ユリス・ナルダン フリーク Part.3

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.02.13

〝リュウズの再装備〟で実現したデイリーフリーク

フリーク X

フリーク X
2019年に発表された、フリークのエントリーモデル。しかし、簡潔になった輪列や小ぶりなケースなど、従来のモデルにはない魅力を持つ。自動巻き(Cal.UN-230)。 2万1600振動/時 。パワーリザーブ約72時間。DLC+Ti(直径43mm)。50m防水。243万円。

 2019年は、フリークが大きく変わった年だった。「イノヴィジョン2」の技術を転用した「フリーク ヴィジョン」(18年発表)に続いて、シリシウムのメリットを全面的に押し出した「フリーク ネクスト」と、デイリーモデルの「フリーク X」が発表されたのである。中でも注目を集めたのが、使えるサイズと価格帯を持つフリーク Xだった。一部の口さがないジャーナリストはこれを廉価版と評したが、これは、新時代モデルと言ってよい内実を備えていた。

(右)フリーク ヴィジョンに同じ、ニッケル製エレメントと安定化マイクロブレードを備えたシリシウム製のテンワ。脱進機は標準的なスイスレバーに変更されたが、シリシウム製である。ヒゲゼンマイも当然シリシウム製。振動数は2万1600/時に向上した。(左)薄型化に成功した一因が、ムーブメントを支える歯車を輪列の先ではなく、ムーブメントの地板に内蔵したこと。ベゼルを回して時間を調整するという機構をやめることで、時計の小型化と薄型化に成功した。

 フリークの個性でもあった、ムーブメントの中心に置かれた主ゼンマイ。これはベゼルでの時間合わせと裏蓋全体を用いたユニークな巻き上げ機構をもたらした。確かにこれは魅力的だったが、一般のユーザーにとってハードルは高かった。そこでナルダンは、回転するムーブメントが時間を示すというコンセプトはそのままに、設計そのものを刷新した。針合わせと巻き上げにリュウズを使う新しいフリーク Xは、輪列もシンプルにまとめられ、フリークの見せ場であるテンプがいっそう強調された。

直径43mm、厚さ13.2mmのケース。DLC加工したTiの他、標準的なTi、18KRG、カーボニウムなどがある。現行のナルダンらしく、外装の仕上げは非常に良い。

 構造はかなりユニークだ。ムーブメント中心に設けられた4番車が回転し、テンプに一定した調速を与える。そしてテンプで制御された輪列の回転運動は、ムーブメント側の輪列にフィードバックされ、時分針を載せたプレートを回す。動きを見せるという点は同じだが、サポートする歯車をひとつにまとめた結果、従来のフリークとはまったく別モノに進化したのである。

(右)針合わせと巻き上げ用のリュウズ。重い回転体を回すにもかかわらず、感触はかなり滑らかだ。また、加工精度の高さを示すように、左右のガタも抑えられている。(左)フリーク Xのムーブメントは、既存のCal.UN-118をベースにしている。自動巻き機構は、グライダーではなく、ナルダンが長年採用してきた、マジックレバーである。シンプルで巻き上げ効率が高い上、信頼性にも富んでいる。理論上、時分針とテンプを載せた重いプレートは動かせないが、長年のノウハウがそれを可能にした。

 2001年の発表以来、時計業界に大きなインパクトを与え続けるフリーク。今やこの時計が、時計業界の金字塔であることを否定する人はいないだろう。しかしいっそう意味があるのは、この時計が今なお、異端、フリークであり続けることではないか。これほど変わり続けるアイコンはフリーク以外にないし、今後もそうに違いない。

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