激動の2025年を総括!『クロノス日本版』編集長が選ぶ時計業界10大ニュース

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2025.12.31

年末特別企画! 時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集長の広田雅将が、2025年の総括として時計業界の10大ニュースを取り上げる。この1年間、時計業界では何が起き、今後どのようなシナリオが想定されるのか? 広田とともに、行く年来る年に思いを馳せてほしい。

Photograph by Yu Mitamura
写真は『クロノス日本版』創刊20周年祝賀会の中の編集長・広田雅将。
広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2025年12月31日公開記事]


1.金価格の高騰

 スイスフランの高騰とトランプ関税の陰に隠れて話題にならなかったのが、金価格の高騰だ。2015年には1トロイオンスあたり1159.94米ドルだった金価格は、2024年には2386.20米ドルまで上昇し、2025年1月には2709.69米ドル、11月には4082.95米ドルまで跳ね上がった(いずれも年次または月次の平均価格)。高騰の理由いくつかあるが、“カネ余り”と、新興国および各国中央銀行による金買いが進んだため、と言われている。事実、2024年に各国の中央銀行が購入した金は、3年連続でその年間採掘量の約3割を占める1000トンを超え、欧州中央銀行は「金が米ドルに次ぐ“第2の準備資産”として復権を果たした」、と指摘した。

 時計業界で影響を受けたのはラグジュアリー産業である。1年で金価格が1.7倍になるという状況を受けて、各メーカーは金時計の生産を減らし、または価格の引き上げで対応した。今後各社は、金時計の小径化を進めるだけでなく、割金を増やした金合金の採用や、あるいは金張りの採用に向かうだろう。というわけで、2026年に目立つのは、小さな金無垢のドレスウォッチになるはず?

2024年にロレックスが発表した、ケース、ブレスレットともに18KYG製の「オイスター パーペチュアル ディープシー」Ref.136668LB。ただしケースバックとヘリウムエスケープバルブはRLXチタン製となっている。


2.トランプ関税

 下半期までの大きな話題となったのが、ドナルド・トランプ米大統領による関税政策、「トランプ関税」である。スイスから輸入される時計に39%の税金を課す、というアメリカの決定は、今なおアメリカ市場に大きく依存するスイスの時計メーカーに大きな影を落とした。一部のメーカーはアメリカへの輸出を前倒ししたほか、アメリカからの旅行客が増える国に対して、製品を厚く供給するなどで対応した。最近、輸入関税は15%まで引き下げられたが、スイスの関係者いわく「トランプ政権の意図はまだ全く読めない」とのこと。景気の冷え込みとスイスフランの高騰もあって、各社は減産体制を続けるだろう。


3.2025年は周年イヤー

 毎年のように周年を祝う時計業界。しかし2025年は別格だった。ヴァシュロン・コンスタンタンが創業270周年、オーデマ ピゲが150周年、そしてブレゲが250周年を迎えたのである。加えて言うと、日本のオリエントも75周年だ。各社は個性のある大作をリリース。ヴァシュロン・コンスタンタンの「レ・キャビノティエ・ソラリア・ウルトラ・グランドコンプリケーション −ラ・プルミエール−」、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)“150周年アニバーサリー”」、ブレゲの「クラシック スースクリプション 2025」などは、時計好きたちの話題をさらった。とりわけブレゲは、質量ともにずば抜けたコレクションを展開し、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)では、なんと金の針賞も獲得してしまった。個別のモデルについては数えるほどあったが、個人的に刺さったのはウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー」だ。見た目は20年前のモデルに同じ。しかし、外装の出来が良くなって、時計としては別物だ。

ウブロは「ビッグ・バン」の誕生20周年を祝って、「ビッグ・バン 20th アニバーサリー」をリリースした。ラインナップされたのは「チタニウム セラミック」「キングゴールド セラミック」「レッドマジック」「オールブラック」「フルマジックゴールド」の5種だ。


4.台頭するルイ・ヴィトン

 2025年のGPHGで注目を集めていたのがルイ・ヴィトンである。2022年の新しい「タンブール」以降、同社は矢継ぎ早に新作を投入。合わせて、同社の下で再興なったダニエル・ロートやジェラルド・ジェンタにも、野心的なモデルを加えた。同社は長らくエタブリスールを標榜していたが、傘下にあるラ・ファブリク・ドゥ・タン ルイ・ヴィトンを一大マニュファクチュールに改組。複雑時計や文字盤の製造に限らず、今や各種メティエダールなども自社で賄えるようになった。そんな同社は、GPHGにも新作を送り込んだが、受賞したのはダニエル・ロートやジェラルド・ジェンタのみ。ある海外メディアの編集長いわく「ルイ・ヴィトンが勝ちすぎるのを時計業界は望まないのだろう」とのこと。うがった見方かもしれないが、今やルイ・ヴィトンの力はそれぐらいには強大だ。なお、同社で個人的な推しを挙げるなら、「タンブール」と、今年加わった「タンブール コンバージェンス」である。

タンブール コンバージェンス

1月に開催されたLVMH ウォッチ ウィークで発表された「タンブール コンバージェンス」。針を持たないダイレクトリード式によって、時・分を表示する。


5.10年目を迎えたApple Watch

 実は2025年は、Apple Watchが発売されてから10年目にあたる。今や当たり前になったスマートウォッチ。その世界を開いたのは、2015年4月9日に発売されたApple Watchだったといって間違いではないだろう。もっともこれは、単なる“腕に載るコンピューター”ではなかった。FHH(高級時計財団)のドミニク・フレションをはじめとする、さまざまな関係者の知見を踏まえて生まれた、全く新しい腕時計だったのである。当初から、この時計が非凡な完成度を備えていたのは納得だ。10年目に当たるApple Watchで見るべきは、「Apple Watch Series 11」などが採用したチタンケース。なんとこれは、チタン材を切削するのではなく、3Dプリンターで一体成形されたケースだ。時計業界に先駆けて、しかもこれだけの数のケースを3Dプリンターで作る。ハードウェアの面でも最も進んでいるのがApple Watchなのである。ただし、老眼のユーザーが増えてくると、Apple Watchを含むすべてのスマートウォッチは、その製品構成を見直さなければならなくなるだろう。


6.いっそうプレゼンスを示す日本の時計作り

 2010年代半ばから、世界的に注目を集めるようになった日本の時計作り。ヨーロッパにはない個性と、相対的に魅力的な価格、そして魅力的なストーリーは、確かに時計好きの注目を集めるには十分だった。2024年には、フィリップスがバックス&ルッソと共同で、日本の時計をテーマにした特別テーマオークション「TOKI -刻-」を香港で開催。大塚ローテックのスペシャルモデルである「6号 東雲 “SHINONOME”」は、なんと53万3400香港ドルで落札された。続く2025年は、フランスの日本時計愛好家たちが日本のメーカーのみに注力した「WADOKEI」というイベントを開催したほか、各社を集めての「Tokyo Watch Week」が日本で開催された。ちなみに2026年は、日本からまた面白い時計メーカーが出てくるはずだ。乞うご期待。


7.当たり前になったマイクロメゾンの時計たち

 MB&Fを率いるマキシミリアン・ブッサーは「インターネットがなければ、小さなメーカーがこれほどの成功を収めることはなかっただろう」と語った。作り手と買い手が直接コンタクトを取れるインターネットは、販路や宣伝の手段を持てない小メーカーには、大きな福音だった。それは新型コロナウイルス禍の下で定着し、時計ブームが一段落し、成熟に向かいつつある今、いっそう広まりを見せつつある。好例が大塚ローテックだ。販売は直販のみ、そして売り先も日本限定にもかかわらず、2024年のGPHGではチャレンジ賞を得てしまった。かつてなら考えられないジャイアントキリング。しかしインターネットの普及が、それを可能にしてしまったのである。来年以降も、面白いマイクロメゾンが多く見られるはずだ。

大塚ローテック 5号改

Photograph by Masanori Yoshie
2025年2月に大塚ローテックが発表した「5号改」。3枚のディスクによって時刻を表示するサテライトアワーウォッチとなっている。


8.リアルな時計見本市の復権

 新型コロナウイルス禍の時代に言われていた「オフライン見本市不要論」は、ここ数年ですっかり影を潜めてしまった。実際ものを見て、触る環境がないと、やはり時計のような商材を売るのは難しい。各社はそれを確信したのか、急速にリアルな見本市に回帰しつつある。その受け皿のひとつが、毎年11月に開催されるドバイ・ウォッチ・ウィークだ。GPHGの直後ということもあって、今年はその受賞作をこのイベントに展示。加えて世界中から、名だたるメーカーがこぞって参加を決めた。スイス・ジュネーブのウォッチズ&ワンダーズも、2025年は一般参加枠を拡大。一般向けのチケットは2万3000枚が完売し、総参加者数もなんと5万5000人を超えた。というわけで、来年以降も、リアルな時計見本市はますます拡大するだろう。


9.スウォッチ グループ、スイス証券取引所のスイス・リーダー指数(SLI)から脱落

 意外な、しかし時計業界にとってかなり重大なニュースがこれ。2025年11月、スイス証券取引所(SIX Swiss Exchange)は、基準株価指数であるスイス・リーダー指数(SLI)から時計メーカーのスウォッチ グループが除外されると発表した。ロイター通信によると、理由は「同社の時価総額の減少と株式取引量の低下」のため。代わりに加わったのが、スイス第2位の保険グループとなるヘルベティアとバロワーズの合併により誕生するヘルベティア・バロワーズ・ホールディングだ。時計産業と言えば、いわばスイスの基幹産業のひとつ。そこから、同国を代表するグループが落ちるのは非常に残念。盛り返して返り咲くのを大いに期待しています。


10.『クロノス日本版』創刊20周年!

 最後は内輪ネタで恐縮です。2005年に発刊された時計専門誌『クロノス日本版』が、今年20周年を迎えました。皆様のご愛読、そしてご視聴のおかげで、webChronosやwebChronosTVともども、ここまで続けられました。改めて御礼申し上げます。ちなみに2025年の11月には、発行元であるシムサム・メディアは、リンクタイズホールディングス株式会社にグループ参画。来年以降も、ますます時計の世界を楽しんで行く予定なので、変わらぬご愛好を賜りますよう、よろしくお願いします。

Photograph by Yu Mitamura
創刊20周年を祝して、11月5、6日と、祝賀会を行った。場所は東京・赤坂プリンス クラシックハウスだ。写真はそのメインステージ


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