収めると、どうしても間延び感が出てしまう。ヴァシュロン・コンスタンタンは6時位置のムーンフェイズを強調することで余白を感じさせない。これはマルタ・パーペチュアルカレンダー・クロノグラフも同様だったが、文字盤が拡大されたトラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダーではいっそうムーンフェイズが際立つ。

 また、ヴァシュロン・コンスタンタンは、往年の複雑時計に見られる「重心の低い表示」を、目立つ月齢表示で再現してみせた。あえて3時と9時位置のインダイアルを広げなかったのは、「腰の低さ」を強調するためだろう。結果として本作は、モダンさとクラシック、そして威厳のある見た目を巧みに融合させたデザインとなった。

 もっとも、本作を手にすべき理由は「ひねりの効いたクラシック」なデザインに限らない。搭載されるCal.1142QPは、フリースプラング化されたレマニアの完成形である。しかも、永久カレンダークロノグラフとして採用するのは、今や本作のみなのだ。もちろん、ヴァシュロン・コンスタンタンが手掛ける時計であるから、仕上げは文句のつけようがない。

 永久カレンダークロノグラフとしてのパッケージを守りつつも、それを進化させ、さらに個性を添える。トラディショナル・クロノグラフ・パーペチュアルカレンダーが示すものとは、老舗の非凡な力量と、名門としての矜恃、なのである。



Contact info: ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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