2025年に創業250周年を迎えるブレゲより、その記念モデル第4弾として「クラシック トゥールビヨン シデラル 7255」が発表された。本作は同ブランド初のフライングトゥールビヨンを搭載するとともに、同じく初採用となるアベンチュリンエナメル文字盤を備えたことが特徴的なモデルである。
ブレゲの250周年記念モデル「クラシック トゥールビヨン シデラル 7255」
1775年、フランス・パリのシテ島にあるケ・ド・ロルロージュに、アブラアン-ルイ・ブレゲが工房を開いた。この歴史のスタートから250年を迎える2025年、ブレゲからは記念モデルが続々と登場しており、6月26日には第4弾として「クラシック トゥールビヨン シデラル 7255」が新たにリリースされた。

手巻き(Cal.187M1)。23石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18Kブレゲゴールドケース(直径38mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。世界限定50本。3104万2000円(税込み)。
「時計の歴史を2世紀進めた」と言われる時計師のブレゲは、現在にも受け継がれる機構や意匠を発明した。その最も有名な発明のひとつに、1795年のトゥールビヨンがある。その後、共和暦9年メシドール7日、すなわち1801年6月26日に特許を取得。ブレゲでは「トゥールビヨン・デイ」として祝うこの日に、ブランドにとって初採用となるフライングトゥールビヨンを搭載した本作を発表したのだ。
ミステリーなフライングトゥールビヨン
フライングトゥールビヨンはキャリッジを文字盤から見て上側から支えるブリッジがなく、下側のみで支えるものだ。同社にとって初とはいえ、この新作モデルはブレゲが使い始めてからやがて20年近くなる「ミステリー」と呼ばれる時計機構のコンセプトにも結び付いている。
ミステリー機構は、あるパーツを他のムーブメント部分とは目に見える接触なしに動かす機構のことだ。本作はトゥールビヨンを支えるブリッジや基部で軸を支えるパーツが無反射加工のサファイアクリスタルで製造されており、また、輪列とキャリッジをつなぐ接点も6時位置の開口部より外側に置かれることで隠され、このメカニズムがまるで宙に浮いているような視覚効果を実現した。
なお、本作はこの機構を地板からは2.2mm高く、アベンチュリン文字盤からは0.9mm高くなるように持ち上げられている。しかしトゥールビヨンを加えた全体のムーブメント厚は7mm、ケース厚は10.2mmに抑えられている。
“シデラルという名称の由来”
本作は複雑機構への敬意を示すだけでなく、“トゥールビヨン”という名称そのものの語源をたたえるものにもなっている。モデル名に着けられた“Sidéral(シデラル)”は宇宙空間に関連するワードで、星々の世界や天体運行の正確性、太陽ではなく恒星の定位置に基づく時間測定と結び付いており、宇宙とその法則に関連する、より厳密な時間の概念を示唆している。
トゥールビヨンがブレゲの天文的発展を想起させるモデルに搭載されたのは、歴史的背景にも合致している。現代での“トゥールビヨン”の意味は、その語源に非常に近い「高速で円運動するもの」だ。しかし、17~18世紀には異なる意味合いを持っていた。当時、数学者ブレーズ・パスカルはトゥールビヨンの意味を「回転運動を伴う物質的システム」へと拡張した(1647年、デカルト『哲学原理』)。それ以来、トゥールビヨンの概念は惑星系にまで適用され、天文学と直結することとなったためだ。
アブラアン-ルイ・ブレゲは若い頃、パリのコレージュ・マザランに通い、優れた数学教授のマリー神父の下で学んだ。ふたりは数十年にわたって親交を続け、それが未来の時計師をやがて天文学の研究へと導く原点となった。コレージュ・マザランで修めた課程によって、ブレゲは時代の先を行くエンジニアになり、科学的教養を身に着け、後に彼は科学アカデミー(コレージュ・マザランの地所に設立)の会員になっただけでなく、天文学の多岐にわたる分野の全般に関わる経度委員会の委員も務めた。彼は人生を通じて天文学者のラランド、ビオ、ニコレ、カッシーニ、フランソワ・アラゴと親しく交際。若い天文学者のアラゴとは科学アカデミーで知り合い、天体望遠鏡の接眼レンズに装着して時間計測を可能とする天文計測機を提供したのであった。
宇宙を思わせるアベンチュリンエナメルの文字盤
そんな、クラシック トゥールビヨン シデラル 7255が生み出された天文学と結び付いた背景は、文字盤の装飾からも見て取れる。ブレゲ・マニュファクチュールでは初採用となる、ゴールドのベースに重ねたアベンチュリンエナメルが用いられている。天文学や星空の観測に敬意を表したその深いブルーにちりばめられた銅の細片は、天空に輝く星を思わせる。
アベンチュリンエナメルの技法の歴史は、17世紀までさかのぼる。銅の細片が加わるガラスがまさに星空の印象をもたらすこの技法は、当時から絶えず改良されてきた。ブレゲは本作のために、グラン フー エナメルのような作業を選んだ。つまり、ガラスを粉末にするという製法だ。最終的な組成には繊細にサイズを選ぶ必要があり、また、アベンチュリンの粉末が伝統的なエナメルの粉末よりもわずかに大きな粒子を持っていなくてはならない。次にそれらを一緒にして摂氏800度以上の炉に入れ、この文字盤を最低でも5回連続して焼く。1回ごとの焼成は極めて繊細だ。時間が長すぎても、温度が高すぎても、満足のゆくような結果が得られないためだ。しかしふたつの世界が融合して出来上がった本作の文字盤は、エナメルガラスの深い単色のブルーと星を象った銅の細片のきらきらとした輝きをまとった。文字盤ひとつひとつは手作りであるため、限定50本生産の本作は、それぞれがユニークピースと呼ぶのにふさわしい。
なお、本作を実現するため、文字盤の設計、製造においても新たな手法が開発された。この文字盤は立体的な縁を持つゴールド製の基盤や、ゴールド製のトゥールビヨンを囲むリングなど、複数の要素で構成されている。これらの要素が立ち上がり壁となり、文字盤の縁を閉じる役割を果たしている。この構造によって、アベンチュリンエナメルを施す際に、エナメルを丁寧に積み重ねていくことが可能になった。
アワーサークルやアプライドによる「Breguet」と「Tourbillon」のロゴ、そして時刻を示すアプライドのブレゲ数字が、いずれもブレゲゴールド特有の温かみのある輝きを放ち、文字盤は視覚的な美しさを楽しませてくれるだけでなく、「ミステリー」においても重要な役割を果たしている。前述の通りその背後にはキャリッジを駆動する機構が隠されており、外からはまるで宙に浮いているかのように見え、ムーブメントの他の部分とは視覚的に接続されていないという印象を与えるのだ。
18Kブレゲゴールド製ケースも特別感にあふれる
本作は18Kブレゲゴールド素材でつくられていることも特徴だ。この独自のゴールド合金は、創業250周年記念モデル第1弾の「クラシック スースクリプション」で披露された。75%のゴールドにシルバー、コッパー、パラジウムが配合されたこの18Kゴールドは温かみのあるローズ色を備えており、変色しにくく、時間が経っても安定した性質を維持する。ちなみに色味はブレゲを含む18世紀の時計師たちが用いたゴールドから着想が得られている。
ケースのコインエッジ装飾、ロウ付けによる直線的なラグ、「くり抜かれたリンゴ」とも呼ばれるブレゲ針などの伝統的なデザインコードもすべてそろい、文字盤にはブランドのシークレットサインが施される。加えてケースバックには1/50から50/50の限定個別番号が加わることで、限定モデルであることが分かる特別感をオーナーは楽しめるだろう。