カルティエ/サントス

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.09.10

1904年にプロトタイプが完成したとされる「サントス」は、ストラップ付きの懐中時計から脱した、初の本格腕時計であった。またこの時計は、スポーツウォッチの先駆けであり、マルチパーパスウォッチの先駆者でもあった。ひと言では表現できないほど、多彩なキャラクター性を備えるサントス。その起こりと現在の姿から、サントスの本質に迫っていくことにしたい。

広田雅将:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第25回/クロノス日本版 2015年1月号初出]

SANTOS de CARTIER GALBÉE
ビスモチーフを受け継ぐサントスの基本形

サントス ドゥ カルティエ ガルベ XL

サントス ドゥ カルティエ ガルベ XL
サントスのベーシックモデル。1978年モデルのデザインを踏襲しているが、時計全体の質感ははるかに向上した。また装着感も優秀である。自動巻き(Cal.049MC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(縦45.54×横34.87mm)。日常生活防水。72万5000円。

 1904年に登場したといわれるカルティエ「サントス」。後年の「タンク」にも影響を与えたこの時計は、旧来のブレスレット付き時計という枠を超えた、初の男性向け量産型腕時計であった。

 しかしこのモデルは、腕時計の進化とともに、年々忘れられていった。一因は、1917年に登場したタンクがあまりに高名となったため。そしてもうひとつの理由が、スクエアケースに防水性を持たせることが不可能だったためである。事実カルティエは、70年代後半に、防水性を持たせたラウンドケースのサントスを作ろうと試みたのである。もっとも防水パッキンの進化が、この傑作を再び表舞台に引っ張り出すことになる。1978年にリリースされた新しいサントスは、ゴールドとスティールを大胆に組み合わせ、オリジナルの造形を保ちながらも、防水性と実用性を盛り込んだ近代的な時計となった。その最新版にあたるのが「サントス ドゥ カルティエ ガルベ」である。大きな違いはデザイン。第一作の造形とビスモチーフを生かしつつも、マスキュリンな意匠とサイズ(と言っても現代の基準から見れば十分慎ましやかだ)が与えられた。またケース全体を湾曲させることで、装着感を改善したのも、現代のカルティエらしい配慮といえるだろう。加えて言うならば、カルティエ自製のケースやブレスレットは、過去のモデルでは望むべくもなかった緻密さを、最新版のサントスに与えることに成功したのだ。

 もっともサントスの優れた造形は、登場から100年以上を経た現在でも不変だ。ラグと一体化したケースや、簡潔で視認性に優れた文字盤などを見れば、カルティエの造形センスが、いかに時代に先駆けていたかは容易に理解できるだろう。腕時計の祖にして、永遠の定番であるサントス。次項では、この時計が誕生した経緯を振り返ることにしたい。

サントス ドゥ カルティエ ガルベ XL

(左上)現代のサントスを特徴付けるビス留めのベゼル。ミドルケースにネジで固定することで、日常生活防水(実際の防水性能は30m相当)を得ている。(右上)1904年のモデルから踏襲される文字盤。地がマット仕上げに変更され、インデックスが太くなったほかは、オリジナルにほぼ同じだ。ただ針だけは、かつてのアップルハンドから、現在のカルティエが好む剣型に改められた。なおこれらの針は、すべて本物のブルースティールである。(中)ケースサイド。薄型を謳ってはいないが、厚さは8.67mmしかない。加えてケース全体を湾曲させることで、装着感は極めて優秀だ。また時計に対して、ブレスレットの厚さと重みも適切である。誕生から100年以上も第一線に留まるサントス。その一因が、腕馴染みの良さにあることは間違いない。(左下)1978年以降のサントスに加えられたリュウズガード。コレクション プリヴェ カルティエ パリにラインナップされたサントス以外には、基本的にこのガードが備わっている。ただし仕上げは過去のモデルとまったく異なる。切り立ったエッジや丁寧な筋目処理などは、ケースを自製するようになった現在のカルティエならではの美点だ。(右下)ケースサイドと繋がったラグ。ブレスレットを留めるピンはかなり変わった場所にあるが、これもまたサントスの伝統である。