ウブロ/ビッグ・バン

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.10.09

[特別インタビュー]ジャン-クロード・ビバーが語る ビッグ・バンの誕生と進化について

1949年ルクセンブルク生まれ。オーデマ ピゲ、オメガを経て1982年にブランパンを買収。スウォッチ グループによるブランパン買収に伴い、オメガの経営責任者となる。この時代「My Omega」キャンペーンを行い、同社の認知度を大きく高めた。2004年、ウブロCEOに就任し、「フュージョン」をコンセプトとしたビッグ・バンを発表。赤字が続いていたウブロを黒字に転換させたほか、売り上げを就任以前の10倍以上に成長させた。現同社会長。

時計業界には、希に「万能の才人」が存在する。マーケティングに秀でているだけでなく、プロダクトも分かる人物だ。
主立った例を挙げると、LMHの故ギュンター・ブリュームライン、パネライのアンジェロ・ボナーティ、そしてウブロのジャン-クロード・ビバーになるだろうか。
そんな「才人」のひとりに、ウブロのマーケティングではなく、ビッグ・バンそのものを語ってもらうことにしよう。

ビッグ・バン オールブラック

2006年発表の「ビッグ・バン オールブラック」。「インビジブル・ビジビリティ(見えない可視性)」を強調し、時計業界に大きな影響を与えた。自動巻き(Cal.HUB 44)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。セラミック×カーボン(直径44.5mm)。10気圧防水。限定250本。参考商品。
オールブラック グリーン

2011年に発表された「オールブラック グリーン」。お家芸のオールブラックの色違いである。上の概念図に当てはめると、大地と木か。自動巻き(Cal. HUB 1400)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。セラミック×グラスファイバー(直径48mm)。30気圧防水。限定500本。参考商品。


 筆者にはひとつの不満があった。ジャン-クロード・ビバーという人物は、スイスの時計業界にあって、最も製品を知悉した経営者だ。しかし目にする多くのインタビューは、ほとんどがマーケティングに関するもの。確かに彼は販売戦略にも長けている。しかし彼に聞くべきは、売り方以上にむしろ商品、つまりビッグ・バンそのものではないか。

 ――CEOに就任したのは04年の6月。ビッグ・バンを作る準備期間はほとんどなかったですね?

 「(指を折りながら)準備期間は10カ月。04年の6月にアイデアを考え、デザインの完成は8月。3月のバーゼルワールドでプロトタイプを発表し、6月に納品した。期間は短かったけれど、これは100%新しいプロダクトだった。まずは自動巻きムーブメント、これはウブロで初の採用だ(ラ・ジュー・ペレ製)。ふたつ目はコンセプト。ビッグ・バンは見た目以外にも、新しいコンセプトを持っていた。これは世界で初めて、サンドイッチ構造のケースを持った時計だ」

 ミドルケースを上下から板ではさむという、新しいケース構造。ビッグ・バンの開発に際して、ビバーがケースなどのサプライヤーを一新した理由も分からなくはない。

 ――サンドイッチ構造という発想に至ったのは、CEOに就任してからですか? あるいはそれ以前ですか?

 「CEOになってからだね。具体的には『フュージョン』というコンセプトができてからだよ。サンドイッチ構造がフュージョンを可能とした。サンドイッチ構造だと箇所ごとに部品を重ねられるだろう。ベゼル、ミドルケース、そしてケースバックという風にね」

  異なるものの融合を意味する、フュージョン。彼はそのコンセプトを練り込んだ後、異素材を融合するために、サンドイッチ構造のケースを考案した。

異なったものの融合を意味するフュージョン。これはビバー氏が描いた概念図である。「青い空」と「黒い大地」の間にあるのが、フュージョンであり、ウブロと定義されている。なお左のキャプションには「フュージョンのオリジナルは1980年のウブロ」と明記してある。ウブロが黒を好む一因だろう。

 ――今となっては、さまざまな素材でケースを構成するという考えは広まりました。でも防水性を確保するのは難しい。

 「防水性能はまったく問題ない(彼はケースの展開図を引っ張り出してきた)。というのも、防水はサンドイッチではなく、ミドルケースで支えているからだ。防水はミドルケースで完結しており、それを上下から挟み込んでいる」

 一見斬新だが、なるほど構造自体はコンベンショナルだ。広く普及するスリーピースケースの上下に「スカート」を足したのが、サンドイッチ構造と言えるかもしれない。

 ――サンドイッチ構造を採用した結果、ビッグ・バンは立体感を持たせやすくなったように思います。例えばオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」に比べると、ビッグ・バンはより立体感がありますね?

 「ロイヤル オークは1972年、ビッグ・バンは2005年だろう? 両者には時代的な隔たりがある。ただし72年当時、ロイヤル オークは革新的だったし、クロッコ氏も同じ『舷窓』からインスピレーションを受けて、ウブロを作ったことは間違いない。両者のスピリットは100%同じだ。でも違いはある。ウブロのベゼルは丸く、APは八角形。またウブロにはラグがあり、耳もある」

 確かに、80年のオリジナルウブロは、パテック フィリップの「ノーチラス」、ヴァシュロン コンスタンタンの「222」、ボーム&メルシエの「リビエラ」同様、ロイヤル オークのフォロアーとも言える。

 ――ビッグ・バンの立体感について聞きたいと思います。オメガやブランパンの在籍中も、時計に立体感を持たせようと考えましたか?

 「それはない。立体感はフュージョンを考えた後だよ。あくまでサンドイッチの結果が(彼は両手を叩いた)立体感だ」

 05年3月に発表されたビッグ・バンは、空前の成功を収めた。会期中に集めた受注は前年の3倍。この年、ウブロの年産はわずか1万2000本、うちわずか2500本がビッグ・バンであった。しかし消費者にとって、ウブロはビッグ・バンの同義語となった。

1980年発表のウブロ「クラシック」は、ロイヤル オークに始まったラグジュアリースポーツウォッチの最後発と言える。18KYGケースにラバーストラップという構成が、後にフュージョンを生んだ。参考商品。

 ――ビッグ・バンは大変大きな成功を収めましたね? 06年発表のビッグ・バン・オールブラック(250本の限定だった)もやはり成功を収めました。オールブラックというアイデアも、04年にはあったのですか?

 「いやオールブラックの元となるアイデアは、1980年、いや79年にはあったね」

 ビバーの顔が、有能な社長からだんだん「プロダクトマネージャー」に戻ってきた。